3.5
二学期の始業式後、生徒会室で新体制による最初の会議が開かれた。議題は『生徒会新聞11月号』の特集記事について。
9月号は発行済みであり、10月号の内容は既に決まっている。9月号は7月末に締め切られた生徒会役員立候補者の特集。こちらは夏休み中に作成し職員室にある各学級のロッカーに入れて、始業式の日に担任か担当の係から学級ごとに配布してもらった。毎号A4サイズの両面カラー刷りで作成する。カラー刷りでの配布という事で興味を惹くのか、有難いことに多くの者が配布時に目を通している様子を見かける。
既に、立候補者の受付は7月の終業式の日に締め切られた。一名の枠となる会長に立候補したのは、現副会長の緒方のみ。二名の枠となる書記に立候補したのは、いずれも現書記を勤めている桜井と自分。この三名は対立候補がいないため無投票当選となる。
副会長は二名の枠だが、男女合わせて四名が立候補している。会計も二名の枠だが、こちらには男女合わせて六名も立候補している。会長や書記の人気が無いというよりは、1年生の10月から働いている3名に対しての敬意があるのかもしれない。
そして、10月号は9月中旬に行われる予定の生徒会役員選挙の結果発表と、当選者の特集記事で確定している。
つまり会議と言っても、ここにいるのは三名だけだ。3年生の会長一名、副会長一名、会計二名は夏休み中に行われた生徒会交流会をもって既に引退をした。二か月も先の事に思われるかもしれないが、11月号に関しては、新役員に手伝ってもらうにも経験不足が否めないため、この三名だけで作成しなければならず、今のうちから検討しておく必要があった。
「一つは文化祭の特集記事かな」
副会長の緒方が口を開いた。11月に行われる文化祭の特集記事とは誰もが思いつきそうな案であるが、すかさず書記の桜井が反対意見を出す。
「でも、昨年の様子を見ると、文化祭実行委員会が素晴らしい冊子を作ると思うので、生徒会として文化祭の特集は、あまり大きくしない方が良いかもしれませんね」
「まぁ確かに……」と緒方が呟く。緒方と桜井は付き合っている。そのせいなのか、桜井の意見も辛辣だ。敬語で話す必要は無い関係だと思うが、一応生徒会役員会議の場という事で、この狭い空間の中で馴れ馴れしい話し方をしないのは自分にとっては助かる。
少しの間、考えに耽るような沈黙が訪れた。しかし、自分にはある考えがあったので、この沈黙を破るように発言した。
「各学年の成績上位の3名ぐらいに、それぞれの勉強方法を聞くのはどうでしょう。生徒会という立場からであれば、企画をしっかり練りこんだ上で提案する事で、先生方も理解してくれると思います」
「勉強法か。確かにうちは進学校だから、そういうのに興味のある生徒はいるだろうね」
緒方が相槌を打つように返答をした。
それに桜井が少し反論する。
「今の時代、個人情報にはうるさいと思うから、その辺りはどうします?」
この桜井の反論は予想出来ていた。本校は成績上位者を公にすることは無い。テストを返却される際に各教科と全教科の学年順位を記載された用紙をもらうが、それは本人にしか分からない。しかし、周りとの会話で情報は洩れるので、誰の成績が良いかという事は概ね理解している。ただ、桜井が言う通り、近年は個人情報にうるさいのは確かだ。ここは成績上位者本人の同意を得られるかどうかが鍵となる。
「まずは、学年上位者を各学年主任の先生に確認します。そのうえで、学年主任と担任の先生に事前に許可を得る事にします。その確認作業をした後に、本人に直接同意をとるために、休み時間などを活用して本人に直接伺う事にしましょう。生徒会役員として男女1名ずつで伺った方が親切なので、例えば自分と桜井さんで行く形はどうでしょう」
桜井はその場面を想像しているのだろう。何となく頷いている。そのまま話を続けた。
「そして、本人の許可を得て、放課後などに生徒会室へ来てもらう事にします。これも男女1名ずついた方が親切なので、自分と桜井さんは必ずいるようにしましょう。いきなり全学年は大変なので、例えば自分たちと同じ学年の2年生から始めるとします。そして、お話を聞いた後、こちらで作成した同意書二枚に直筆のサインを書いてもらう事にします。本人の同意を得た証を、学年主任の先生、担任の先生に渡すことで、お互いが同意した事になるかと思います」
