第四十五話
連合軍はアンデッドを排し、ライアンウォードを包囲した。リオンは馬から降りると、父に向かって笑顔を見せた。
「父上、行ってきます」
「頼んだぞ、リオン」
(ローザ?)
(ええ、いるわよ)
(奴もこっちに気付いているんだろう?)
(それはそうね)
(じゃあ、今更小細工しても無意味だな。僕は行くよ。力を貸してくれ)
(いつでも私はいるわ)
そうして、リオンはローザンフェインを抜き、赤いオーラをまとうと空に舞い上がった。
(リオン! 来る!)
ライアンウォードの中心で爆発が起こり、青い閃光が空にまで達して灰色の雲を貫いた。
空中に浮かんでいたのは、ザカリー・グラッドストンだった。リオンには分かった。
リオン・ウィリアムズはローザンフェインを構えると、グラッドストンのもとへ飛んでいく。
ザカリー・グラッドストンは待っていた。リオンが到着するのを。
「やあリオン・ウィリアムズ。ついにお出ましか。待ちわびていたところだ。たかが人間の小僧がアンデッドバスターを手に入れて、この俺様と対決するつもりとはな」
と、ザカリーは不意に手を突き出し、青いエネルギーキャノンを放った。光が爆発し、衝撃波が地上にまで伝播した。
エヴァンが弟の名を呼んでいた。
光が晴れ、そこに、無傷のリオンがいた。リオンは赤いシールドに包まれており、びくともしていなかった。
グラッドストンは不敵な笑みをこぼした。
「やはりな小僧。ローザンフェインのパワー、完全に身に付けているか」
「今の攻撃が全力なら、お前に勝ち目はないぞザカリー・グラッドストン」
リオンは静かに応じた。
「ぬかせひよっこ。生意気な」
グラッドストンはそう言うと、手をかざし、青いビームソードを手に出現させた。グラッドストンはビームソードを構え、「死ね!」と加速してきた。
リオンはその一撃を受け止めた。しかしザカリーは高速で連撃を放ってくる。リオンは全て弾き返していく。
リオンの剣とザカリーのビームソードが激突する。
閃光が爆発して、リオンは赤いオーラを、ザカリーは青いオーラをまとい、力比べとなった。
「小僧! 貴様ごときにこの私が倒せるものか! 今のうちに降伏しろ!」
「グラッドストン! 戯言はあの世で言え!」
「舐めやがって! はああああああああああああ!」
グラッドストンの青いオーラが大きくなっていく。
(ローザ!)
(大丈夫!)
「グラッドストン!」
リオンの体から赤いオーラが立ち上り、それはグラッドストンと拮抗する。そして。
また光が爆発した。
二人は弾け飛ばされた。
ザカリーは空を蹴ってビームソードをリオンに叩き込む。リオンも同じく反撃に出た。激しく打ち合う二人。アクロバットに舞い、飛び、二人の剣撃がぶつかり合う。そのたびに大気が震動し、光が爆発する。
二人は地上に降りると、大地を蹴った。
ザカリーは腕を突き出すと、またしてもエネルギーキャノンを放った。
ローザンフェインのシールドがリオンを守護する。
(リオン! 上よ!)
リオンは反射的に飛び退った。ザカリーが頭上からビームソードを大地に打ち込んだ。
「小僧!」
グラッドストンはまた加速すると、リオンに襲い掛かる。
だが今度はリオンが反撃のエネルギー弾を連射した。
「小賢しい奴!」
ザカリーは止まって、シールドを展開する。
(今よリオン! 瞬間移動する!)
リオンはザカリーの側面に瞬間移動した。そしてローザンフェインを一振りする。ぎりぎりのところをグラッドストンは逃げたが、腕を切り飛ばされた。グラッドストンは空に舞い上がる。リオンは追撃した。
リオンは魔剣を振りかぶると、赤いオーラ刃を連発で放った。ザカリーはビームソードで弾き返す。さらにリオンはエネルギー弾を再び連射する。グラッドストンは逃げた。瞬間移動で回避する。
(右上よ!)
