第二話:戦略は崩れ、詩が鳴る
霧の中に沈む石畳の上、少年は淡々と歩き続ける。
足元に散らばる破片は、先刻まで誰かが使っていた道具か、あるいは武器の残骸か。
「やっぱり……ここも、か」
呟いた声は淡く、風に溶けた。
焼けた石の匂い、焦げた木の残骸。誰かが争った形跡は、記録よりも雄弁だった。
少年はそれを記録するでもなく、目を細めただけで通り過ぎる。
そして、彼の視線の先。
丘の向こうから、ゆっくりと現れる白い人影。
フードを深くかぶった女がひとり。ルシルカ。
「……君か」
「あなたを探していたの。……愚者」
少年はその呼び名に反応しない。彼はただ前を向く。
ルシルカは草の音も立てずに歩み寄る。
「あなたが行ったこと、結果として戦略の構図を変えている。気づいている?」
「知らない。知りたいとも思わない。ただ、歩いただけだ」
ルシルカの目がわずかに揺れた。
「……詩が鳴っていたわ」
「風の音じゃないのか」
「違う。もっと……世界が息をしてる音。あなたのせいで、それが変わった」
彼は笑わない。
「……それは悪いことか?」
「まだわからない。でも……少なくとも、私には“正しい”ように聞こえた」
霧が晴れ始める。彼女の声が、詩のように空に溶けていった。