第三十九話
その夜、リオンは一人庭園を眺めることが出来る回廊に腰かけていた。己に与えられた超常のパワー、それはグラッドストンを倒すために授かった力だ。グラッドストンを何としても倒さねば。リオンは念を込めると、手のひらに赤い光の粒を出現させた。この赤い光はパワーの証だ。リオンは光の粒を空に投げつけた。光は空高く飛んで行った。
「リオン・ウィリアムズ」
声の主はヴィクター・グリフィスだった。
「これはヴィクター様」
リオンは立ち上がろうとしたが、ヴィクターはそれを制して、リオンの横に腰かけた。
「リオン、どうやら、君が鍵になりそうだな。この戦は」
「戦……ですね。不死者の軍勢との、ザカリー・グラッドストンとの」
「ああ。グラッドストンのパワーは脅威だ。だが、君が身に付けたそのパワーもまた、グラッドストンに対抗できる切り札だ」
「僕は……ずっと剣とは無縁の生活をしてきました。でも、この魔剣は……色んな知識を与えてくれた。そして、僕の体をコントロールしてくれる。この剣は生きているんです」
「生きた魔剣か……どうも俺には分からないが、ただの剣ではないようだ」
「僕は戦に出た経験もないんです。そんな僕が選ばれたことに、正直驚いてはいますが」
「だがローザンフェインは君を選んだ。それで十分じゃないかな」
「ええ……」
リオンにはリオンの葛藤があり、なぜ自分が選ばれたのかは理解できなかった。だが、やるべきことは分かっている。それをローザンフェインが教えてくれた。
「それにしても、グラッドストンは許し難い。ヒュレイガンは中央の民は全員アンデッドにされたと……」
「ああ」ヴィクターは頷いた。「史上最大の災厄だ。中央にどれだけの民がいることか。貴族はいなくなったが、民は残っている。確かに大陸の中心は四大公爵の都に移ったが、それでも多くの民がいた。それが全てアンデッドと化したとは……グラッドストンを討ち取り、残念だがアンデッドを打ち滅ぼさねば」
「民を元に戻す方法はないのでしょうか?」
「一度死んだ人間を生き返らせる方法はない。それこそ神の業だろう。残念だが、彼らを倒し、眠らせてやることが供養になる」
「しかし……私たちは勝てるのでしょうか、この戦に。今中央にどれほどの民がいたのかは分かりませんが」
「やるしかないだろう。騎士団と傭兵をすべて動員するしかあるまいな。だが、リオン、君はやるべきことをしろ。グラッドストンを倒せるのは君だけだ」
「はい……」
ヴィクターはリオンの肩に手を置いた。
「少しでも話せて良かった。一度話してみたいと思っていた」
「心遣い感謝しますヴィクター様」
「いや、大したことはしてない。じゃあな」
ヴィクターは行ってしまった。
リオンは回廊から降りて庭に立つと、ローザンフェインを抜いた。その刀身は赤い光に包まれている。
リオンは魔剣を振るって、剣の稽古に汗を流した。リオンが軽々と扱うこの魔剣は、他の者たちが持ち上げることすら叶わぬ。
魔剣のオーラを身にまとうと、リオンは空に舞い上がった。飛ぶのは気持ちいい。冬の冷たい空気すら爽やかなそよ風に思える。
やがてリオンは宮廷に戻って下り立ち、深呼吸した。
「僕が役に立つといいけどな。頼むぞローザンフェイン」
リオンの言葉に反応してか、魔剣はかすかに明滅を繰り返した。
「こいつ、僕の言葉が分かるのか?」
リオンは笑った。
(ええそうよリオン・ウィリアムズ。分かるわ)
リオンの頭に、声が響いた。若い娘の声だ。
「まさか……ローザンフェインなのか?」
(そうよリオン。あなたも心の声で話せばいい。それで通じ合えるわ)
リオンは心の声で語りかけた。
(ローザンフェイン、君、話せるの?)
(ええ、心の声でね。私のことはローザって呼んでくれればいいわ)
(ローザか。分かったよローザ)
(心の声で話して。一人でぶつぶつ言っていたら変人に見えるでしょ?)
(そうだね)
(ザカリー・グラッドストンのこと、随分心配しているようだけど、大丈夫、私たち勝てるわ)
(自信ありげだね)
(私のパワーと、あなたの潜在能力を合わせれば、グラッドストンをきっと倒せる)
(僕にそんな力があるっていうのかい?)
(そうよ。一目見て分かったわ。あなたには力がある。大丈夫よ。私がサポートしてあげるわ。恐れないで)
(分かったよローザ。君を信頼する)
(良い心掛けね。まあどっちにしても、グラッドストンを倒すには一蓮托生よ。私には使い手がいるし、あなたには私のパワーが必要でしょう?)
(そうだね)
(幸いなことに、あなたは頭の方は柔らかいみたいね。私のパワーと同調できるわ。剣士としてのあなたの力は未熟だけど、私があなたをサポートしてあげる。最強のアンデッドスレイヤーにしてあげる)
(そいつは心強いね)
(ほんとよ。きっとあなた驚くわ。自分の力にね。戦場に行けば分かるわ)
(分かったよローザ。さて、そろそろみんなのところへ戻らないと)
(ええそうね。けど、今頃グラッドストンは怒り狂っているわよ。あなたが公女様たちを助けたでしょう?)
(奴はまた来るかな?)
(いいえ。それはないと思うわ。現場の映像を追跡して、あなたが私を手に入れたことを知って、恐れてもいるはずよ)
(そいつはいいニュースだ。気持ちいいね)
(でも油断はしないで)
(ああ、分かった。君が見張っていてくれるんだろ?)
(まあね)
(ところで、みんなには君と話せること、言っても大丈夫かな?)
(構わないけど、信じるかどうかはあの人たち次第ね)
(そうか……)
(とりあえず私は中央の監視に回るわ。何かあったら知らせる)
(頼むよローザ)
そうして、ローザの声は消え去った。
「どうしたもんかなあ……とりあえず、父上にお話ししてみるか、ローザのこと」
リオンはエイブラハムのもとへ足を運んだ。




