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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

着脱式キンタマぶん投げスクール大戦争

作者: にょこっち

 正月に……ピキーンと来たんです。今年は元旦から色々ありましたが、これもひとつの大事件です。


 


 それは桜舞う穏やかな春の朝の事でした。


 学校へと続く通学路。河川敷の砂利道をジャリジャリと進んでいる最中の事でもありました。


 春だなぁと桜の花びら舞う様子にほんわかしていたその時です。


「せんぱーい! おらぁ!」


「ぶばぁ!?」


 河川敷の通学路で後輩に遭遇エンカウント


 そして顔面に『何か』を投げつけられました。


 後輩が綺麗なフォームで投げつけてきた『柔らかい物体』が僕の顔にビタンと直撃したのです。彼我の距離、およそ五メートル。至近距離です。


 下手投げではありません。ガチの投球フォームです。


 それは僕の顔面を直撃して空高く跳ね上がったのです。


 僕の顔面でバウンドしたなにか。


 ……キンタ○です。それも仲良く二個のタマタマ。


 春の空。麗らかな青い空に桜の花びらとキンタ○(表記は、タマタマでいいよね)が舞ってます。空に舞うのは花びらとぷるるんと震えるタマタマなのです。ピンク色が空の青に映えてますねぇ。いや、ピンク色で良いの? 中身なの? ねぇ?


 タマタマ顔面ストライクで思わず仰け反り、頭が自然とかち上げられた先に見えた光景に思考が拡散中です。


 春だなぁ。花びらとタマタマだよ。


「よしっ! これで先輩は俺の彼氏です!」


 後輩の高揚する声に、はっと気が付きます。このままではヤバイと。いや、本当にヤバイっての。


「なんの!」


 膝の震えを拳を打ち付けて解除。膝に来るタマタマとは、これ如何に。いや、来るけどね?

衝撃受けると大概、膝に来るんだけどさ?


 空からぷるるんと落ちてくる二個のタマタマをヘッドスライディングで地面に落ちる前にキャッチ。地面の砂利が飛び散りました。


 タマタマ顔面直撃で涙が止まりません。精神ダメージも半端じゃありません。地面にスライディングで制服がどえらい事にもなりました。必要経費です。ぐすん。母ちゃんに怒られるよぉ。というか朝から汚されたよぉ……。


「あー! 何してるんですか先輩! 先輩は俺の事が好きじゃないんですか!?」


「……いきなりタマタマ投げてくる男の子は、ちょっと」


 そんな世界なんです、ここは。


 これは『タマタマを顔面にぶつけられたら、そのタマタマの持ち主と付き合わなくてはならない』そんな世界に転生した僕の物語です。


 ……異世界転生、げに恐るべし。というか異世界ぃぃぃぃぃ! おめえ本当にふざけんなよぉぉぉぉぉ!


 お前よぉぉぉぉぉ!





 タマタマキャッチ後は普通に登校する形になりました。いや、そういう世界なのです。僕も普通に学生ですので。なので服を叩いて、いざ出発です。朝から砂まみれの土まみれですねぇ。


 ……春だなぁ。


「……あの、先輩。そろそろ俺のタマタマ返してもらえませんか?」


「やだ」


 僕の隣を後輩も歩いています。しれっと歩いてますが、こいつは己のタマタマをぶん投げてきた後輩です。朝の登校中なので後輩も向かう先は同じです。


「うぅ……俺のタマタマが先輩の手の中で弄ばれてる……はぅぅぅ……」


 後輩は照れるを越え、羞恥に悶えていました。僕はどうしたもんかと二秒悩みます。


 ……目に映るのは川。


「川に投げ捨てていい?」


 あの水面にじゃぼんとなー。桜の如く舞うがよい。どんぶらこと海まで流れるかなぁ。


「駄目ですよ! 俺のタマタマなんですよ!?」


 なら投げんな。とはならないのが、この世界。


 今も騒ぎたてる後輩の股間はスッキリンコです。


 この世界の男の子は、みんなタマタマが着脱式になっています。


 意味が分かりませんが、そうなっているのです。着脱式という言葉に騙されてはいけません。


 タマタマはタマタマです。たとえ着脱式でもタマタマがタマタマなのは間違いないのです。クルミなんかじゃないんです。タマタマなんです。


 僕の左手のなかでふにふにされてる後輩のニコタマは、見た目も触り心地も完全なるタマタマなのです。うん、早く捨てたい。


 僕の手の内に転がる玉は、間違いなく後輩の天然物タマタマです。なんか温いし、血管も、うっすらと見えます。匂いも……うん。これ以上は生々しいので控えておきましょう。


 それが手の中にあるのです。タマタマ単品で。袋から出た状態でね。グロいわ!


