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ファンタジーの時代はおしまい  作者: れいてんし
第三章 守るべき国なき兵士
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3章2話 「蒼い剣」

 石畳に叩きつけられた聖母像は、三つに割れていた。


 白い石膏の断面が朝の光を反射して、やけに清潔な色をしている。


 広場に散った破片を、鳩が食べ物と間違えたのか、ついばんでいるが、すぐに食べ物ではないと分かったようで、飛び立っていった。


 ラルカ旧市街の大聖堂前。


 正面階段の上では、黒衣の修道士が数人、政府の役人と向かい合っていた。

 役人は書類の束を手に、淡々と読み上げている。


「――共和国政令第十二条に基づき、当該施設および付属資産を国有財産として接収する。目録の確認にご協力を」

「この聖堂は四百年、この街の民とともにある。紙切れ一枚で持っていけるものではない」

「法的手続きに従った接収です。抵抗は――」


 役人は感情がなかった。


 怒ってもいないし、申し訳なさそうでもない。

 淡々と書類を読みあげて手続きを進めている。


 よく見ると、役人の胸には税務官の徽章(きしょう)があった。


 エルネストは広場の端で、その押し問答を横目に見ていた。


 聖堂で何が有ったのかは定かではない。


 役人は上の決定に従って手続きを執行しているだけで、落ち度はない。


 聖堂も無罪を主張しているが、エルネストは書類の内容を読んだわけではない。

 ここで割り込むのもおかしな話だ。


 それよりも気になるのは、その脇にいた者たちだった。


 教会の側面。

 狭い路地から、共和派の赤い腕章をつけた男たちが入り込んでいた。


 腕章こそ統一されているが、服装がバラバラで、政府関係者には見えない。

 だが、書類を読み上げている役人が無反応なのは、事前に話が通っているからだろう。


 6人の男たちは、扉を蹴破るほどの乱暴さもなく、吸い込まれるように中へ入っていく。


「日雇いの人足だろうか?」


 共和国への移行で人不足を解消するために、強制執行のために民間人の作業員を雇った。

 これならば理屈が通る。


 しばらくして、脇扉から聖像が引きずり出されてきた。

 木製の大きなもので、男が二人がかりで抱えている。


 遠目で見てもそれほど緻密な彫刻ではない。


 素材も新しく、像自体にも劣化による汚れがない。

 比較的最近に作られた聖像だろう。


「強制執行にしてはおかしい。そんな像を売ったところで金になるとは思えないが」


 男たちは、その木造を石畳の上に放り投げると、その衝撃で鈍い音が鳴った。


 石畳に像を投げ付けて破壊した男たちは、それで用事は済んだとばかりに、またも建物の中へ入っていく。


 今度は他の連中が、絵画やら壺やらを運び出してきた。


 またも破壊するのかと思えば、今度は丁寧に白い布を巻いて、近くに停めていた荷車に乗せ始めた。


 役人はそちらを見ることなく、淡々と書類を読み上げている。


 明らかに王都で何かが起こっていた。


   ◆ ◆ ◆


「今日だけで市内3か所だ」


 エスピナは石段に座ったまま、手帳を開いて言った。


「聖堂に礼拝堂、それから修道院。全て同様だ。税務官が正面から入って書類を読み上げた後に、赤い腕章の連中が金目の物を奪っていく」

「聖像を破壊している理由は?」

「分からない。見当も付かない」


 エスピナは首を振った。


「役人が持っている書類が読めれば何か分かるかもしれん」

「今度見かけたら、声を掛けて書類を読ませてもらう。もしも役人の暴走による私掠ならば、上申する」

「上申と言ってもどこにだ?」


 エルネストは視線を宙に漂わせた。


 政府官庁は、王国から共和国になったことで、まだまだ混乱している。


 動いているのは国税庁のようだが、現行政府の中で、指揮系統がどうなっているのかが分からない。


 受付が分からなければ、訴えようがない。


「見方を変えよう。聖職者が目の敵にされている理由に心当たりはあるか?」


 エルネストにも思い当たる節がない。

 ただし、役人が税務官だと仮定すれば、推論は立てられる。


「王国は、聖職者に対しては税を免除していた。それを悪用して、悪徳な聖職者が、集めた寄付金を投資に活用して儲けたり、商人や貴族の税逃れのロンダリング先に利用されているという噂は以前から有った」

