メールにて
その晩、夕飯を済ませた後、初めて自分の携帯の存在に気付いた。
今まで携帯を忘れることなんてなかったのだが、この二日間いろんなことがいっぺんにありすぎて、そこまで頭が回らなかったのだ。
机の上を見てみると、充電スタンドの上におとといのまんまきっちりと置いてある。手に取ってみると、確かに以前持っていた物と全く同じだった。傷の痕さえも・・・。
おそるおそる開いてみると、メールが何通か溜まっているようだ。それも仕方のないことだ。二日間も放置しておけば、そりゃあメールだって溜まる。
しかし、俺はすぐにはメールを開かずに、先にメモリーを開いてみた。いったいどんな友達がいるのかと、とても気になったのだ。ア行から順にゆっくりと登録されている名前に目を通してゆく。まるで聞いたことのない名前がいっぱいだ。
もちろんリューチ、哲平の名前もしっかり入っていたが、妙に引っ掛かることが一つある。男子の名前交じって、女子の名前も多数入っているのだ。俺ってもしかしてタラシ!?そう疑いたくもなる。こうも多く入っていると、そういう考えがどうしても頭から離れなくなってしまうのだ。そして、ヤ行まで行き着くと、俺は思わず手を止めた。
なんと、山崎実咲の名前までもが、きっちりと登録されていたのだ。ますます今の自分がわからなくなる・・・。呆然としながら、二日間のメールを見ようとすると、六通も溜まっていつことに気が付いた。一通はリューチかただった。どうやらおとといの夜に送信してきたらしい。
“明日遅刻すっからヨロシク”
っとまあシンプルな内容のメールだった。もう一通は哲平からだ。
“あしたの昼飯は食堂にしよ♪”
三通目は隣のクラスの小田というヤツからで、
“借りた数学のノート、もう一日だけ借りててもいい?”
ってことはおい、今日持って来なかったな、このヤロー!あとの三通は全部あの実咲から来たものだった。これには驚いた。まさか、自分のメールアドレスを知っていたなんて・・。
“コーキくん今何やってるの?”
っというメールから始まり、
“ごめんね、寝てたら。実咲ちょっと眠れなくてさ*”
“ねえねえ、コーキくん来週の日曜日空いてる?もし空いてたら一緒に遊ばない?哲平くんと 重家くんも大歓迎だよ☆こっちは今のとこ女子三人なんだ♪返事はいつでもいいよ!おやす みなさい“
っという内容で終わった。日付は昨日だ。今日の日付のメールは一通もない。しっかし、実咲がどんなに積極的な子かがよくわかった。
以前の自分にこんな度胸があっただろうか・・。慌てて今までの受信箱のメールを調べてみると、度々実咲からメールが来ている。
それに対して自分がどんな返信をしているのかと読んでみる。
“コーキくんは今好きな子とかっているの?”
“今んとこいないかな”
いやはや、以外にきっちり返信しているものだ。
“じゃあ、まだ実咲にもチャンスはあるってことだよね!”
“山崎さんっておもしろいね〜(笑)”
なかなか俺も巧く返しているとは思うんだが。まあとにかく、これを読んでわかるように、実咲の方は確実に自分に好意を抱いている。でも、俺自身はうまく誤魔化して、そのことに触れないようにしていたようだ。俺も哲平たちが言うように、どうも実咲が苦手なのだ。今度の誘いに応じるということは、実咲の猛アタックに応えるということになる。ここはぜひ断っておきたい。
“日曜のことなんだけど、予定がもう入ってるから、せっかくだけどごめんね”
っという文を打ち終わった後に、ついつい相手を気遣って、“またの機会に”と付け加えてしまう自分が結構虚しい。やっぱり以前の女の自分から見た目は変わっても、性格はそのまんまだ。どうやっても相手の気持ちを考えると、言いたいことが半分しか言えないところが、相変わらずである。本当に、ここだけは治しようがないものなのか。




