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その夜、私は不思議な夢を見た。

昼間おばあさんに印象的な話を聞かされていたせいか、眠るギリギリ前までこの本に没頭していたせいだかわからないが、この本の主人公の青年が突如現れたのだ。これまた不思議なことに、夢の中だというのに私は思ったことを思い通りに話すことができ、昼間のことや本の内容も全てが思い出せた。


「君は僕が思った通り、本当に心の優しい人だね。」

夢の中に出てきた青年は私に話しかけた。

「でも、君はとても大きな後悔をしているね?」

私は頷いた。

「今まで僕が見てきた人達は、みんなこの本を読んだ後は悩みも消えてとても元気になってく

 れた。」

青年はし図かに歩み寄ってきた。

「でも君は・・生まれてくる以前に根本的な間違いをしてしまったと悩んでる・・・。」

私の中で衝撃が走った。

「どうしてそれを・・・?」

青年は切れ長のすっとした目でじっと私を見つめた。まるで、全てを見透かしているかのように。

「僕が読む人に直接接触するのはこれが初めてだ。びっくりしたかい?」

青年は悪戯っぽい顔でおどけて見せた。

「うん、ちょっとね。」

私に余裕があることを確かめた青年は、突然話を切り出した。

「君にぜひもう一度だけ機会をあげたい。もし君が望むなら、その・・僕はその願いを叶えて あげることができる。」

青年は手の平から金の小さな粒を出した。

「機会って?」

機会とはもしかして、男として人生をやり直すことなのだろうか。もしそうだとしても、これはどうせ夢なんだ、もらえる物はもらっておいて損はないか!目が覚めたら現実の世界に嫌でも引き戻されることになるんだから。

っという心の声に後押しされて、私はとうとう言ってしまった。

「お願い!もう一度だけチャンスをちょうだい!」

青年は手の平の上の金の粒を指差した。 

「これを食べて。」

私はその粒を受け取ると、いっぺんに口の中に放り込んだ。そしてごっくんと飲み込んでしまった。


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