一
やっとのこさ一話更新
俺が組織で幹部なんてする事になったのは特に対した理由は無い。
三年前、まだ俺が高校二年だったあの日、中学から付き合っていた幼馴染みに他に好きな相手が出来たから別れてくれるよう言われたのだ。その相手が長年の親友であったこともあり、俺は動く屍の如く何も考えることなく街を徘徊していた。
その頃には悪の組織『ラグ何とか』と名乗る連中と正義の味方『ムー何とか』と名乗る連中の小競り合いやらで街の治安が悪化していたので、夜に一人で出歩く人はかなり減っていて、俺も普段は面倒事に巻き込まれないよう注意を払っていたが、その時は只々歩くだけの存在だった。
そんな時、不意に後ろから声を掛けられ何も考えずに振り返ると、そこには被っている帽子から履いている革靴まで黒一色に統一されたスーツ姿の男がいた。何の知識も無い俺が一目見ても男が身に付けているモノが最高級品であるのが分かる。
その時に男と何を話したのか覚えていない。気が付いた時には、祭壇みたいなのに寝かされており、あの男が大声で笑っていた。男は俺が気が付いたのに気付きこう言った。
『ようこそ、ラグナロックに!歓迎しましょう新たなる主の眷属よ!!』
「あん時にまっすぐに家に帰ってやけ酒でも飲んでりゃあ今よりマシだったのかねぇ…」
広く豪奢な執務室を埋め尽くすかの如くに積まれた書類を決裁しながらボソッと呟く。
「いやいや、あのままでいても立ち直れずに自殺、よしんば立ち直れたとしてもその頃には人生的に色々と手遅れでしょう。人選に引っ掛かるのはその様な人間だけですし」
「そうだとしてもこんな山積みな書類を片付けるよかマシだと思うがな」
「それは実に贅沢な思い込みですね。実際にその様な立場に立てばソレが間違いと気付くでしょうが、残念な事に『ラグナロック』の幹部で有る限りは無意味な仮定でしょうね」
「お前やアイツがキチンと自分の分の書類を決裁すればこんな事を言わずにすむんだがな《スカウトマン》」
俺が仕事をする横で紅茶を飲む相変わらず黒ずくめの男を睨み付ける。
「《スカウトマン》とはよそよそしいですね。名前で呼んでくれても良いのですよ、オロチ。ですが、彼女はいつもの通りに前線へ、私は貴方が揶揄した通りに新たなる人員を確保する仕事があります。特に戦闘員の消耗が激しいですし、貴方にもコレばっかりは納得して頂くしかありませんね。」
「そんなことは分かってる、手が空いててもやらないのもな。言ってみただけだ。ソレよりも怪人共の造形はもう少しどうにかならないか」
「おや、何か問題でもありましたか?我ながら良く出来ていると思うのですが」
「確かに良く出来ている。男性型なぞ見ただけで子供は泣くし、夜なら大人でも腰を抜かすだろうが、問題は女性型だ!前から思ってたが、何だあの動物や怪物を擬人化して女性化させたようなデザインは!!お前の趣味か!?」
「????この国ではああいうのが一般的なのでしょう?貴方の名前もそうですが、一応この国の文化に合わせたつもりなのですが…」
「それは一部のサブカルチャーだ!ネットで正義の味方の連中が女性型ネコ怪人を倒した時の動画が上げられてたが、殆どの奴らが正義の味方を叩きまくってたぞ。ダム崩壊を阻止したのにな」
あれを見たときには流石にあの連中に同情したわ。もう少し労ってやれよ。そんなに美少女が好きか?
「ふむ、ですが人気が取れるなら別に良いでしょう。貴方が昔ながらの戦隊モノを好んでいるのは知っていますがね」
「だがなぁ、やはりそれっぽく無いだろ。悪の組織的に」
「貴方の認識が古いのですよ。それに怪人達の役割は陽動と目眩まし。我々の真の目的の前には怪人の姿形などどうでもよいのです」
「まぁ、確かにその通りだな。だがそれだと男性型も人の形でいいんじゃ?」
「男は別に良いでしょう。人型にしても何の楽しみもありませんし」
「やっぱお前の趣味じゃねぇか!!」
「書類が一向に減らねぇ」
《スカウトマン》が帰ってから三時間ばかり過ぎたが山積みの書類はその勢力を衰えさせる気配すら見せない。
「今日はもう止めてアイツを現場から呼び戻して半分押し付けるか」
ペンを置き、何か飲み物を持って来させようと呼鈴を鳴らそうとしたら、突然辺りに感じたことの無い魔力が充満した。
「っ!!!!!!」
認識し回避しようとした時には俺は愛着のある執務室から消え失せていた。
戦闘員や怪人の造り方
1.まず負の気が溜まりに溜まった人間を拐う
2.《スカウトマン》が『主』の魔力を人間に注入
3.魔力と人間の魂が拒絶反応を起こすため外部から操作して安定させ定着させる。その際どれだけ定着したかによって分岐(AorB)
A.殆ど魔力が定着せず特に肉体的変化も無く身体能力のみが上昇→洗脳を施し戦闘員に
B.ある程度魔力が定着し肉体が変化→《スカウトマン》が造形を整え洗脳を施し怪人に
例外的に魔力と魂が拒絶反応を起こさず融合→幹部に