 おじいちゃんがボケ防止で手の中で転がすアレではありません。イミテーションタマタマでもありません。ガチの生物タマタマなのです。ふにふにです。


 ここは男の子が自前のタマタマをぶちん! と引き千切れる。


 それが可能な世界なんです。


 そして、タマタマをぶっちんしたあとにぶん投げるのが普通の世界なんです。


 恐ろしい世界です。


 意味が分かりません。本当に意味が分かりません。どんな進化の過程を辿れば、そんなキテレツな仕組みになるのかダーウィンさんに聞いてみたいです。というか神に反逆したいです。おいこらゴッドォォォォ! てめぇなんて世界にしやがったんだよぉぉぉぉぉ!


 ま、この世界の歴史にダーウィンさんは居ませんけどね。神は多分居そうですが。


 僕は異世界転生したんですけど、異世界というよりパラレルワールドに飛ばされた、そういう風に感じる今日この頃なのです。


 ここはキンタ○を引き千切れるパラレル世界だったのです。なんてこったい。本当にね。なんでだよ、ちくしょうが。


 あ、引きちぎったタマタマは股間に当てると元に戻ります。不思議ですよねー。


 もうちょい僕についても説明……別にいいかなぁ。とりあえず世界についての説明を続けましょう。朝の登校は暇なのです。春なので眠いし。


 文句を言いつつも真っ赤なお顔でクネクネしている後輩と連れ立って学校に向かっている僕ですが、特にイケメンと言うわけではありません。


 普通の高校生です。


 普通の高校二年生です。


 異世界転生しましたが、貞操は逆転してませんし、男女比も狂ってません。スキルも無いし、魔物も出ません。悪役令嬢もいないし、ざまぁが溢れてる訳でもありません。勿論男女の関係だって狂ってません。男同士の恋愛は小説や漫画の中の話ですよ、ははは。


 キンタ○ぶちん! だけがこの世界の特異点と言えます。

 

 思春期を越えた男の子は、自分のタマタマを好きな女の子の顔面にぶつける。それが愛の告白になってるだけの特におかしなところもない世界。


 いえ、十分におかしくはあるのですけどね。本当にね。なんでタマタマ投げるんだよ。投げんなよ。


 タマタマをぶちんすること出来る以外は、転生する前の世界とほぼ同じです。女性の地位が男性よりも高いくらいで社会に大きな変化はありません。歴代総理が女性ばかりですが、歴史も大して変わりません。


 大きな所では信長よりも濃姫が主役ですが、そのくらいですかねぇ。


 僕が転生した時代も前世とあまり変わらない文明レベルってのは違和感バリバリですが、何せ異世界ですので。


 これもあってパラレルな世界に落ちたのかなぁと思ったのです。実際はよくわかりませんけど。


 まぁそんなことより信長と濃姫ですね。前世では有名な二人だったので今世でも存在してました。


 信長はタマタマで天下布武を成し遂げようとしました。ニコタマですね。鉄砲にも己のタマタマを弾薬として使用したと歴史の教科書に書いてありました。そりゃ光秀さんもぶちギレるわ。秀吉もぶちギレるわ。信長やべぇよ。発想がイカれてやがる。


 告白に使うタマタマを武器に転用とか正気じゃないよ。つーか本当の黒幕は濃姫らしいので、魔王として名を遺してるは、彼女だったりします。


 今も信長を題材にした創作物には必ずと言っていいほど『タマタマ二丁火縄銃』が出てきます。二連射なので地味に強かったんです。濃姫さん……二丁火縄銃で無双ですわ。


 その後、天下を取った家康がタマタマを使用した兵器の全てを禁忌としたので今や伝説の武装とされてます。うん、家康よくやった。本当によくやってくれた。光秀さんもこの世界ではヒーローです。