「坊主丸儲けという言葉通りか」

「もちろん、清貧を唱えて、わずかな寄付金で何とかやり取りしている施設も多い。ラウルが幼い頃に世話になった下町の孤児院もそれだ。今は私の寄付で維持している」

「それが、新体制になって、課税対象になったと?」

「高価な美術品を運び出している理由としては、それくらいしか思い当たらない。そもそも教会に高価な美術品があるのはおかしいという理屈も分かる。だが、聖像の破壊は理解不能だ」


 像を破壊しても金にはならない。

 むしろ、民間の信仰対象を破壊などすれば、共和派の評判は下げるだけだ。


「俺の方でも当たってみよう。連中が何者なのか分かれば、動きやすくなる」

「頼む。私の方でもつてを当たってみる」


   ◆ ◆ ◆


「やめてください。ここにはお金はありません」

「法的手続きに従った接収です。ご協力ください――」


 孤児院のシスターが食い下がるも、役人は淡々と書類を読み上げるだけだ。

 腕章を付けた男たちが、孤児院の中へ子供を押し退けて中へ入っていく。


 そして、男が小さい石像を中から運んできた。

 それを地面へと叩き付ける――付けたはずだった。


 石像はまるで生きているように宙に浮かび上がり、孤児院の前に着いたエルネストの目の前に移動した。


 念動魔法。

 手に触れずに近くにあるものを動かすことが出来る魔法だ。


「私はこの孤児院の支援者だ。話を聞かせてもらう権利はあるはずだ」


 エルネストは像を宙に浮かべたまま、役人の前に歩いていく。


「私は治安警備隊のエルネスト・サラサールだ。貴君も所属を名乗られたし」

「共和国国税局のカセロです。この孤児院に未納の税金があると確認いたしましたので、強制徴収に参りました」


 カセロの服には王国公式の徽章(きしょう)が付けられていた。

 騙りではなく、本物の税務官のようだ。


 エルネストは、カセロが手に持ったままの書類を読んだ。


 書式自体は王国で使用されたものなので見覚えがあった。


 税の未納時などがある場合に、税務官が強制徴収を履行する際に作成されるものだ。


 正式な書類には印があるはずだが、そこには何もない。


 ただし、共和国側の制度が追い付いていないだけの可能性もあるので、追及はしない。


「この書類ですが――」

「――存じております。私も少なからず王国法については心得ております」


 カセロが書類の説明を始めようとしたところ、エルネストが割り込んだ。


「孤児院の出資計算表は毎月提出しているはずです。そして、その書類には不備があります」

「そんなものは……」

「出資計算表は旧王国の国税局に提出済みです。恐れ入りますが、まずはそちらを確認した上で、書類を再作成ください。税の二重徴収が執行されたとなると、王国法によって貴方が罰せられる可能性があります」

