第三十四話
南部を治めるソーンヒル家においても、年明けを祝う祝賀パーティが執り行われ、その場で当主のヴァイオレット公爵夫人は、自身が王位に就くことを貴族たちに明かした。近く戴冠式を挙行し、ソーンヒル王朝の成立を内外に知らせるつもりであることを語った。
貴族たちは新たな女王の誕生を祝い、「女王陛下万歳!」とグラスを打ち合わせた。ヴァイオレットは祝辞を述べる貴族たちに囲まれた。また王族になることになるオーガスト、クリスティーナ、フランシス、ブライアン、アンジェリア、クレア、コーディ、クリスタル、パトリックらも貴族らの表敬を受ける。
表敬がようやく一段落すると、ヴァイオレットのもとへ家族たちがやってくる。
「ヴァイオレット様、おめでとうございます」
オーガストの言葉に、ヴァイオレットは肩をすくめた。
「ひとまずこれはやっておかないとね。私たちの領地はもはや公爵の比ではないわ。以前のように貴族たちが散らばっていては何かと不都合が多いわね」
「お母様が女王になるなんて、想像だにしませんでした」
クリスティーナが言うと、ヴァイオレットはまた肩をすくめた。
「あなたたちもこれから王族になるのよ。民は世が平安であればその繁栄を喜び、王家への忠誠も確かなものになるでしょう」
「おばあ様」
幼子のフランシスにクレア、パトリックらがヴァイオレットに歩み寄る。ヴァイオレットは孫たちを抱き上げ、チークキスを交わす。
「これを受けて、他家も間違いなく王国の成立を宣言するはず。時代は四王国の時代になるのですね」
ブライアンの言葉に、ヴァイオレットは頷いた。
「間違いなく他家も追随するでしょう。尤も、みな同じようなことを考えているのではないかしら」
「戦がなくなればそれに越したことはないのですが」
アンジェリアは言って、夫の腕に手を置いた。
「四つの王国が成立すれば、どの勢力も迂闊に動けなくなるのは必定。これは平和がやってくるものと考えてもいいのではないでしょうか」
コーディが言った。するとクリスタルがコーディに寄り添って口を開く。
「平和であれば、私も嬉しゅうございます」
ヴァイオレットは頷いた。思案顔で指を顎に当てる。
「四つの勢力拮抗となれば、戦をする意味もないでしょう。これに関しては、一度他家の当主たちと首脳会談を開いてもいいかもしれないわね。わが家が音頭をとっても構わないし」
「しかし、一つ気がかりなことがありますよ」
ブライアンが言った。
「何かしら」
「例の、グラッドストンの件です。このまま平和を謳歌するのが奴の思惑とも思えません」
「そう。その件については追跡調査しているけど、グラッドストンがどこにいるのか、皆目見当がつかないのよね」
「グラッドストンか……例の黒衣の魔導士が何か企んでいても不思議ではない」
オーガストが言った。
「そうよね」ヴァイオレットは頷く。「その点については、各家とも連携することね。お互い争う必要がないなら、グラッドストンは共通の敵よ」
「まことに」
「しかし、相手は神出鬼没の魔導士。厄介ですね」
コーディはぼやくように言って、吐息した。
「何にしても、グラッドストンの件からは目が離せないわ。戦が収束に向かいつつある今は特にね」
ヴァイオレットは言って、思案顔だった。