他にも、幾つかの事項を付け加え、桜井の質問にも答えていきながら、この案が段々と固まってきた。
「良いですね。進めましょう」と緒方が同意した。
桜井も「では、やってみましょう」と納得してくれた。
この1年間、一緒に仕事をしてきて、この二人の傾向はよく分かっている。
緒方は副会長というポジションであった事もあり、意見はあまり言わない。ただ決断をして実行する力はあるように感じている。一方の桜井は、疑問に思った事は基本的に言う。しかし、納得が出来れば、必ず協力するタイプだ。この二人からの賛成があった時点で、この企画は上手くいくと感じた。
こうして、綿抜と話すことが出来る確約が出来た。綿抜が学年トップの成績だという事は同じクラスの柳本から聞いた。柳本が付き合っている渡辺とそんな話になったらしい。柳本は選挙管理委員を務めているので、2年生になってからよく話すようになったが、こうした話が聞けたことは幸運だった。
事前につかんでいた情報を活かすために、この案を出したが上手くいった。あとは、綿抜がこの話を断らないために、事前に各教員の許可を得る必要があるが、緒方の迅速な働きと、生徒会の依頼という事で拒否をする教員は誰一人としていなかった。
綿抜が生徒会室に来てから、基本的には桜井が対応している。緒方は他の仕事があるため不在だが、事前に質問内容はある程度考えてあるので、自分は綿抜の話をパソコン画面に打ち込む作業に集中できている。キーボードを見ずとも会話の内容を打ち込めるので、綿抜から視線を外さぬようにしていた。今日の綿抜は紺色のポロシャツを着ている事は朝教室に入った時から確認済みだ。
本校の制服は幾つかのデザインを選択できる。そのうちの一つが半袖のポロシャツだ。半袖のワイシャツや白地のポロシャツを選ぶこともできるが、多くの女子は紺色のポロシャツを選んでいる。理由は下着が透けにくいからだろう。
だが、それが油断に繋がる。この暑い時期は、少しでも熱くなった体温を逃すように、ポロシャツのボタンを留めない女子が多い。左隣の桜井も、前にいる綿抜も留めていない。
少し前屈みになれば、胸元が緩むのは分かっている。下の下着の警戒心は非常に強いが、上の下着の警戒心は少し緩くなる。隣の桜井を見ればあきらかだ。今、桜井は綿抜が少し長く話をしたことで、視線を手元の資料に移して、少し前屈みになってメモを取っている。少し左に視線を移せば、桜井の少し開いた胸元から下着が見える可能性はある。しかし、興味はない。緒方と付き合っているからという理由ではない。綿抜以外の女性には興味が無いからだ。それに女子の制服は左前で作られている。構造上、右側の布が上にかぶさるため、右にいる自分がもし見ようとしても、見られない可能性が高い。
これは対面になると逆の事が起こるため、前にいる綿抜が少し前屈みになれば、対面で少し右側に座っていると、胸元が見える可能性が高い。そのためには、綿抜にも何かを記入してもらう必要があった。そこで、同意書へのサインという案が浮かんだ。そこから、席の配置、同意書の説明役、ボールペン、コピー用紙に至るまで、全てを設定した。
書き味が良すぎるボールペンは、上手く書けなかったようだ。成績の高い者は向上心も高い。何かに失敗した次の行動は、心理的に次は上手く行おうと考えて、丁寧に書くかもしれない。そうすれば、前屈みになる時間が僅かながら長くなり、自分の字を書くことに集中する。こちらを見上げる事は無い。自分は視線をずっと綿抜に向けている事もあり、綿抜から視線を外さない事も不自然ではない。
そして、綿抜は予想通り二枚目は丁寧に書くとわざわざ宣言した。桜井は複写機のセットをしている。紙が切れるようにしておいた。今、自分に視線を送る者はいない。綿抜の紺色のポロシャツの胸元に視線を集中する。空間が生まれている。あまり豊満ではない胸を優しく包み込むような飾りのない白いブラジャーが少しだけ見えた。女性は下着を上下セットで揃える事が多いというのをどこかで聞いたことがある。綿抜も上下を揃えていたら……。
「ありがとうございました。では、まとまった段階で、一度連絡をします」
「はい、お願いします」
この会話が最後に出来た。そして胸元が開きブラジャーを見た事による充実感と達成感を得ることも出来た。我ながら完璧な仕事だった。




