第二十話
さて、秋も深まり、フリートウッド家とソーンヒル家においては出産ラッシュが始まっていた。
フリートウッド家ではブリジットが男子と女子の双子を生んだ。男子はアルフレッド、女子はアレクシアと名付けられた。
またソーンヒル家ではクリスティーナが男子を出産した。その子はフランシスと名付けられた。またブライアンとアンジェリアとの間に生まれた女子はクレアと名付けられた。そしてコーディとクリスタルとの間に生まれた男子はパトリックと名付けれた。
新たな命の誕生に民は祝福を以て応えた。フリートウッド家とソーンヒル家では祝日が設けられ、民はやんやの喝采を送り、各地でお祭り騒ぎとなった。
一方で、ウィリアムズ家が伯爵領を二つ併合したことを受けて、他の諸勢力もこの秋にこの年最後の戦を起こした。
フリートウッド家はアビントン伯爵を屈服させこれを併合し、ソーンヒル家はアンカーソン伯爵領を併合した。またグリフィス家はドラモンド伯爵を屈服させ、これを吸収した。四大公爵の動きを受けて他勢力においても併合、合併が行われ、天下の覇権を巡る大陸の勢力図はいよいよ有力諸侯に絞られてきた。
そして年も明けて一二八七年。
新年の祝賀も終えたウィリアムズ家において、エヴァンが恋人のエステルに会いに行った。マレット家の邸を訪問したエヴァンは、エステルの出迎えを受けた。
「エヴァン、何かお話?」
「今、少しいいかな」
「もちろんよ。さあどうぞ。外は寒いわ」
「ああ」
エヴァンはエステルに招かれて彼女の部屋に入った。
長椅子に腰かけたエヴァンは、出された紅茶を一口飲んだ。
「すっかり冬よね。ついこの間まで夏だと思っていたのに」
「天気はいつの間にか急に変わるよね」
エヴァンは言って、ティーカップを置いた。
「エステル」エヴァンは言った。「実は今日は持ってきた……というか、君に渡したいものがあるんだ」
「あら、何かしら」
エステルはエヴァンの隣に腰かけた。エヴァンはポケットから小さな箱を取り出した。そして、エヴァンはその宝石箱を開けた。そこにはダイヤの指輪が収まっていた。エステルは見開いて、エヴァンを見やる。
「俺も今年で二十歳になるし……そろそろかなって。結婚しよう、エステル」
エステルは頬が紅潮するのを感じてエヴァンをまともに見ることが出来なかった。
「エステル?」
ややあって、顔を赤くしたエステルは顔を上げた。
「はい。エヴァン、私で良ければ」
「エステル!」
エヴァンは笑みを浮かべてエステルを抱きしめた。エステルも未来の夫を抱きしめた。
「父上と母上に会いに行こう」
「今から?」
「そうだよ」
「分かったわ」
エステルは観念したように立ち上がった。
馬車で宮殿に到着した二人は、エイブラハムとセシリアのもとを訪問した。
「父上、母上。ついさっき、私はエステルにプロポーズして了解をもらいました。私たちの結婚をお許し下さい」
エイブラハムもセシリアも喜色満面だった。
「そうか。お前も結婚と言う監獄に入る覚悟が出来たか」
エイブラハムは笑って言った。セシリアは「それどういう意味ですの」と笑っていたが、二人の若者を見て言った。
「エステル、エヴァンを宜しくね。二人とも、お幸せに」
「では式の日取りを決めんとな。早い方がよかろう。また戦が始まるかもしれんからな」
エイブラハムは言ってこれから新婚の二人を促した。
式が行われたのはそれから一月ほどしてからだった。慣例に倣って大聖堂で挙式が行われた。二人は指輪を交換してキスを交わし、近いの宣誓を行い、儀式を終えた。千人規模の参列者たちから盛大な拍手が送られ、二人は歩き出した。外では大四輪馬車が用意されていて、沿道には何十万もの民衆が詰めかけていた。二人を乗せた馬車はゆっくりと宮廷に向かって進みだす。二人は沿道の人々に手を振り、やがて宮殿に入って行った。エステルの瞳には涙があった。エヴァンはエステルの肩を軽く叩くと、新妻を振り向かせてキスをした。エステルは夫の首に手を回した。 その晩には、二人の結婚を祝う舞踏会が行われた。エヴァンとエステルが踊り、貴族たちの視線を一身に受けた。二人のダンスが終わると、貴族たちはめいめいのパートナーと楽隊のワルツに従って踊り始めた。
「結婚おめでとうございます兄上、エステル様」
リオンがやってきた。「ああ」とエヴァン。
「ありがとうリオン」エステルはリオンとチークキスを交わした。
スカーレットもやってきた。
「エステル様、とてもお綺麗です。おめでとうございます」
公女はそう言って軽くお辞儀した。
「ありがとうスカーレット」
エステルはスカーレットとチークキスを交わす。スカーレットは上気して顔が赤くなるのを自覚していた。
「お兄様もおめでとう。やったわね」
「ありがとうスカーレット」
エヴァンは妹の頭を軽く撫でた。
それからエヴァンはセシリアとマレット侯爵夫人と踊り、エステルはエイブラハムとマレット侯爵と踊った。年長者たちは若い二人に結婚生活の秘訣を囁いたものである。
舞踏会は遅くまで続いた。貴族たちはそれぞれに次の戦までの平和な時間を謳歌した。




