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性壁  作者: 香椎 結月


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11/16

5.5

 年が明けた始業式の日の朝。

 風紀委員が定期的に行う服装検査の補助として朝から正門の前に立っていると、遠くから綿抜が登校してくるのが見えた。体の芯まで冷えるような寒い朝だ。白いマフラーに顔を少し埋めて寒さから身を守るように歩いている様子が遠目でも分かる。

 ちょうど昨年の今ぐらいの時期だった。同じように服装検査を行っていると、桜井が綿抜を呼び止めていた。どうやら、学校指定の靴下を履いていなかったようだ。

 偶然にも対面にいた自分の前で綿抜が靴下に校章が入っていない事を確認しようと足を上げた時にスカートの中の黒いスパッツが見えた。高校生になった綿抜のスカートの中が見えてしまった事は、これが初めてだった。

 それぐらい綿抜には隙が一切なかった。

 そんな光景を一瞬思い出していると綿抜が近づいてきた。こちらに視線を合わせるように軽く頷いた。自分も軽く頷いた。

 昨日の夕方頃、綿抜からメッセージが届いた。

『明日の放課後は一緒に勉強できる?』

 迷いなく返信をした。

『ホームルームが終わってからなら何時でも大丈夫だよ』

 綿抜からの返信もすぐに届いた。

『ありがとう! じゃあ、いつもの図書室でお願いいたします』

 自分も直ぐに返した。

『よろしく!』


 もう何度目になるか分からない。文化祭の後、1回か2回で終わると思っていた一緒に勉強を行う時間は、お互いの都合がつけば、毎週のように勉強をするようになった。

 自分はパソコンで授業や受験に向けた資料を探し、知識を補うように勉強を進める。

 綿抜は黙々と教科書、ノート、参考書を読み、何かを書きながら、勉強を進める。そして、たまにパソコンで調べてほしい内容を聞いてくる。自分にとっては小さい画面のスマホよりもパソコンのキーボード操作の方が操作は容易く、綿抜にも資料を見せやすいのは好都合だった。

 一般的な補足資料が必要という事もあれば、一見すると何に使うのか分からない資料も要求される。時には、ある現代文の問題で出てきた作品の著者の経歴を調べてほしいと尋ねられた。現代文の解答には繋がりそうにない。しかし、近年の入試で行われる現代文の作品では著者が存命である事が多く、著者と出題者の見解が異なる場合がある。このような事例は近年の大学入試でも実際にあった出来事だ。

 入試の解答は当然出題者側の意見が優先される。しかし、著者の経歴、そして考え方まで知る事で、たとえ自分の考えが誤答となってしまっても、著者の考え方を知り、出題者側の解説も知る事で、自分自身は納得できるという旨を話していた。数学には必ず答えがあり、それを得意としている自分には全くない考え方だった。

 そのような考え方を持っているせいか、自分は現代文が苦手だ。その解き方を綿抜はいつも丁寧に説明してくれる。


 下校時刻10分前を知らせるチャイムが鳴った。図書室の中にいるのは自分たち2人と、受付にいる司書教諭だけだ。こうした事も何回かあり、特に驚くことは無い。二人とも荷物をまとめて、図書室を後にした。

 図書室の近くにはトイレがある。

「ごめんね、ちょっとお手洗に行くね」

「うん、じゃあここで待ってるよ」

 綿抜はトイレのドアの近くの床に通学用のリュックを置き中に入った。このトイレには男女ともドアがある。外から排尿音が聞こえる事は無い。そもそも、外にあるトイレが今の時代に合っていないつくりをしている。

「お待たせしました」

 そう言ってリュックを手に取ろうとした時だった。

「ごめん、外寒そうだから、ちょっとマフラー出しても良いかな」

「うん」

リュックの正面を自分から見て少しだけ右にずれた位置に立ち、両膝を合わせてスカートの後ろを抑えずにしゃがんだ。

(スカートの後ろを抑えていない)

 見えた。

 まだ穢れを知らない象徴のような真っ白い無地の綿のパンツ。

 トイレに入った事も考えると下校時刻まで5分足らずという時間だろう。スカートの後ろを抑えなかったのは、この時間による焦りも少しあったのかもしれない。

 異常なまでの高揚感が襲う。股間を膨らませぬよう集中する他なかった。


 綿抜と分かれた後、先ほどの姿を思い出していた。同時に、今までの事も思い出していた。小学校の時は不意に下着が見えている事が何度かあったかもしれない。これは綿抜に限った話ではない。まだ羞恥心が薄い時期だ。仕方ない。しかし、幼き日の記憶という事もあってか、その場面は全く思い出すことが出来ない。

 中学校に入ると綿抜のガードは堅くなっていた。不意に見えたとしても、ずっと体操着の短パンか黒いスパッツだった。これも綿抜に限った話ではない。中学生時代の女子は異常なほど下着を見せぬよう気をつけているように感じていた。

 しかし、高校生になると、少し気の緩む者が増えたように感じる。生徒会役員として前に立っている事も関係しているが、多くの女子の下着を見てしまった。

 しかし、どれだけ他の女子の下着が見えたとしても、綿抜の恥ずかしい姿に勝るものは何一つなかった。


 この数か月間だけで綿抜との距離が格段に縮まった。会話をするようになった。SNSで連絡を取り合うようになった。勉強も一緒に行うようになった。

 そして、恥ずかしい姿。小学校時代に脳裏に焼き付いているのは、プールの後の着替え中に綿抜の秘部を不意に見てしまった記憶しかない。中学校時代は皆無だ。しかし、この数か月足らずで、綿抜の胸を包むブラジャー、綿抜の排尿音、今しがた見た綿抜の下着と、恥ずかしい姿を多く見たり聞いたりする機会が出来た。高揚感がおさまらない。今日の夢に出てきそうだ。


 思い起こせば、性の目覚めは自慰よりも夢精が先だった。

 その夢の内容は今でも覚えている。夢の中では現実にありえない光景を映す。幼稚園の時、綿抜がおもらしをしてしまった場面が夢に出てきた。自分は、あの時と同じようにおもらしの瞬間をじっと見つめていた。あの時とは何か違う気持ちを抱いたまま目を覚ますと股間の辺りが濡れていた。

 自分もおもらし、いや、寝小便をしてしまったと焦り、布団を捲ったが、布団は濡れていない。恐る恐るトイレで確認すると、べっとりとしたものが下着の中に溢れていた。性に目覚めた瞬間だった。

 性に関する授業は受けていたので、これが夢精という現象であることは理解できた。悶々とした気持ちを発散する方法を知ることが出来た。すると自慰を覚えた。自慰を覚えてからも、綿抜の姿が思い浮かぶ。さらに言えば綿抜でしか出来ない。


 これが恋なのかは、よく分からない。

 しかし、素直に好きだとは言えない。

 自分の中で、あと一つ欠けているものがあるからだ。この欠片を揃えたい。これが揃った時に、単なる好奇心なのか、純粋に好意を持っているのかが分かると思っている。

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