リオンはローザの声に上を見た。
黒衣の魔導士は念を込めると、腕を再生した。
「伊達にローザンフェインを使いこなしてはおらんな小僧。尤も、そうでなくては面白くない」
するとザカリー・グラッドストンは、ビームソードを収めると、腕を天にかざした。
その体から黒いオーラが噴き出し始める。そして、手のひらから放たれた無数の黒い影の手がリオンを襲う。
(リオン! 危ない!)
「吹き飛ばしてやるさ!」
リオンはローザンフェインを一振りして、魔剣から絶大なオーラの波動を放った。黒い手は消し飛び、グラッドストンに襲い掛かった。ザカリーもまた黒いシールドで自身の身を守る。
「リオン・ウィリアムズ!」
グラッドストンは牙をむくがごとき形相で、腕を振り下ろした。黒い波動がリオンに襲い来る。
(ローザ!)
(分かってる!)
リオンは剣を前に構え、シールドを張った。ザカリーの黒い波動がリオンを包み込む。黒い波動は地面にまで達し、大爆発を引き起こした。
果たして。リオンは生きていた。赤いシールドがリオンを守っていた。
グラッドストンは苛立たし気な表情でリオンを睨みつける。
「小僧が……どこまでも俺様の邪魔をする」
ザカリーは何もない空中からハルバードを取り出すと、リオンに襲い掛かってきた。リオンはローザンフェインを手に反撃に出る。
再び二人は接近戦の激戦を繰り広げる。ザカリーとリオンの攻撃は拮抗しており、どちらも決め手を欠く。
「小僧が! 俺に勝てるものか!」
「勝てるさ!」
リオンは裂ぱくの気合とともに一撃を繰りだす。ザカリーは受け止めたが、斧は真っ二つに割れた。ザカリーは袈裟に切られた。
リオンは一気に畳みかける。ローザンフェインの連撃を繰り出し、ザカリーを滅多切りにしていく。グラッドストンは瞬間移動で逃げた。
(上よ!)
リオンは上空を見やる。
ぼろぼろのグラッドストンは、再び再生状態に入る。
「小僧! なかなかやるな! だがもはや手遅れだ! 俺様の本当のパワーを知って絶望する時が来たのだ!」
「何だと? 負け惜しみか!」
「馬鹿め。貴様ごとき小僧、指先一つでひねりつぶしてやるわ」
そう言うと、グラッドストンはパワーを集中し始めた。
はああああああああああああああ……!
(リオン! 気を付けて! 物凄い力を集中している!)
(いけるかローザ!)
(私も頑張る!)
リオンもまたパワーを集中させる。
「負けてたまるか!」
グラッドストンとリオンのオーラが触れ合うと、ビシバシ! と火花が散った。
そして。
黒衣の魔導士は黒いオーラをまとい、フルパワーに達した。リオンもまたパワー全開である。
「終わりだ! 小僧!」
グラッドストンは高速でリオンに襲い掛かってきた。グラッドストンのパンチをリオンはローザンフェインで受け止めた。リオンは吹っ飛び、大地に叩きつけられた。ザカリーはそこへ追い打ちのエネルギー弾を連射する。また大爆発が起こり、衝撃波が連合軍にも達した。
「リオーン!」
エヴァンは叫んだ。
「終わりだ小僧!」
ザカリーは最後に巨大なエネルギー弾を撃ち込み、最後の大爆発が大地にクレーターを開けた。
やがて爆発の煙が晴れ、大地を見下ろすザカリーは、高笑いを発した。
「粉々になりおったわ! 馬鹿め! この黒衣の魔導士に逆らって勝てるはずがないのだ! たかが人間が!」
ザカリーは笑った。しかし。
「何!?」
ザカリーの表情がかすかに歪む。
大地から赤いオーラが噴き出し、爆発した。リオンはゆっくりと浮かび上がってくる。黒衣の魔導士は後ずさった。
「馬鹿な……こんなことが……こんなことがあるはずがない」
リオンは血を流しながらも、かすかに笑った。
「何とか堪えたぞ。ザカリー・グラッドストン。今度は俺の番だな」
「何?」
リオンは瞬間移動でザカリーの頭上に回り込み、ローザンフェインを振り下ろした。ザカリーの腕が飛ぶ。さらに後退するグラッドストンに、リオンはエネルギー弾を連射する。そしてリオンはまた瞬間移動でザカリーの背後に回り込むと、その背中にローザンフェインを突き立てた。紅の魔剣が黒衣の魔導士を貫く。そしてリオンは魔剣に念を込め、エネルギーキャノンを放出した。グラッドストンの肉体が吹っ飛びその胸に穴が開く。
グラッドストンは瞬間移動で再び逃げる。
(後ろ!)
