第四十一話
間もなく三月二十日だ。ここまでグラッドストンは動きを見せていない。
ウィリアムズ家において、エヴァンはエステルといた。エステルのお腹は少しふっくらしてきた。エヴァンはお腹を触って、エステルに微笑みかける。
「体調はどう?」
「ええ、少しマシになったかも」
「俺はもうすぐ出立だ。どれくらいの戦いになるかもわからない」
「無事に戻ってきて。私の望みはそれだけ」
「ああ」
そこへ衛兵がやってくる。
「エヴァン様、エイブラハム閣下が出立前に最後の会合を開かれるそうです。会議室へお越し下さい」
「分かった、すぐに行く」
それからエヴァンはエステルにキスをして会議室に向かった。
リオン・ウィリアムズは歩いているところをエヴァンに声をかけられた。
「兄上」
「リオン、お前もか」
「ええ。最近は父上も私を会合に参加させてくださいます」
「そりゃそうだ。何と言ってもお前は人類の希望だからな。グラッドストンを倒せるのはお前しかいない」
「ようやくみんなの役に立てることが嬉しいです」
「行こう。出立は近いぞ」
「はい」
フリートウッド家においても、クリストファーとブリジットが共にいた。間もなく出立とあって、クリストファーは最後に妻の顔を見たかったのだ。ブリジットのお腹も随分とふっくらして来た。
「この子のためにも、平和な世界を残さなくては。グラッドストンがごとき怪物のいない世界を」
「クリストファー……あなた、気を付けて」
「パパ」
アルフレッドとアレクシアが駆け寄ってくる。
「気を付けて」
「ああ。俺はお前たちのためにも必ず勝って帰るぞ」
クリストファーは子供たちを抱き寄せた。
「ブリジット、子供たちを頼む」
「ええあなた。どうか生きて戻って」
「ああ。俺は生きて戻る」
そこへ衛兵がやってくる。
「クリストファー様、ベネディクト閣下がお呼びです。最後の会合を開かれるそうです」
「分かった」
そしてクリストファーはブリジットにキスした。
「行ってくる」
クリストファーは会議場に向かって歩き出した。
南のソーンヒル公爵家では、最後の会合を終えたオーガスト、ブライアン、コーディらが妻と子供のもとを訪れていた。
「クリスティーナ、いよいよ出立だ」
「オーガスト、気を付けて。ああ……他に何て言えばいいの」
「十分だよ。心は常に君とともにある」
「パパ」
フランシスが駆け寄ってくる。
「やあフランシス。大きくなったな。お前に平和な世界を残してやるからな」
フランシスはよく分かっていなかったが、嬉しそうにオーガストに抱かれた。
ブライアンはアンジェリアのもとにいて、クレアを抱きながら妻に出立の報告をしていた。
「いよいよだアンジェリア。人類が生き残るか。グラッドストンが勝つか」
「私はとにかくあなたが無事に戻ってくれればそれでいい。きっとそうしたら、私たちはグラッドストンに勝ってるでしょう?」
「そうだな」
「パパ、頑張って」
「ああクレア」
「ブライアン……」
「アンジェリア……」
二人はキスを交わした。
衛兵がやってくる。
「ブライアン様、間もなく出立です。お急ぎ下さい」
「分かった」
そうして、ブライアンは妻と子供に向かいあった。
「行ってくる。俺の帰りを信じてくれ」
「ええ、ブライアン」
ブライアンは立った。
コーディはクリスタルとパトリックのもとにいた。
「クリスタル、パトリック、いよいよだ。戦が始まる。これは避けては通れない道だ。人類が勝つか、この世界が化け物に支配されるか否か」
「コーディ様……これ、身に付けて下さい」
クリスタルはそう言うと、自身のネックレスを外して、コーディの首にかけた。
「クリスタル、これ……」
「わが家に伝わるお守りです。今、これが必要なのは私よりコーディ様です……」
コーディはネックレスを握り締めた。
「クリスタル、必ず生きて帰る」
「はい、コーディ様……」
クリスタルは涙をこぼしていた。
「クリスタル?」
「ごめんなさい、笑顔で送って差し上げたいけど、私やっぱり無理……」
クリスタルの口調が変わった。
「愛してますコーディ。生きて戻って」
「ああクリスタル」
「パパ」
「パトリック。お母さんを頼んだぞ」
「はいパパ。ママ、元気出して」
「パトリック……ああコーディ、生きてね。生きて」
そこへ衛兵がやってくる。
「公子様、お時間です」
「分かった。クリスタル、パトリック、行ってくるよ。世界を救うためにね」
コーディは歩き出した。ネックレスにキスをすると、コーディは顔を上げた。
グリフィス家でも最後の会合を終え、兵士たちや貴族、騎士たちが家族との別れを惜しんだ。
ヴィクター・グリフィスはシャーロットのもとにいた。そのお腹もふっくらしてきた。
「出立だシャーロット。もう行かないと」
「ヴィクター、あなた、何て言ったらいいのでしょう。帰ってきて、私たちのために」
「子供を見たい。死にはしない。祈っていてくれ」
シャーロットはテーブルに置いてあった箱からペンダントを取り出した。
「これを……」
「これは?」
「お守りです。あなたを邪悪なものから遠ざけてくれるように、神官たちに頼んで祈ってもらったのです。受け取って」
そう言うと、シャーロットは夫の首にペンダントをかけた。
「有難うシャーロット。これできっと生きて戻れるな」
「ヴィクター……」
「シャーロット……」
二人は抱き合い、キスを交わした。
そして衛兵が出立を知らせに来る。
「俺は生き延びて見せる。大丈夫だ。リオン・ウィリアムズのあの力は本物だ。必ずザカリーを倒すだろう。それを信じよう。そして、このペンダントにかけて」
そしてヴィクターは立ち上がった。そして歩きだす。
「見せてくれよリオン・ウィリアムズ。お前の力を。お前が最後の希望だ」




