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第三.五話 おまけ話:ルシルカ、その影を知る
夕暮れの森に、風が揺れる。
小さな滝のほとり、ルシルカはしゃがみ込んで、水面を指でなぞっていた。
「……まだ残ってる。歪みの跡」
精霊たちがそっと耳打ちする。
『かみのひとみがひらかれた』『ぐしゃがあるいた』『うたがなった』
「愚者、ね……」
言葉の意味を反芻するように、ルシルカは目を閉じる。
その瞬間、わずかに未来のビジョンが脳裏をよぎった。
――土煙の中、石を握ったまま去っていく、少年の背中。
「……名前も、知らない。でも」
風が、葉を巻き上げる。
小鳥が鳴き、草の香りが辺りを満たす。
「彼は、きっとまた……何かを崩す」
遠く離れた廃都のことなど、森の生き物たちは知らない。
だが精霊たちはささやく。せかいが、わずかにかわったと。
「神々の理では測れない存在。けれど……放っておけないのよね」
ルシルカは立ち上がり、草花に手を添えて一礼した。
「愚か者が愛おしい……か。ならば、次に会う時は――」
その言葉の続きは、風にさらわれていく。 精霊たちは、しずかにわらっていた。