「だが、王国法は……」

「共和国法はまだ正式に交付されておらず、来年度までは、暫定で王国法が適応されます。これは共和制移行決議で初代首相、ルイス・マルティンから公式に表明されています」


 エルネストが先回りして主張を潰していくと、カセロはすぐに黙り込んだ。


 カセロは「また来ます」と言う言葉と共に、腕章を付けた連中に合図をして、そのまま一緒に去っていった。


「助かりました」


 男たちが去ったことが分かったのか、孤児院の中から子供が何人も飛び出してきた。


「それよりも怪我はありませんか? 子供たちも?」

「私たちは無事です。子供たちも」


 子供の一人が「ラウルのオマケ!」と蹴飛ばしてきた。

 無事で間違いないようだ。


「人をやたら蹴ってはいけない」

「ラウルはどこー?」


 子供を諭そうとするが、ラウルのようにうまくいかない。


 それどころか、またも別の子供に後ろから蹴られて、エルネストは頭を掻いた。


「ラウルは慕われていますね。転属から、もう5年経つのに」

「毎週のように通われていましたからね。小さい子供たちも、まだ帰ってくることを期待しているようです」

「なるほど」


 エルネストはそれ以上語らなかった。

 革命軍で活躍しているラウルは、もうこの孤児院には戻らないかもしれないなどとは言えない。


「ところで、連中に心当たりは?」

「いえ、私たちには何が何やら」


 シスターも心当たりは全くないようだった。


 連中は、この孤児院だけを狙ったのではなく、宗教系の施設全てに手あたり次第仕掛けているのだろう。


「また連中が来たら、渡している出資票を出してください。寄付金は全て生活費に消えており、貯蓄はなし。税務官の印章付きですので、効果は間違いありません」

「ありがとうございます」


 子供たちの相手をしていると、老人が一人歩いてきた。

 孤児院近くに住んでいる住人のようだ。


「あんたも蒼炎隊だな。ラウルの仲間の?」

「ええ、そうですが」

「あのゴロツキの調査に来たのか?」

「ご存じなのですか?」

「役人の方は知らんが、腕章を付けた連中は、つい最近まで町の外れで仕事もせずにたむろしていた連中だよ。革命派のデモに混じって、ドサクサで強奪とかしてた根っからのワルだ」


 老人はただでさえ皺だらけの顔に更に皺を増やした。


「どういう理屈で共和派に取り入ったか分らんがね。連中を狙って蒼剣団(そうけんだん)も暴れてるらしいし、迷惑な話だ」


 ここで新しい名前が出てきた。


「蒼剣団というのは?」

「旧王国派を名乗っているが、実質、ただのゴロツキだよ。共和派を名乗る連中と抗争みたいなのをやってるが、やってることは大差ない。どっちも、過激なことをして目立ちたいだけの薄っぺらい連中だ」

「蒼剣団か……」


   ◆ ◆ ◆


 旧市街の酒場は、昼前から人が入っていた。


 観光客崩れの外国人と、職にあぶれた地元の男が混在して、どちらも等しく安い酒を飲んでいる。

 カウンターの端にエルネストは腰を下ろした。


 注文はしない代わりに、酒場のマスターに紙幣を掴ませた。


「共和派の赤い腕章を付けた男たちについて聞きたい」

「それは町のゴロツキだよ。共和派の過激派だろう。政府を傘に私掠をしてるのさ」


 老人と同じ答えが返ってきた。

 下町では有名な話のようだ。


「政府の役人と組んでいたようだが」

「共和国は人材不足で、誰でも拒まずだからな。当然変な連中も入ってくる。連中が宗教施設を目の敵にしてるのは、聖職者や地主は市民から不当に金を奪ってるからでって噂だ」

