第十二話
さて、ソーンヒル公爵家ではフリートウッド家を上回る妊娠ラッシュに沸いた。長女クリスティーナが妊娠し、ブライアンの恋人アンジェリア、コーディの恋人クリスタルと立て続けに妊娠の報告がもたらされ、ヴァイオレット夫人を喜ばせた。三組六人のカップルは当主のヴァイオレット夫人に報告に訪れていた。
「みんなおめでとう。こんなことが起こるなんて、私の記憶にはないわね」
ヴァイオレットは六人の若者たちに笑みを向けた。
「お母様、これはきっと吉兆よ。今年はソーンヒル公爵家にはきっと幸福の天使が舞い下りるわ」
「公爵夫人、私は正式にクリスティーナとの婚姻を認めて頂きたく」
クリスティーナとオーガストは言った。
「もちろんよ。二人とも幸せになって欲しいものね。クリスティーナ、しっかりとオーガストを支えなさい。オーガスト、娘をよろしくお願いするわ」
「もったいないお言葉。ありがとうございます」
オーガストはお辞儀した。
ブライアンとアンジェリアは夫人の前でお辞儀した。
「母上、何と私が父になることになりました。つきましては、アンジェリアとの婚姻を認めて下さい」
「公爵夫人、私、御家の一員となることに誇りを抱きます。ソーンヒル家の名に相応しいレディになります」
ヴァイオレットは微笑みを浮かべていた。
「真剣に付き合っていればいずれこんな風になるものよ。私はあなたたちがソーンヒル家の一員で嬉しく思いますよ」
ブライアンとアンジェリアはまた深々と頭を下げた。
次いでコーディとクリスタルが前に出た。
「母上。僕は驚いているんですよ。もうパパになるなんて。信じられません。パパですよ?」
「あなたももう二十歳ですもの……でも仕方のないことよ。なってしまったものはね。そうでしょう?」
そこでクリスタルが言った。
「公爵夫人……私、懸命にコーディ様に相応しい妻になります。子供もしっかり育てて、たくさんの幸せをソーンヒル家にもたらします」
ヴァイオレット夫人は微笑んだ。
「心配ないわクリスタル。あなたは一人ではないの。みんながあなたを支えるわ。ソーンヒル家のみんなが喜んであなたを迎え入れるでしょう」
またコーディが言った。
「じゃあ母上、僕たちの結婚も認めてくれるんですね?」
「それはもう、当然でしょう。認めない理由がどこにあるっていうの。コーディ、しっかりなさいよ。あなたはもう一人ではないのだから。父親の責任を果たすのよ」
「はい」
ヴァイオレット夫人にとっては喜ばしい限りであった。ここに亡き夫がいたらどんなに喜んだことか……夫人は天に祈った。
それからヴァイオレット夫人は、家臣らにこの件を告知した。誰もが懐妊を喜び、祝辞を送ってきた。戦の乱世にあって、ソーンヒル家に新しい命が誕生することは誰もが吉兆と捉えた。人間であれば当然のことで、公爵家の繁栄を誰もが喜んだ。
聞くところによると、フリートウッド家でも懐妊のニュースがあったとかなかったとか。ヴァイオレット夫人は敵の家事情まで深く知る必要はないと考えていたが、生まれてきた子供が男子であれば世継ぎの誕生を意味する。人々は新たな世継ぎに忠誠を誓い、結果としてフリートウッド家の繁栄につながる。それは自身の家にも言えることではあったが。