リオンはローザの声に反応して飛び退った。グラッドストンは半壊状態でビームソードを繰り出してきたのだ。
黒衣の魔導士の肉体は再び再生されていく。
(駄目だローザ! これじゃ埒が明かない!)
(諦めないで! 攻め続けるのよ! 確実に効いてるから!)
「くそっ」
リオンは加速してザカリーに切りかかった。エネルギー弾を連射して迫る。グラッドストンはシールドで防御しながらリオンの打撃を受け止める。リオンは怒りに任せて何度も何度もザカリーに剣を叩き込んだ。ザカリーのビームソードは砕け、ローザンフェインがザカリーを一刀両断する。そしてリオンはエネルギーキャノンを放った。グラッドストンは消滅した、かに思われた。
しかし。
空中で黒いオーラが爆発し、その中から復活したザカリー・グラッドストンが悠然と踏み出してきた。
「まだだ。まだ終わらんよリオン・ウィリアムズ!」
「化け物め」
「ここだ! ここからがお互いの真骨頂を試す時だろう!」
(くそっ、ローザ、俺もうくじけそうだよ)
(私が付いてる! 信じて!)
「なら……やってやる! やってやるぞ! ザカリー・グラッドストン!」
リオンはパワーを集中させ始めた。赤いオーラが広がっていく。
「やる気になったかリオン・ウィリアムズ! では、これで最後にしてやろう! お前を殺し、お前の大事な人々を皆殺しにしてやろう! お前はそれを見ることが出来んがな!」
グラッドストンもまたパワーを集中させ始める。黒いオーラがグラッドストンを中心に渦を巻き始める。
互いのオーラが接触し、激しい火花が散る。
「今度こそ終わりだぞリオン・ウィリアムズ! お前の悪夢も消えてなくなる! 死ね!」
ザカリーは黒い波動を放った。黒い波動は渦を巻き、巨大な彗星のようだ。
(行くぞローザ!)
(やって! リオン!)
「食らえザカリー・グラッドストン! 永遠に消えてなくなれ!」
リオンもローザンフェインを突き出し極大の波動を放った。
二つの波動が空中で激突する。
果たして。じわり、じわりと、ザカリーの波動がリオンの赤い波動を押し始める。
(く……駄目だローザ! 奴のパワーが強い!)
(まだよリオン! あなたの力はこんなものじゃない! 大切な人たちを守るのよ! やってみる!)
すると、ローザンフェインはリオンの心の奥深くに入って行った。そこには兄弟や家族との記憶があった。大切にしている記憶が眠っていた。そしてローザは辿り着く。リオンのパワーの根源。白い魔法の力。神霊力。その白い光はローザに圧倒的なスケールとなって押し寄せてきた。
(リオン! 私をしっかりと握っていて!)
(何をする気だ!)
(あなたの眠れる力を引き出して見せるわ!)
リオンは懸命に持ちこたえている。
しかしグラッドストンは高笑いしていた。
「終わりだぞリオン・ウィリアムズ! 残念だったな! ハーハッハッハッハ!」
(行くわよ!)
そして、リオンの体から白い光が爆発した。白い光は巨大な奔流となって黒い波動を押し返していく。
「な、何だ!?」グラッドストンは驚愕した。「馬鹿な!」
リオンは溢れるパワー感に雄たけびを上げた。
「行けええええええええええ!」
ローザンフェインからさらに白い光が爆発する。圧倒的な勢いを持ったその白いパワーは、黒衣の魔導士を飲み込んだ。
「おおおおおお! 馬鹿な! 馬鹿な……ば……か……なっ……!」
白い閃光が全てを埋め尽くし、天を貫いた。
ザカリー・グラッドストンは消滅した。紛れもなく、完全に消滅したのだ。




