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3.貴族学園入学

 そしてマーヤが十六歳になる年になった。

 ブルーローズ王国の貴族に生まれたならば、十六歳になる年から貴族学園に通う義務がある。

 もちろん、マーヤも例外なく学園に通うことになる。

 そしてマーヤは学園でとある光景を見かけた。

(あれは……!)

 美形で華やかな集団である。

 ふわふわとした紫色の髪に真紅の目。可憐で清楚な雰囲気。そんな令嬢を複数の令息達が取り囲んでいる。

(アミーラ・ストレリチア公爵令嬢……!)

 マーヤは水色の目を大きく見開いた。

 前世のマーヤが夢中になった乙女ゲーム『君に捧げる運命のティアラ』に登場する悪役令嬢、アミーラ・ストレリチア本人がいたのだ。

 おまけにアミーラを取り囲むのは、彼女の婚約者である王太子アレクシス・ブルーローズを始めとし、ゲームの攻略対象者達。アミーラも今いる攻略対象も、全員マーヤと同い年である。


「アミーラ、君と学園生活が過ごせるだなんて夢のようだ」

 ハニーブロンドの髪に、宝石のような青い目。世の中の美しいものを集めたようなキラキラとした顔立ち。

 彼こそが、ブルーローズ王国王太子アレクシスだ。


「アミーラ嬢、エーデルワイス公爵領の葡萄を使った新たなお菓子があるんだ。良かったら食べないか?」

 燃えるような真紅の髪に、少し吊り目がちで鮮やかな緑の目。ワイルドな顔立ち。

 一応マーヤの婚約者であるオスカー・エーデルワイスだ。

 マーヤには見せたことのないような優しい表情である。


「アミーラ嬢、貴女のお陰でまた新たな薬が開発出来そうです」

 サラサラと癖のない水色の髪に黄色の目。眼鏡をかけており理知的な顔立ち。

 グレン・カサブランカだ。

 彼がアミーラと疫病の特効薬を開発したお陰で、ブルーローズ王国は混乱に陥らずに済んだ。


「アミーラ嬢、もしよろしければ今日の放課後、街までお供いたしましょうか?」

 ふわふわと癖のある緑の髪に、紫の目。甘めの顔立ち。

 伯爵令息サイモン・ゼラニウム。


「そんな一気に話しかけられたら困りますわ」

 攻略対象達に囲まれているアミーラは、ふわりと春の女神のような柔らかい微笑みを浮かべている。

 そして四人に対してさり気ないボディタッチが多く、少し馴れ馴れしい様子も感じられる。


(悪役令嬢の逆ハーレム……)

 マーヤはやや唖然としながらアミーラを取り囲む攻略対象達の様子を見ていた。


「まあ、アミーラ様ったら、あんなに男性達に囲まれて」

「素晴らしい発明をなさっているのは知っていますが、あんな風に異性と距離が近いのはどうなのでしょうね?」

「アレクシス殿下はアミーラ様の婚約者だからともかく、他の男性達は婚約者がおりますのに」

 アミーラのことをヒソヒソと批判する令嬢達の声も聞こえた。

 アミーラは公爵令嬢で王太子アレクシスの婚約者。直接注意出来ないので他の令嬢達はどうやら不満が溜まっているようだ。


(まるで前世で読んだライトノベルやWeb小説であったお花畑ヒロイン逆ハーレムと似ているわね)

 マーヤはポカンとした表情だった。


 その時、アレクシスがアミーラのことをヒソヒソと批判した令嬢達に鋭い声を浴びせる。

「君達、今アミーラのことを悪く言ったね。聞こえていたよ」

 アレクシス以外の三人も厳しい表情で令嬢達を睨んでいる。

「えっと、それは……」

 令嬢達はアレクシス達に睨まれ、しどろもどろになってしまう。

「君達はアミーラのような発明が出来ない。アミーラのように優しく広い心を持ち合わせていない。そんな君達が、アミーラの批判をする権利があるとでも?」

 アミーラの肩を抱き、守るような姿勢のアレクシスだ。

「アミーラ嬢、コイツらは何の才もない。ただの嫉妬だから気にしなくても良いだろう」

 オスカーもアミーラを庇うように立っている。

「アミーラ嬢がいたからこそ疫病の特効薬が開発出来て、君達は無事にここにいられるというのに」

 グレンは令嬢達に呆れて小馬鹿にするような視線を向けていた。

「心が美しくない令嬢はこの国に必要ないのではないか?」

 サイモンは令嬢達を嘲笑っている。

 令嬢達はアレクシス達に厳しい言葉を浴びせられて今にも泣き出しそうな表情だった。

「皆様、落ち着いてください。私は大丈夫ですから」

 そこへ、アミーラの柔らかな声が響く。

 そしてアミーラは令嬢達へ視線を向ける。

「貴女達、今才能が開花せず燻っているのよね。でもね、私は少し事情があって特別なだけだっただけなの。大丈夫。貴女達の才能は、きっと開花するから。そうしたら、きっと未来は明るいわよ」

 ふわりと微笑むアミーラ。

 しかし、全くの見当違いの言葉である。

 見当違いの言葉をかけられた令嬢達は困惑と嫌悪感を露わにしていた。

「おお、流石はアミーラ。何と優しいんだ。婚約者として誇りに思うよ」

 アレクシスはアミーラに愛おしげな視線を向けている。

「アミーラ嬢、流石は未来の王妃」

「アミーラ嬢がいるのなら、ブルーローズ王国も安泰ですね」

「可憐で優しく、心まで美しい。アミーラ嬢はブルーローズ王国一の女性ですよ」

 オスカー、グレン、サイモンも口々にアミーラを誉めている。


(一体私は何を見せられているのかしら……?)

 マーヤはアミーラ達の様子を見て、再び唖然としていた。

(アレクシス殿下もオスカー様も他のお二人も、アミーラ様に首っ丈だし、アミーラ様も色々とズレているわ)

 アミーラから悪意のようなものは感じなかった。

 だからこそ、(たち)が悪く厄介な感じがした。

(というか、ヒロインのニコラはどこに行ったのかしら? 学園内でも全く見かけないわ。それに、ニコラの実父が当主のルピナス男爵家の名前も聞かないし……)

 この世界はもう『君に捧げる運命のティアラ』の世界からかけ離れている。とはいえ、前世で夢中になった乙女ゲームのヒロインがいないことは気になってしまうマーヤである。

(疫病の特効薬が開発されたから、もしかしてニコラの母親が亡くなることはなかった可能性もあるわね。……全てアミーラ様がやったことなのかしら? さっきアミーラ様は『少し事情があって私は特別だっただけ』と仰っていたけれど、それって自分が転生者だということよね)

 マーヤは訝しげにアミーラを見ていた。

読んでくださりありがとうございます!

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