 歴史は大体同じなんですけど所々で少し違う。


 この世界は、そんなパラレル世界なのです。


 濃姫さんは変な事になりましたが、室町、平安の時代から『タマタマを顔面にぶち当てる』事が、この世界での愛の告白であり、結婚の申し込みでもあるのです。


 きっと平安京では『あなや!? ますらをのタマタマが乱れとんでおりますぇ』という雅な悲鳴があちこちで聞かれたことでしょう。


 ま、昔の事なので本当のところは分かりませんが。


 流石に今の時代はタマタマが顔面に当たったとしても、即結婚とは、ならなくなりました。というか昔はそうでした。昔の方が容赦ないです。タマタマぶん投げ怖い。


 タマタマを顔面に受けた女性は必ずそのタマタマの持ち主と結婚しないといけない。


 あら、なら当たる前に板で打ち返し、他の男の顔面に当ててしまえば面白いことになりそうねぇ。うふふ。

 

 それが昔の女性の考え方です。中々に腐ってますよねぇ。いや、ほんと。


 そしてね、それをね、本当にやる人がね……沢山居たんです。まぁタマタマを顔面に投げつけられるのです。そうなるのも分からないでもありません。嫌いな人、というか、たとえ好きな人のタマタマでも顔面にぶち当てられたら普通にキレますよね。だってタマタマですもん。


 なので女性には『タマタマ返し』の文化が生まれるようになりました。学校にもそういう授業があります。羽子板の授業ですね。飛んできたタマタマを羽子板で『バチーン!』です。タマタマは最悪の場合……弾けて大惨事です。


 異世界、げに恐るべし。というか怖すぎるよぉぉぉぉぉ! そこはもうちょい優しくしてよぉぉぉぉぉ!


 ですが、この世界に情けなんてありません。


 幼稚園から女の子には羽子板の授業があります。なので基本的に女性は、みんな凄腕の羽子板使いなのです。


 そういえば野球に女性リーグがあるのも、この世界の特異点と言えるのかも知れません。みんな強打者ですね。バチーンですよ。


 この世界が本当に恐ろしいのはここからです。


 この世界は男女の関係が狂ってるわけではありません。結婚するのも男女同士が大半です。


 ですが。


 ですがね?


 羽子板でタマタマをバチーン!された男性は残らず女性恐怖症に陥ります。まぁタマタマが弾けて大惨事ですから当然です。だから投げんなよ。馬鹿なの?


 でもそれがこの世界の『スタンダード』であり『常識』なのです。


 告白タマタマ投擲が、羽子板で打ち返され、弾けてタマタマ大惨事。あぁタマタマ大惨事。


 わりとみんな小学生で経験するそうです。お前ら節操なしか。投げすぎだバカ野郎ども。


 重ねて言いますが、この世界。男女の関係は、狂ってません。大半の男は女性と結ばれ結婚し、子をもうけます。それが普通です。


 でもね? 


 でもねー?


 女性恐怖症になった男の子は、男の子にも慕情を抱くようになっちゃうんですよねー、この世界。それも思春期は大体そっちに流れちゃうんですよ。女性恐怖症で。


 つまりあれですわ。


 この世界。特に高校生辺りは、女の子達が毎日鼻血を垂らすような天国らしいです(僕は吐血)。

 

 今も僕の手には、後輩のタマタマがふにふにとされています。彼のタマタマは特に小さなサイズです。片手に収まるコンパクトニコタマかな。


 後輩も、元々は女の子が好きなナイスガイだったんです。それが夏祭りで告白……タマタマ投擲をしたのを羽子板で『スパーン!』されてグロい事になって以降……男に逃げるようになってしまったのです。


 後輩は、ナイスガイでした。しかしモテるタイプでは無かったようです。つーかタマタマ投げてないで、そこはラブレターにしとこうよ。でもこの世界は、そんな世界なんです。


 男の子はタマタマをぶん投げて告白し、女の子は、告白を拒否するために羽子板を振り回す。顔面に当たらなければ、どうということもない。そういうわけです。いや、どういうわけ? もっと優しくしてよぉぉぉぉぉ! 気持ちは分かるけどさぁぁぁぁ!


