第三十三話
そのころ、西方のフリートウッド家においても年明けを祝う祝賀パーティが執り行われていた。各地から大小の貴族がファレンイストへ参列した。
当主ベネディクトは、年内のフリートウッド朝の成立と、自らが国王に就く旨を公表した。
クリストファーは妻のブリジットとこれを聞いた。足元には二人の子供たち、二歳になるアルフレッドとアレクシアがいた。
「いよいよ父上も王座に就かれるか。ブリジット、君も王女になるな」
「そうね……思ってもみなかったことが現実になるのね」
「王女って何?」
アルフレッドが言った。ブリジットは優しく答える。
「少しだけ、立場が大事になるのよ。あなたもね、アルフレッド」
「私は? ママ」アレクシアが言った。
「あなたもよ、アレクシア」
そう言って、ブリジットはアレクシアとアルフレッドを抱き寄せた。
と、そこへ天剣のエイベルが珍しく姿を見せた。
「王子殿下」
エイベルは恭しくお辞儀する。クリストファーは肩をすくめる。
「エイベル、まだそう呼ぶのは早いだろう」
「今からでも慣れておかれてはいかがですか?」
「むう……」
「ところで殿下、私事ながらご報告させて頂きます」
「どうした?」
「実は結婚することになりましてな」
「何だと? お前もついに決心したのか」
「ええ……まあ」
エイベルは苦笑した。
「相手は?」
「カルヴァート子爵家のシェリー殿です」
「そうか。しかし意外だな。そなたにも家庭的な側面があったのだな」
「いや、これはクリストファー様もお人が悪い」
「はっはっは。だが本当だぞ。おぬしは一人の女性に収まるようなタイプには見えなかったからな」
そこでブリジットが言った。
「あなた、素直に喜んで差し上げなさいな」
「そうだな。それで、式はいつ挙げるのだ? 俺も参加するぞ」
「詳しい日程はまだ決めておりません。まあ、春までにはと考えております」
と、そこで改めて、壇上のベネディクトが「新たなる年に乾杯!」と言ってグラスを持ち上げた。
乾杯! フリートウッド家に栄光あれ!
クリストファーもブリジットも、エイベルもそれに倣った。
「ところで、これで各方面の公爵たちも恐らく王を名乗るやも知れん。戦もひとまず小康状態に入るかもな」
クリストファーが言うと、エイベルも頷いた。
「ここまで勢力図が固まると、お互いそう簡単には大きな戦は仕掛けにくいでしょう。誰が望んだかはともかく、平和がやってくるかも知れませんな」
「平和か。それはそれでよい。ここ数年の流血が平和のためにあったとすれば、流れた血は無駄ではなかったというわけだ。死者には冥福を祈るばかりだが」
「生き残った者には、世を導く責任がありましょう。それは戦乱であってはならぬと、私などは思うのですが」
「いやエイベル、そなたの申す通りだ。我々には責任がある。民を導くのは我らの務めだ。人なくして国家の繁栄などあり得ぬ」
「おっしゃる通りですな……」
そして、エイベルはベネディクトの方に視線を向けた。
「ベネディクト様の御心はどこにあるのか」
クリストファーは言った。
「父上も我々が考えるようなことは既に構想の中にはあろう。平和を望まれているはずだ」
「パパ、抱っこ」
アルフレッドは言って、クリストファーに歩み寄る。クリストファーは息子を抱き上げた。
「アルフレッド、お前が大きくなるころには、世界はもっと豊かになっているだろう」
「豊かって?」
「争いもなく、心穏やかに過ごせる日々のことだよ我が息子よ」
「戦のないこと?」
「まあ、簡単に言えばそういうことだ」
クリストファーは、この子らのためにも、世が平和であればよいと願った。




