1話 恋はまだ始まらない
一目惚れ...ひと目見ただけでその人に惚れるなんて、胡散臭い。実際にあるわけない。と少し前までは思っていた。少し前までは...
桜並木に心躍らし、俺こと黒河由太は、高校一年生となった。
入学式も終わり、クラスで自己紹介をすることになった。もうすぐ俺の番というときに俺は...席で爆睡をかましていた。
春の心地いい光と、温かい風のなか、眠らないほうが無作法と言うものだろう。
俺は、正直他人の自己紹介なんて興味ない。だから寝ることにした。
そういえば、中学でも同じことしてボッチになったんだっけ...ま、いいや。
しばらく寝ていると、隣からツンツン突かれる感覚がした。このまま寝てようかとも思ったが、十分寝たし起きるかと思って、俺は重たい瞼を開けた。
「おーい、起きてー」と隣から女の声が聞こえた。目を開け隣を見ると、そこには俗に言う美少女と呼ばれる女がこっちを見ていた。
「ようやく起きた...もう休み時間だよ。」
言われて時計を見ていると、もう休み時間になっていた。寝過ごしてしまったらしい。
「さっきの自己紹介、君ぜんっぜん起きないから先生が名前だけ言ってとばしてたよ。先生がわざわざ音楽室からシンバル持ってきて鳴らしたのに、よく寝てられるね〜」
「ごめん、だれ?俺は黒河由太ってんだが。」
「あっ、そっか。さっき由太くん寝てたもんね...」
いきなり名前呼びか...と内心思いながらも、彼女は言葉を続けた。
「私の名前は桜田茜。よろしくね☆」
このときはまだ誰も、この恋があのような結末を迎えるなんて、思いもしなかった。
だって未来なんて誰にもわからないからね!