 うん。僕も何を説明しているのか分からなくなってきました。ふにふに。ふにふに。ふにふに。タマタマふにふに。タマタマふにふに。なんか癖になる。


「先輩……あの、流石にそこまでふにふにされると俺も恥ずかしくてですね?」


 モジモジしてる後輩が腕を組んできました。ムキムキです。彼は、わりとマッチョです。でも嬉しくありません。僕はノーマルですからね。全く嬉しくありません。


「川に投げますか」


 あの川面にボチャンとなー。そろそろ学校が見えてきたのでタマタマもポイしないと。


 わりとどうでも良いことですが……僕は、女の子が好きな、普通のおっぱい星人です。この世界の男性も大半はおっぱい星人じゃないかなと思います。


 でも男性は、長い人生で一度は必ず男と、くっつく。そんな狂った世界と言えるです。


 女性達はすごく楽しそうですけどね。どの年代も。


 まぁその分、女性の愛情は前の世界よりも深いんです。離婚とかありませんし。濃姫も信長と死ぬまで仲睦まじく、決して側から離れなかったと言います。ノブさん、多分タマを握られてて逃げられなかっただけ……いえ、なんでもないです。


「もうっ! なんで先輩はそんなにイケズなんですか! 可愛い後輩がこんなにも分かりやすく告白してるのに!」


 腕を組んでるムキムキマッチョを無視してたらキレられました。若者ですねぇ。ふにふに。

 

 至近距離で、すごいことを言ってる後輩ですが、決して可愛いとは言えない野郎です。だって野郎ですし? 


 ムサイです。


 今日も朝からムサイのです。


 この世界。不思議なもので、女の子の容姿は、みんなレベルが高いのです。意味が分かりませんが、そういう世界です。


 男は……まぁ……レパートリーが豊かと申しておきましょう。


 僕は普通ですね。ええ。普通。普通って素敵。普通こそが至高。イケメンなんて滅んでしまえ。それぐらい普通の顔です。


 いわゆる……モブです。


 頭脳明晰でもなく運動が得意という訳でもない、ごく普通のモブその3くらいです。


 後輩にタマタマを投げつけられるようなイケメンのダンディー高校生ではないのです。ええ、なんで投げられてんだろう。


「なんで僕にタマタマ投げてきたの?」


 普通ならこんな質問をしてはいけません。タマタマ投擲は決死の覚悟で行われる愛の告白。それが常識なのですから。たとえ男相手でもね。


 でも僕と彼は、ものすごく薄い関係です。出会って二日くらいです。入学式の手伝いをしているとき、トイレ案内をした程度です。


 何処に惚れる要素があったのか甚だ疑問です。つーか惚れんな。僕はノーマルでおっぱい星人だ。


 僕の腕をしっかりと抱きしめて歩く後輩は一応答えてくれました。


 ……あ、今気付いたけど、こいつまつ毛長ぇ。


「先輩のタマタマキャッチは見事ですから。落としにくい相手を落としたいと思うのは男の性です」


 ……マッチョな後輩のまつ毛に見とれてたら真顔で言われました。


 むくつけき野郎の分際でなんたる事でしょう。


 タマタマ投擲は気軽に出来るものではありません。この世界には離婚という制度がありません。死別ならありますけど、一度タマタマ結婚すると、その二人は死ぬまで夫婦になるのです。


 タマタマアタックは決して軽い気持ちで行われない決死の行為でもあるのです。それは子供でも同じ。


『断られたら相手を殺すか、自害する』


 それがタマタマ告白の常識です。この為に男は必死でタマタマ投擲の腕を磨くのです。羽子板で『スパーン!』されない為に。まぁ男性側の勝率はかなり低めですが。


 なので後輩もふざけてタマタマを僕の顔面に投げつけてきたわけでは無いのです。本当に添い遂げたいと思う人にしか、男はタマタマを投げません。たとえ相手が男でも。


 ……そのはずなんですがね。


「僕……ノーマルなんだけど」


「……自分は昔もそうでした」


 後輩のまつ毛が揺れます。なんか泣いてるように見えます。ガチムチマッチョが泣くなよ、おい。


 思春期の男の子は軽い気持ちでタマタマをぶん投げるのがトレンドになっています。わりと尻軽です。


 当然大変な事になります。入学式の体育館はタマタマが乱れ飛ぶタマタマ運動会になってました。


 そして女子は羽子板を振り回し……無双です。体育館に悲鳴と『スパーン!』という、内股にならざるを得ない音が鳴り響くのです。ええ、沢山ね。羽子板は女の子の必携アイテムですから。

 

 怖かった。


 僕は当事者ではなく壁際で見ていた参列者組なのに震えました。


 普通に椅子の裏でガタガタ震えてました。椅子の背もたれにタマタマが幾つもぶつかり床に転がるのです。無事なタマタマもあれば……大惨事タマタマも、ちらほらです。


 思春期って無謀だよね。なんで男の子ってノリで投げちゃうのかな。高校デビューでタマタマ投擲。これもまた、この世界のトラディショナルなのです。

 

 高校の入学式では、大人しそうな女の子も、勝ち気そうな女の子も、みんな手には羽子板です。それも自信満々なご様子で。


 それもまた、女の子の高校デビューの一幕なのです。


 あ、僕はキンタ○ぶちん! なんてしませんよ。してたまりますか。なんせお手伝いなだけの二年生ですし。隣に座ってたお手伝い仲間の三つ編み眼鏡女子が羽子板で『クイッ。クイッ』っと挑発もしてきましたが、乗りません。乗ってたまるか!


