第二十五話
東方グリフィス家においても、相次ぐ公爵家の動きにセオドリックは敏感に反応した。諸将を集めて軍議を開く。そこにはヴィクターの姿もあった。グラッドストンの調べ物に追われていたが、この戦には参戦せぬわけにはいかなかった。
セオドリックは言った。
「西方の有力諸侯は残る二家。アシュベリー侯爵家、そしてカーティス侯爵家だ。みなも優先順位は分かっていると思うが、アシュベリーを先に叩く。一言で言うならば、まだ楽に勝てる相手を選ぶということだ」
諸将が微かにざわめいた。まさにその通りだと言わんばかりであった。
「我とともに戦に赴く者を呼ぶ。カーリー侯爵、ディルク侯爵、オリヴィエ伯爵、ピアース伯爵、リチャーズ伯爵、ローウェル伯爵、そして騎士団長アルバート。卿らは速やかに出兵の支度に取り掛かれ。残留する者はカーティスの動きに注意を怠らぬよう、本土の防衛に徹せよ。では以上だ。軍神の加護があらんことを」
「ははっ」
諸将はその場を辞して、各々与えられた役割を果たすべく動き始める。
グリフィス家の出兵は直ちにアシュベリー家に伝わる。侯爵領内において、グリフィス軍はアシュベリー軍の動きを騎兵スクリーニングによって探知した。戦場はリエルベルン平原となるであろうと予測された。グリフィス軍は行軍の速度を上げ、一足早く布陣を終えた。程なくしてアシュベリー軍が到着し、両軍は戦場にて向き合う。グリフィス軍二十万余。アシュベリー軍十万余であった。
セオドリックは前に出ると、部下たちに指示を出す。
「カーリー、オリヴィエ、卿らは左翼に付け。ディルク、ピアース、卿らは右翼に。アルバート、リチャーズ、ローウェル、卿らは私とともに中央本隊にあれ。左右翼部隊は敵軍の側面を突け。私は中央を突破する」
そうして、戦の角笛が鳴り響き、グリフィス軍は先手を取って動き始めた。後手に回ったアシュベリー軍は遅れて前進を開始する。それでも、まだアシュベリー軍には挽回する時間があった。戦闘隊形を立て直すと、グリフィス軍の中央突破に備える。そして左右両翼部隊に対しても態勢を整えた。
グリフィス軍は雄たけびを上げて加速していく。アシュベリー軍からも雄たけびが上がり、両軍は激しく激突した。
ヴィクターはまず敵騎士と打ち合い、これを叩き伏せた。続いて襲い来る敵も一撃を以てして粉砕する。ヴィクターは切り込んでいく。激しく敵と打ち合い、一人、また一人と討ち取っていく。そこで、赤い胸当ての敵将が接近してくる。
「グリフィス軍の勇者と見受ける! いざ勝負!」
「来るがよい、アシュベリーの番犬よ!」
「何の! 番犬とは!」
敵将は強力な一撃を放ってきた。受け止めたヴィクターは手が痺れた。
「なかなかやる……」
それでもヴィクターは十合にわたって打ち合い、敵将の態勢を崩した。敵将がのけぞったところで剣をスイングし、その首を刎ね飛ばした。
そこでヴィクターは味方のサポートを受けていったん後退する。すでに防具には血がこびりついている。
ヴィクターは呼吸を整え、戦場を見わたす。
「アシュベリーの勇戦と言うべきだろうな」
いまだ突破も包囲も許していないアシュベリー軍であるが、恐らく戦線が崩れるのは時間の問題かと思われた。ヴィクターは前線に戻った。
敵の攻勢が明らかに弱体化してきたのを受けて、グリフィス軍は一斉に敵陣になだれ込んだ。
セオドリックは中央を突破し、両翼のグリフィス軍はアシュベリー軍を包囲下に置きつつある。形勢は一挙にグリフィス軍に傾いた。
ヴィクターが再度突撃を敢行しようかと言う頃には、勝敗は明らかであった。アシュベリー軍はほぼ包囲され、後退して戦意を失っていた。
セオドリックは家臣らに、敵への降伏勧告を指示した。すると、それによって次々とアシュベリー軍の騎士たちは剣を収めて白旗を掲げた。あらこちらでそうした光景が広がり、戦闘は意外な短時間のうちに終結することになる。
「アシュベリー侯爵はいないのか」
セオドリックは敵将に問うた。
「グリフィス公爵閣下、アシュベリー侯は討ち死にいたしました」
「何と、それは真か」
「はい。我々が白旗を掲げる理由でもあります。これ以上の流血は無意味かと。どうかアシュベリー家に寛大な処置をお願い致します」
そこでセオドリックは言った。
「汝の名は?」
「トレヴァーと申します。騎士団長です」
「そうであったか。では戦後のアシュベリー家の処理は汝に委ねよう。グリフィス家の都へ案内してもらおうか。正式に文書を交わし、民にも広く告知をせねばならん」
「かしこました」
そうして、セオドリックはアシュベリー家の都にて正式に降伏を受け入れる旨の文書を交わす。そして部下のカーリー侯爵に統治を委ねると、セオドリックは数百名の騎士を現地に残してウェインボードへと帰還していった。
アシュベリー侯爵の戦死はセオドリックの悔やまれるところであったが、いずれにしても、グリフィス軍の完全勝利であった。




