プロローグ
――まただ。
狼が翼を生やしたような怪物を見ながら、そう少女は思った。
その怪物は少女の右腕をまるまる一本食いちぎった。ぶちぶち、と神経回路の一部が切れる音がした。
「痛い、痛い、痛いぃ!!」
傷口から朱色の液体が勢いよく噴出し、床と少女の全身が朱色まみれに染まっていく。
怪物は犬がボールで遊ぶように、食いちぎった右腕を壊していく。
――意識が戻ってから、壊されるのは何回目だろう。怪物は鋭い牙を左脚に突き倒し、ゆっくりと切り落とす。
やっと痛覚回路がいかれてれたのか、痛みが消えてくれた。
朱色の返り血を浴びながら、狂ったようにはしゃぎながら、ぐしゃぐしゃと左脚を壊していく。
こいつらは壊すことを楽しんでる。もう嫌だ、こんな思いをするくらいなら生きたくない。そう思っても、この首輪が有る限り死ねないのだけど。わたしには壊せない首輪。
――誰かわたしの代わりに壊してくれないかな。
いつの間にか少女の体重は半分近く失っていた。
怪物は首元に牙を刺した。それは先程のように深くではなく、ちょん、と浅く刺しただけだった。
すると、痛覚回路が自己修復されていく。
「やだ、やだ、痛い、痛いよ、助けてぇぇ!!」
少女に激しい痛みが再び走り始める。
怪物は喜ぶように牙を左腕に向けた。
――お願いだから、誰かわたしを殺して。
少女の意識はここでショートした。
少女が目覚めるとベッドの中にいた。身体のほとんどが失われていたはずなのに、何事もなかったように、元に戻っていた。
「目覚めたか」
怪物は電波を通じて話しかける。
「単独で地球に行ってもらう。いいな」
嫌だ。なんていえない。少女はこいつらの命令には絶対服従なのだから。
少女は怪物を睨みつけた。怪物は、それを気にせずに踵を返す。
――しかし、よく考えてみれば、これはここを逃げ出すチャンスなのかもしれない。
単独行動なのだから、無理な事ではない。
少女はにこりと笑った。