第三十七話
ザカリー・グラッドストンはかつての王都ライアンウォードにいた。廃屋と化したウィリアムズ家の屋敷を本拠にしていた。
エステル、ブリジット、クリスティーナ、アンジェリア、クリスタル、シャーロットらはここに捕われていた。逃げられないように鎖で繋がれていた。食事はきちんと与えられていた。グラッドストンはまだ娘たちを殺す気はなかった。四家の家族たちの苦しむ顔が見られるうちは、この娘たちを生かしておくことが最良であると考えていたのだ。
実を言えば、打ち捨てられた王都ライアンウォードを中心とする旧王家の大陸中央一帯は、すでにグラッドストンの手に落ちている。住民は全て、ゾンビやグールに変貌しており、グラッドストンによって知性を与えられていた。まだこのことを四大公爵らも知らない。グラッドストンは圧倒的なアンデッドの兵力を有しており、いつでも大陸全土に攻撃を開始することが出来た。だが、グラッドストンはまだ待っていた。人間たちがこの中央の有様を知るまでは、待機しておくつもりであった。ぎりぎりまで待って、深い絶望を与えることこそ、グラッドストンの望むところであった。
なんということであろうか。中央がすでにグラッドストンの手に落ちており、そのアンデッドの大軍の中に、自分たちの娘が捕われていることを知った時の四大公爵家の絶望、グラッドストンはそれを考えただけで歓喜がわいてくる。そして娘たちを見殺しにできるほど、公爵たちがリスクを負って冒険に出るとも思えなかった。
そしてセイセス・セイセス、グラッドストンを信奉するカルト教団の存在は密かに勢力を増している。ザカリーは教団の信者たちを深い催眠術でコントロールしており、いつでも遠隔で動かすことが出来た。
黒衣の魔導士の根は深く、大陸を蝕んでいた。そして誰もまだそのことを知らない。これから起こる脅威に対して、四大公爵はまだ無防備であった。
グラッドストンは思案の中にいた。ワイングラスに人間の血を注いで傾ける。
さて……ここまで打てる手は打った。さらに面白い余興があるとすれば、王子になるはずだった男子たちか。あるいはいっそ四大公爵を殺してしまうか。私の手にかかれば造作もないことだが……簡単なゲームは退屈過ぎるがな。
グラッドストンはグラスの血を飲んだ。
「ヒントを与えるのもつまらん。自分たちで我がもとへ来てみるがいい。そうでなくては面白みもないというものだ」
グラッドストンはグラスを地面に叩きつけると、部屋を出た。
庭園から外に出ると、上空に舞い上がった。グラッドストンは、再び人界に向かった。
「退屈しのぎだ。また貴族でも攫ってくるか」
グラッドストンは飛行速度を上げると、北に向かって飛んだ。




