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1話:美女、パチ屋に転生す

「……これが、パチンコ……!」


眩い光が、視界を焼いた。

五感にねじこまれる爆音。脳を揺らす振動。回転する盤面。並ぶ人々の狂気と歓喜。


そして、ドル箱。メダル。札束。

欲望の坩堝。運と確率の戦場。――それが、“パチ屋”だった。


「いやもう最高か……? なんだこの文化……!」


リラ=アルステラ(年齢:推定数百歳、見た目:高校三年)は、台の前に仁王立ちしながらうっとりしていた。


魔女? 世界の理? 封印魔法? 知らんな。


今この瞬間、彼女がこの現代に転生した最初の目的はただひとつ――

**「この“光と音と札束の神殿”で勝利する」**ことである。


 



 


リラは、転生後たった三日で現代社会に適応した。


戸籍は謎の魔術処理(うっすら記憶がある)。

身分証はなぜか最初からあった(たぶん転生のオマケ)。

制服、靴、スマホも整っていた(ネット通販という文明の力を知った)。


彼女は迷いなく“俗物”として生きることを選んだ。


「だって、そっちの方が楽しそうだったんだもん」


今、彼女は放課後。学校帰りの姿で、繁華街のパチ屋に並んでいる。


周囲のサラリーマンたちは、制服姿の美女が列に並んでいるのをチラ見しつつ、誰も声をかけない。なぜなら彼女の目が――


「この釘の傾き、完全に“右上がりの吉”。この台、私を待ってる……」


――完全に“狩人の目”をしていたからだ。


 



 


1時間後。

リラは、煙草をくわえてドル箱を4つ積み、椅子にふんぞり返っていた。


「いやー、やっぱり“流れ”を見るのは大事だな。魔術使わなくても勝てるんだよ」


彼女の異常な“勝負勘”は、かつて世界の命運を賭けた魔術戦で培われたものだが、今はただの娯楽に全力で注がれている。


「確率操作? そんな野暮なこと、するわけないだろ。勝負は運と気合いと引きだ」


なお、3日連続で勝っており、すでに店員からマークされ始めている。


 



 


その夜、帰り道。リラはコンビニでビールとつまみ(軟骨の唐揚げ)を買い込み、ふらっと公園のベンチに座った。


制服のまま。誰もいない深夜の公園。風が冷たい。


彼女は煙草に火をつけて、一口。


「……この世界、人間が魔法を失ったって話だったけど――」


空を見上げて、ぼそりと呟く。


「ほんのちょっとだけ、残ってるのかもな」


そのとき。


街の外れで、ふ、と空気が揺れた。


一瞬、リラの周囲の空間に“さざ波のような歪み”が走る。普通の人間なら気づけないような、微弱な揺らぎ。


彼女の表情がほんの少しだけ引き締まる。


「……今のは。いや、気のせいか?」


すぐに表情は緩む。

煙草の火を見つめながら、くすりと笑う。


「ま、いいや。明日は“6のつく日”だ。釘が甘くなるらしいしな」


そう言って、再び煙を吐き出す。


魔女は今日も、パチ屋の勝利を目指す。


世界の危機?


今は、それどころじゃない。


 


『その姿はあまりに、俗物だった。』



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