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転生したら便所のスライムだったという悲劇

掲載日:2026/04/14

前世の日本には、

『大は小を兼ねる』ということわざがあったが・・・。


ブリブリッ・・・


ボタボタッ!


ジョロロロロ~・・・


ビチャビチャッ!


『あれは・・、

こういう意味だったのか・・・』


頭上から落下してくる大便・・、

それに続き降り注がれる小便・・・。


それらを全身で()()しながら、

俺はつぶやいた・・・。


――今の俺は、スライムだ。


つい最近まで平凡な日本国民だったのだが・・、

どうやら死んで異世界に転生したらしい。


しかも、

森で目が覚めたとたん、

剣や魔法を使う連中にボコボコにされ、

気が付いた時には、

とある便所の下にあるタンクの中という・・・。


ここで、

上にある便器の穴から落ちてくる()()を吸収して、

便所を綺麗にするのが今の俺の役割だ・・・。


人間だった俺の・・・。


『畜生・・・』


『???』


『?』


『・・・?』


思わずもれた言葉に、

タンクにいる他のスライムたちが反応する。


目も耳も手も足もない、

巨大な水まんじゅうみたいな身体で、

プルプルと疑問の感情を表現する。


『そうだよな・・、

お前たちは元からスライムだもんな・・・』


『??』


『?』


『・・・?』


『人間だった俺が、

毎日ウンコやションベンを浴びせられる気持ちなんて、

分かるはずないよな・・・』


スライムたちに八つ当たりする、

元人間の俺・・・。


そんな俺を含むスライムたちに向かって、

新たに上から汚物が降り注がれる。


ボタッ・・ボタッ・・・


ジョロロロ~・・・


スライムの身体は、

それを全身で吸収する。


本人(おれ)の意思とは関係なく。


『畜生・・・、

くそったれ・・・』



――どれくらいの時間が経っただろう。


ある日、

転機が訪れた。


ビチビチッ!


チョロロロ~・・・


俺たちスライムは、

いつも通り上から降ってくる汚物を浴びていた。


すると、


「あっ!」


『え?』


便器の上から、

汚物の主と思われる声が聴こえた。


と同時に、

俺の頭(?)に何やら汚物以外のものが落ちてきて、

かすかにジュッという身体の焼ける感じがした。


『これは・・煙管(キセル)?』


どうやら、

くわえながら用を足していたら落としてしまったらしい。


「ああ、くそっ!

高いやつなのに・・・」


などと、

便器穴の上から、

持ち主らしき男がこっちを見て毒づいている。


『なるほど・・・』


確かに、

金ぴかの高価そうな品だ。


『残念だったな、オッサン。

ほらほら・・・』


これまでの事で、

完全にやさぐれていた俺は、

男に煙管をふって見せた。


「この・・スライムが・・・」


『いただきま~す♪』


そう言って俺は、

このスライムの身体に煙管を沈めた。


シュワシュワと音を立てながら、

金か何かでできた高価な煙管は、

瞬く間に体内で溶けていった。


男は愕然(がくぜん)とした顔でこちらを見ている。


ざまあみろだ。


『ごちそうさまでした~♪』


「こ、この野郎!!」


男が便器穴から顔をひっこめると、

バン!と便所を出ていく音がした。


『あ~、

少しだけすっきりした・・・』


だが、

それで終わりではなかった。


再び扉の開く音がして、

男が顔を見せると、


「死ねっ!!」


男は便器穴を通して何かを突き入れてきた。


『うわっ!』


反射的によけたそれは、

細長い棒だった。


物干しざおでも持ってきたのか、

数メートル下のタンクの底にまで届いてきた。


「この野郎!

スライムの分際で・・・!

死ねっ!

くたばれっ!!」


男は完全にキレているのか、

タンクの中をかき回すように、

棒をグルグルと回し続けた。


『ピィッ!!』


『ピ・・・』


『ピギッ・・・』


他のスライムたちが、

次々に叩き潰されていく。


俺だけは何とか、

タンクの隅へと避難できたが・・・。


『ごめん、

皆・・・』


何故か申し訳ない気持ちになった・・・。



――しばらくすると嵐のような攻撃もおさまり、


「――ハアッ・・ハアッ・・・。

やったか?」

などと、

荒い息遣いが聴こえてきた。


棒の動きも止まった。


便所穴からタンクの底へと続いたまま・・・。


『これは・・・!』


チャンスは今しかない!


俺は素早く棒に引っ付くと、

木登りのように上へと昇りだした。


「なっ!?

この・・・」


それに気づいた男が、

慌てて棒を振って引きはがそうとする。


だが、


『もう遅い!』


便器穴近くまで昇ってきた俺は、

棒から飛び跳ね脱出した。


――やっと出られた・・・!