「連中の調査をしたいのだが、どこに行けば会える?」

「昔はそこらの廃墟を溜まり場にしてたが、そこは今は蒼剣団が使ってるよ」

「またその名前か」


 蒼剣団の存在は先ほど老人から聞いたばかりだ。


「蒼剣団は共和派とはまた違うんだな」

「俺たちから見たら違いはよく分からんよ。旗の色が赤か青かってだけだ。詳しくはそっちの男に聞け」


 マスターは無言でカウンターの真ん中に座る髭面の男を指さし、その男の前に新しいグラスを置いた。

 エルネストは、髭面の男の隣に移動した。


「蒼剣団は一応旧王国派を名乗って、共和派の連中と抗争してるから、一応は別口だな。やってることはほぼ同じだが。ただし、蒼剣団は刃傷沙汰(にんじょうざた)ありだ」

「剣? この銃が出回った時代に?」


 髭面の男はエルネストの方を見ないで、グラスを傾けながら言った。


「剣と魔法は王国四百年の歴史の象徴だからだろう。魔法はにわかじゃ使えないが、剣なら誰でも使える」


 男は酒を飲み干して立ち上がった。


「蒼剣団なら俺の方が詳しいぜ」


 別のパイプを加えた痩せた男が甲高い声をかけてきた。


 マスターに合図して、また新しい酒を置いてもらうと、男は「ヘヘヘ」と下品に笑いながら、グラスを掴んだ。


「蒼剣団の連中は、警察を気取ってるんだよ。社会がおかしくなったのは、共和派のせいだと理由を付けて、ひたすら暴れてる。ただ、共和派のゴロツキと違うのは、無差別ではなくて、ある程度狙いを絞っているってところだ」

「基準はあるのか?」

「俺たちからすりゃ、どっちも同じに見えるんだが、連中独自のルールがあるらしい」


 パイプの煙が天井に広がった。


「あとは――」


 男がわずかに間を置いた後に、エルネストの顔を見て、口を閉じた。

 何か言いたくないことがあるようだ。


「構わない。続けてくれ。今は少しでも情報が欲しい」

「いえ、以上です。噂なんで」


 エルネストは硬貨を一枚テーブルの上に置いた。


「続けてくれ」

「へい……蒼剣団は、王国のために戦わなかった蒼炎隊の代理だと主張しているらしくて。王家が儀式に使用した浅葱(あさぎ)色の布を旗印にしているとか。魔法じゃなくて剣を使うから、蒼剣団」

「王家の旗は浅葱色ではない。あれは四百年の歴史で色褪せて今の色になっただけで元は紺色だ。蒼炎隊の旗も同じだ。直さないのは、それが歴史の重みであり、時代に合わせて変わるのは悪いことではないと市民に伝えるという理念がある」

