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第十五話

 さて、今年の先手を打ったのは西方のフリートウッド家であった。昨年飛躍したヒューズ伯爵家に攻撃を開始したのである。フリートウッド家は騎士団長エリオットを指揮官に十万の大軍を以てヒューズ伯爵領に攻め込んだ。迎え撃つヒューズ伯爵は五万余の兵力を以てこれを迎撃する。両軍はメセラシナ平原で軍を展開し、戦闘態勢に入っていた。


「大軍に区々たる用兵など必要ない。こちらは二倍だ。カール! 右翼にあって敵軍の側面を突け! クライド! 汝は左翼を率いて側面に回り込め! 中央は私が率いる! では汝らに軍神の加護を!」


 エリオットは部下に命じると、早速攻撃を開始した。


 昨年に続いて戦場にいるクリストファーは、意気盛んであった。


「ヒューズ伯爵、我が軍の敵ではないぞ。この兵力差はいかんともし難いであろう」


 クリストファーの言葉にエリオットは答えた。


「まず負けることはないでしょう。そしてこの戦に勝てばフリートウッド家は大きく領土を増すことが出来ます」


「天下に近づくか」


「まだそこまでは言えませんが、大陸西部では優位に立てましょう」


 そしてフリートウッド軍は加速し始めた。突撃する騎士たちの勢いのある雄叫び。鋼の剣によって敵を討つ。


 ヒューズ伯爵は勇敢な人物であった。この態勢にあって、フリートウッド軍の中央の軍に全軍を以て中央突破を図ったのである。包囲が完成する前に、ヒューズ伯爵軍はフリートウッド軍の中央に切り込んだ。


「むっ……!」


 エリオットが一瞬怯んだ。しかし百戦錬磨の騎士団長はここで退くことはなかった。戦笛の合図を出すと、中央の騎士たちに全力で敵の突破を阻止する様に伝達する。


 クリストファーは、敵の騎士と打ち合いこれを粉砕すると、敵が中央突破に出ていることを確認し、周囲の味方の状況を確認する。友軍は突破させぬと勇戦している。クリストファーは気合を入れ直すと、また目前の敵に向かう。


「これは簡単にはいかぬ。敵も果敢だ」


 クリストファーは敵を切り捨て、いったん後退した。


 ヒューズ伯爵の善戦と言うべきであろう。しかし、やがてフリートウッド軍の包囲の輪が完成するにつれ、伯爵軍の損害は急激に増していった。


 クリストファーは前線に復帰して、友軍の勢いを感じており、敵軍に切り込んだ。伯爵軍は後退する。フリートウッド軍は完全に包囲の輪を完成させることなく、敵に逃げ道を与えていた。伯爵軍はそこから逃れるように後退していった。夕刻までには決着はついた。伯爵軍は完全に撤退した。


 エリオットは追撃せず、いったんキャンプを張って翌日に伯爵の拠点を目指すことにする。


 そして翌日。


 戦場には多くの遺体が横たわっている。ほとんどが伯爵軍のものだ。フリートウッド軍は行軍を開始した。


 ヒューズ伯爵の拠点までは数日かかった。城下町に入ると、民が道を開ける。


 そこへヒューズ伯爵本人が姿を見せた。エリオットは軍を止めた。


「フリートウッド軍ですな」伯爵が言った。


「それ以外にはあるまい」エリオットは応じた。


「宮廷まで案内します。どなたか存じ上げぬが、代表の方に来て頂ければ。私は降伏します。文書を交わして正式に降伏を認めて頂きたい」


「そういう事であれば話は早い。案内してもらおう」


 エリオットは十名ほどの部下を伴い、伯爵の後について行った。クリストファーもともに行くことを許された。


 伯爵の邸はフリートウッド家のそれに比べれば小さなものであるが、とはいえ周辺一帯の中では豪奢な建築物である。


 一同は宮殿に入ると、広間に案内された。敗北した伯爵軍の諸将がおり、整列していた。真ん中にテーブルが備えられており、すでに文書も用意されていた。


 エリオットは席に着くと、文書の内容を精査した。そして頷いた。


「よろしい。ヒューズ伯爵、貴君の全面的な降伏を認める。今後はフリートウッド家の一員として忠誠を尽くされよ」


「承知致しました」


 ヒューズ伯爵は頷き、「では」と文書にサインした。エリオットもサインを交わし、ここにヒューズ伯爵家はフリートウッド家に併合されることになる。フリートウッド家は西部における勢力をさらに拡大し、西方随一の勇となった。



 ファレンイストに帰還したクリストファーは、ブリジットのもとを訪れた。キスを交わして、クリストファーはブリジットのお腹に耳を当てた。


「よくこうやっているのを見ているが、まだ何も聞こえないな」


 ブリジットは微笑んだ。


「まだ三カ月くらいでしょう。赤ちゃんもまだ小さいはずよ。私のお腹だってまだ全然出てないし」


 ブリジットはゆったりとしたロングドレスを身に付けていて、お腹を圧迫しないようにしていた。


「いよいよ来週だな。俺が無事に帰還したら……と言っていた結婚式」


「ええ……」


 ブリジットは微笑んだ。


 そう、まだ二人は挙式していない。


 そしてあっという間に一週間が過ぎ、その日がやってきた。


 クリストファーは白のスーツを身に着け、ブリジットは純白のドレスを着た。


 参列者は千人以上に達し、大聖堂はこみこみであった。


 神父の祝福を受け、二人は指輪を交換してキスを交わす。


 そして外に向かって参列者の間を歩いていく。


 外には天蓋を外した大四輪馬車が待っていて、二人はそれに乗って宮廷に向かった。


 沿道から飛ぶ市民の祝福に二人は手を振って応えた。


 二人が今日と言う日を忘れることは無いだろう。それは特別な日だから。

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