「なっ・・ななな・・・」


『オラア!!』


「ぐべっ!」


そのまま男に向かって体当たりをくらわせると、

あっさりと壁際まで吹っ飛び気絶した。


『よしっ!!』


俺はそのまま、

開いた便所のドアを抜け逃走した。


廊下に敷かれた赤いじゅうたんに沿って、

俺はポンポンと全速力で飛び跳ねていく。


やがて、

見た感じ屋敷の玄関のような場所に来た。


目の前には、

重厚な両開きの扉が立ちはだかっている。


『このっ、開けっ!!』


バン!バン!と、

扉に全力で体当たりを繰り返す。


だが、

スライムのこの身体ではとても開きそうにない。


・・バスケットボールを体育館のドアにぶつけているようなものだ。


「何だ!?

今の音は・・・」


「玄関のほうだわ!」


屋敷の人間たちの声も近づいてくる。


『くそっ!

ここまで来て・・・』


外は目の前だっていうのに・・・。


「げえっ、スライムじゃないか!

しかも、ヘドロみたいな色をして・・・。

まさか、トイレの中から這い上がってきたのか!?」


「いやっ!!

不潔!!!

汚らわしい!!!!

早く殺して!!」


現れたのは、

便所で()()()男の家族どもだろう。


顔と・・体型がそっくりだ。


「旦那様、奥様!

お離れください!

すぐに始末いたしますので!」


そう言って、

いかにも執事らしき格好のおっさんが、

剣を抜いてやってきた!


『やべ・・・』


慌てて俺は扉のノブに飛び乗った。


「む・・・」


『ふふふ、どうだ?

俺を攻撃したら、

ドアノブも壊れるぞ!』


カッコいい彫り物もしてあるし、

高価なドアノブなのだろう。


ためらいを見せる執事男。


だがその時、


「ち、父上!

そいつ、

俺を攻撃してきたんですよ!」


便所でのしたデブ男が、

よたよたとこっちにやってきやがった。


それを聴いたデブ主人は、


「なんだと!?

おのれ、

汚らわしい魔物の分際で・・・」

と、

怒りをあらわにし、


「構わん、斬れ!

扉が傷ついても構わん!!」

と、

執事男に命令してきた。


息子(パラサイト)デブめ、

余計な事を・・・!


「はっ!」


言われた執事男は、

剣を大上段に構えて向かってきた!


もう逃げ場はない!


『こうなったら・・イチかバチか!』


俺は全神経(あるのか?)を集中させた。


振り下ろされる刃をよける事なく受け止め、

そして・・・、


『いただきま~す!!』

と、

全力で消化をし始めた。


体内まで斬りつけた刃は、

そのまま俺の中で溶けていく・・・。


「なっ・・・」


切っ先を()()()()剣を見て、

デブ家族たちも驚いている。


毎日毎日、

大小問わず汚物を食らい続けていた結果だ。


1秒でも、

一瞬でも早く まとわりついたそれらを消したくて身に付けた消化スピード・・・。


『一日たりとも休まず食らい続けた汚物の境地・・・』


それが今、

俺の命を救ったのだ・・・!



(待てよ・・・)


俺はふと思いついた。


(剣も煙管(きせる)も消化できるんだから・・、

ひょっとして この扉も・・・)


俺は趣味の悪いデザインの扉に意識を集中した。


すると、


「あれ・・ママ、

そのスライム・・・」


「ああっ!

扉が・・扉が溶けているわ!!」


「よせっ、やめろ!

その扉は・・彫刻にいくらしたと思っているんだ!!」



『知るかバカ』


俺はデブ家族を無視して、

どんどん扉を()()()いく。


「何をしている!

早くそいつを押さえつけんか!!」


「嫌です!!

だって、

トイレでウンコを食っていたスライムですよ!!」


デブ主人の命令を、

ためらいなく拒否する執事。


『麗しい主従関係ですな~』


思わず笑顔になりそうだよ。


スライムだけど・・・。


ま、

それはともかく、


『はい、

貫通~♪』


とうとう俺は、

扉の向こうまでたどり着いた。


なつかしい日の光が、

この濁り切ったスライムの肌を射す。


「ああっ!

父上、

あいつ逃げちゃうよ!!」


「捕まえろ!!!」


「嫌ですっ!!!!」


コントを繰り広げるデブ一家をしり目に、

俺はそのまま駆け出した!


石畳の玄関から庭園を抜け、

鉄門をくぐると・・・。


そこには、

道が、家が、

異世界の街があった。


『やった・・、

やったぞ・・・!』


舗装された石造りの道で、

俺は感動に打ち震えた。


スライムでなければ、

きっと大泣きしているだろう。


『よし!

これからは夢だったファンタジーライフを・・』


ガラガラガラッ!


プチッ。


その時、

何か大きな衝撃が全身を襲った。


『あれ・・・?

何で・・急に・・真っ・・暗・・に・・・』


そのまま、

俺の意識はとだえた・・・。




~~~~~~~~~~


ガラガラガラッ!


街の通りを一台の馬車が走る。


御者の男が、

後ろを振り返ってつぶやいた。


「くそっ、

あんなでかいウンコをひいちまったよ・・・」



〈激臭・・もとい、劇終〉

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