第十一話
フリートウッド家においては、公爵の嫡男クリストファーが意外な報告を受けることになる。恋人のブリジットからである。ブリジットは公爵の邸を訪問してきた。
「妊娠したの」
ブリジットはクリストファーに告白した。正直ブリジットは不安でもあった。クリストファーはこれを受け入れてくれるだろうかと。しかしそんな杞憂は必要なかった。クリストファーは喜んでブリジットを抱き上げるとくるくると回って喜色満面であった。
「ブリジット! まさかこっちが先に来るなんて思ってもみなかったよ! 俺はいつプロポーズしようかと思っていたんだ! ああブリジット! やったな! 結婚しよう!」
「クリストファー……私……嬉しい」
ブリジットはクリストファーに抱きついた。ぎゅっと強く彼を抱きしめた。
「また春か夏には恐らく戦だ。それまでには正式に挙式をしないとな! フリートウッド家の跡継ぎでもいいが、女の子だって構わない! いや、めでたい年明けだ! 今年はいい年になるかも知れないな」
クリストファーはブリジットを下ろすと、改めてキスをした。
「早速父上に報告するよ」
「ベネディクト様は喜んで下さるかしら」
「そりゃそうさ! 父上も俺たちのことは公認しているんだから。今から二人で行こう」
クリストファーはブリジットとともにベネディクトの執務室を訪問した。
ベネディクトは何事かと思ったが、何も思い当たる節が無いのでクリストファーの口からブリジットの妊娠報告が告げられると、それは喜んだ。あまり感情を出さないこの人物がそれはもう喜んだ。
「そうかそうか! でかしたぞ我が息子よ! そしてブリジット、君も良くやった! 我が家の跡継ぎが生まれればよいが、女子であっても無論構わん! しかし良くやった! 新年早々いいニュースが飛び込んできたものだ! クリストファー、これからはお前一人の身ではないのだ。新しい家族を守らねばならん。お前の家族だぞ。ブリジットを大事にすることだ」
「ありがとうございます。父上!」
クリストファーが言うと、ベネディクトは席を立って息子の前までやってくると抱き合った。それからブリジットとも抱き合った。
「息子をよろしく頼むぞブリジット」
「はい。公爵閣下」
二人はベネディクトの前を辞した。クリストファーはブリジットを誘って庭園を散歩した。クリストファーはブリジットを気遣って手を取って歩いた。
「俺が父親になるのか……想像もしてなかったな」
「生まれてくる赤ちゃんが元気であればいいわね」
「そうだな。とにかく健康であればそれが一番だ。名前は何がいいかな」
「ちょっと、まだ男か女かも分からないのよ」
ブリジットは笑った。しかしこうも喜んでくれるとは思っていなかった。ブリジットには望外の幸福であった。だがこれはフリートウッド家にとっても吉兆と受け止められた。ベネディクトは家臣たちにもこの件を公表した。多くの祝福が二人の下へ寄せられ、家臣たちも喜び合った。フリートウッド家は年明けのニュースに沸いたのであった。