第三十二話
ウィリアムズ家では、新年の祝賀パーティが宮廷で開かれていた。これにはかつて戦った敵の貴族たち、そして古くからウィリアムズ家に仕える貴族ら、国内から大勢の人々が集まった。
エイブラハム・ウィリアムズは、貴族たちを前に言った。
「みな心して聞いて欲しい。今年、私はウィリアムズ朝の成立を内外に告知し、王となるつもりだ。また人心の安定にとっても、そして今後の我々の戦略にとっても、広大な領地に汝らが散らばっているのは時代にそぐわないと考える。汝らのほとんどにはこのグラドベルムへの異動を命じるつもりだ。追って各地に異動の通達は出すつもりだが、そういうことだ。汝らも心に留めておいて欲しい」
ざわめきが会場に起こった。やがてエイブラハムの周りには貴族たちが集まり、みなこの発表について情報を集めようとした。
エヴァンはその様子を見やり、傍らにいた妻のエステルに言った。
「貴族たちも慌ただしくなるな」
「エイブラハム様は王になられると言われていたわね」
「そうだな。まあ、当然と言えば当然だ。エッカート朝は断絶して、王がいないのだから、自ら宣言して王座に就くのに誰の異論があろうか」
そこへリオンとスカーレットがやってきた。
「兄上、新年おめでとうございます。エステル様も」
「お兄様、エステル様、おめでとうございます」
「おめでとうリオン、スカーレット」
エヴァンが言って、エステルは笑みを浮かべて軽くグラスを持ち上げた。
「おめでとう。良き年にしたいものね」
「この子が生まれるのはまだ少し先だな」
エヴァンはエステルのお腹に手を当てる。
「そうね。あと半年くらいかしら」
そこでリオンが口を開いた。
「父上は中央集権化を推し進めて、権力を強固なものにしようとお考えなのですね」
エヴァンが応じた。
「そうだな。確かに、これからは時代も変わる。恐らくこれは他の公爵家にも伝播するのではないかな」
「四つの王国ですか……」
「その可能性はあり得るぞ。だがともなればひとまず戦は収まるやもしれぬ。平和な世が来ればそれはそれでよい」
エヴァンの言葉を受けて、リオンは頷いた。
「父上のことです。そこまで見越してのことかも知れません」
「ああ……」
するとスカーレットが言った。
「平和な世が来るというならそれは歓迎すべきこと。そうよね?」
「それはそうだ。軍に関してはどうなさるおつもりなのかは分からぬが、多くの兵士たちも休息を得て故郷に帰ることが出来るやもしれぬ。それはそれでめでたいことだ」
エヴァンが言った。
「何れにしても」リオンがまた言った。「ひとまず騒乱は収まるやも知れませんね。私にはそのような気がいたします」
「うむ……そうなれば、良いのだがな」
「兄上には、何か気がかりでも?」
「そうだな……平和な時代を狙って暗躍するものもいよう。そういう輩にとっては、太平の世は憎悪の対象となる」
「なるほど……そういう見方もありますか」
「なに、俺の杞憂にすぎんかも知れん」
エヴァンは言って笑った。