「そうなんですかい? みんな浅葱色だと思っていましたぜ」

「つまり、王国に対する知識はその程度でしかない、ただの便乗ということか」


 つまるところ、どちらも反政府のゴロツキでしかない。


「助かった。まずは居場所が分かっている蒼剣団を調べてみる」

「大丈夫ですかい? 連中はすぐに剣を抜くヤバい連中だぜ」


 エルネストは少し考えた後に答えた。


「問題ない」


   ◆ ◆ ◆


 教えてもらった廃墟に向かう途中で、エルネストは足を緩めた。


 建物の間の狭い場所に集まった男たちが、昼前から酒瓶を回していた。


 5人か6人。年齢はばらばらで、身なりも揃っていない。

 ただ一つだけ共通しているものがあった。


 全員が浅葱色の布を身に着けていることだ。


 外套の裏地、首に巻いた布、腰帯の端。

 全員が、どこかに同じ色を身につけていた。


 鮮やかな青緑は、かつて王家が式典で使った色に近い。


「お前たちは蒼剣団か?」


 呼びかけると、男たちは質問に対して、言葉ではなく、敵意のある視線を返してきた。


「私はエルネスト・サラサール。治安警備隊だ。何点か聞きたいことがあるので、答えて欲しい。もちろん情報量は払うつもりだ」


 男たちが「治安警備隊?」と呟き始めながら顔を見合わせた。


 それでもなお誰も言葉を返そうとはしない。


 それどころか、エルネストを警戒するように、少しずつ後ずさりしながら距離を取り始めた。


 その時、路地の反対側から、赤い腕章をつけた若い男が入ってきた。


 二十そこそこで、手に共和派の機関紙を抱えている。

 壁に貼って回っているのだろう。


 エルネストはその若い男の顔に見覚えがあった。

 カセロと名乗る男と一緒に行動していた連中の一人だ。


 若い男は、エルネストと目が合うと同時に、機関紙を胸に抱えたまま、来た道を戻って、足早に消えた。


 同時に蒼剣団と思しき連中も逆方向に走り出した。


「どちらを追うべきか?」


 少し悩んだ後に、共和派の方を追うことにした。


「待てっ!」


 若い男を追いかけるが、建物が歪に密集して並ぶ下町の道はまるで迷路だ。

 土地勘がなければ、自分がどちらを向いてどこに進んでいるのかすら分からなくなる。


 ここで、共和派と蒼剣団、どちらを追うべきか悩んだことが、勝負を分けた。


 男の影は何度か角を曲がった時点で見失った。

 逃走中に倒したであろうゴミ箱が横倒しになり、腐敗臭を残すのみだ。


「共和派に蒼剣団か……この町で、何が起こっているんだ」


   ◆ ◆ ◆


 夜のラルカは静かだった。


 昼間の喧騒が嘘のように、旧市街の路地に人影がない。

 石畳を踏む自分の靴音だけが響いて、妙に大きく聞こえた。


 朝に聖像が割られた広場の前を通ると、破片はまだ石畳の上に転がっていた。


 聖像を壊された聖堂の人間ですら興味を持たなかったようだ。

 本当に、ここに信仰は残っていたのだろうか?


 散らばった白い欠片の中に、聖母の顔の部分だけが、ほぼ原形を保って残っている。

 目を閉じた静かな顔が、上を向いたまま石畳に転がっていた。


 その顔を隠すように、一枚の紙が置かれていた。


 雨に濡れているわけでもないのに、端が少し丸まっている。

 風で飛んで行っていないのは、それが理由だろう。


 エルネストはかがんで、紙を拾い上げた。


 蒼い剣の粗い絵。そして、短い文字。


 ――王冠なき祖国に、剣を。


 文字は整っていた。この場で乱雑に書き殴られたものではない。


 事前に用意して、何者かへメッセージを伝えるために、わざわざここに置いたのだ。


 エルネストは紙を折りたたんで、内ポケットに入れた。


 共和派と蒼剣団とやらの調査の続きも必要だが、優先すべきは、このメッセージをエスピナに見せることだった。

 このメッセージを残した人間は、感情だけで動いていない。


   ◆ ◆ ◆


 エスピナの部屋の明かりは、まだ点いていた。


 扉を叩くと、すぐに開き、中から煙草の煙が廊下まで漂ってくる。


「こんな深夜にどうした?」

「見せたいものがある」


 エルネストは内ポケットから紙を取り出して、テーブルに置いた。

 エスピナが身を乗り出して、しばらく眺めた。


「整った字だな」

「感情で書い殴った字でもないし、ある程度の教養を感じる。共和派のゴロツキとは違い、蒼剣団とやらには、冷静に動ける人間がいる」

「絵は粗いのにな」


 エスピナが紙の端を指で叩いた。


「絵が描けない人間が、字だけは丁寧に書いた。面白い」


 煙草に火をつけながら、エスピナが続ける。


「共和派の腕章の連中は政府と連動して動いている。聖像を破壊している理由は不明だが、共和派社会党は、聖職者は不当に金を貯めこんでいる悪人だと見做して解体すべきだと主張している。それと関係あるかもしれない」

「他には?」

「蒼剣団は無差別ではない。何らかのルールを決めて、暴れている様だ。共和派を選んで報復している。凶器に剣を使うのは主義主張のためだ」


 エスピナが煙を吐いた。


「すぐに影響があるのは共和派が宗教施設を狙って起こす事件か」

「教会への介入が続けば、蒼剣団も止まらないだろう」

「どっちが鶏でどっちが卵か分らんな。だが、わざわざメッセージを残すくらい自己主張が強い連中だ。そのうち顔を出す」


 エスピナが煙草の火を灰皿に押しつけた。


「世間にメッセージを伝えたいのなら猶更だ。顔を出した瞬間を逃すな」


 エルネストは紙を折りたたんで、しまった。


 点と点を線で結べる部分と、まだ結べない部分がある。

 今はまだ、結べない部分の方が多く、情報は点のままで残っている。


「明日も動く」

「ああ、俺の方でも当たってみる。それと――」


 エスピナが立ち上がりながら言った。


 扉に手をかけたエルネストの背中に、声が届いた。


「――気をつけろよ。整った字を書く人間は、標的も整然と選ぶ」

「ああ、問題ない」


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