 そんなことより僕も大変だったのです。僕の顔面にもタマタマは何故か飛んできたのですから。


 勿論飛んできた差出人不明のタマタマは全部キャッチさせてもらいました。それはもう、腕が残像を生み出すほどに必死になってキャッチしましたとも。僕も羽子板欲しかったなぁ。


 キャッチしたタマタマは、踏み潰されないように椅子の座面の上に置いときました。タマタマの山です。月見団子の山にも見えましたね。みんな投げすぎだバカ野郎。眼鏡女子はその山に感心してました。


 玉積み職人。彼女からそんなアダ名も頂戴しました。


 そのあとは当然のように大変でしたよ。タマタマが体育館のあちこちに転がってますからね。ニコタマが基本のタマタマです。それが入り乱れているし、大惨事タマタマも体育館の床に幾つも転がっているのです。


 ……入学式のお手伝いは、これの掃除も含まれてるんですよねー。三つ編み眼鏡さんは大惨事タマタマを更に踏み潰して消滅させてました。女の子って容赦ない。


 不思議なもので、ぶちんしたあとのタマタマに痛覚は存在していません。あったら死ぬわ。普通に死ぬわ。なにかに当たっただけで泡吹いて倒れるわ。

 

 本体からぶちんしたあとのタマタマは、一定以上のダメージを受けると勝手に消滅します。羽子板で『べちーん!』されて大惨事になりますが、その時は、大体虫の息です。これもしばらく放置していると勝手に消滅していきます。消え方は何となく物悲しい感じですね、無駄に。でも大体の女の子は床に落ちてるタマタマを見ると、積極的に踏み潰して消滅させていきます。目障りとして。


 この『タマタマ踏み潰し』に深い意味はありません。拒絶でもなく肯定でもない。ただ目障りなタマタマを消し去るためだけの行為です。男に痛みは無いのです。ただの掃除ですね。


 タマタマは、消滅してもすぐに本人の股間に生えてくるので特に問題は無いんです。不思議ですよねぇ。


 ……完全にタマタマを否定してますよね。楽しげに『ダンッ! ダンッ!』って体育館の床が響くんだもん。それも嬉々とした感じでね。祭りですよ、祭り。


 今年も入学式は、お通夜とお祭りが混在しあうカオスな様相となりました。これも春の風物詩。桜と花粉症とタマタマ大惨事。それが日本の原風景なのです。


 僕がキャッチしたタマタマ月見団子の山も新入生の女子に見つかり……大惨事となりました。それはもう……大惨事でした。


 あとでちゃんと股間に戻るとはいえ……女性恐怖症になるのも当然だと思うんですよ。


 トスからの羽子板ぱっこんぱっこんでホームランタマタマです。ええ、トスを上げたのは僕なんですけどね。いや、脅されて仕方なくです。僕は、僕だけは! 嬉々としてやってた訳じゃない! 嫌々だったんだ!


 まぁ、新入生男子の僕を見る視線がすごいものになってるのは分かってました。


 ……なんか僕が変態で極悪人な感じですか?

 

 あれー?


 僕、被害者だよ?


 そもそもタマタマ投げなきゃいいんだよ?

 

「先輩って変態ですよね。普通の男なら他人のタマタマを見るのも嫌がるのに」


 ここで後輩から内臓を抉るような内角ストレートが飛んできました。


 ぐふっ。なんかすごいダメージでふ。


 違うんです。


 ……だって見るよね?


 いくら自分に付いてるとはいえ、袋から出てきたタマタマです。どうなってるのか気になるよね? みんな少しずつ違うから、何となく見比べてしまうよね? そこは、ほら。学術的な好奇心ってものなんですよ。僕は女の子の事が大好きなおっぱいエイリアンですからね。早く母星に帰りたーい!


「先輩ってホモなんですか?」


「いきなり何を言い出すのかなぁ!?」


 ホモはてめぇだ、このマッチョ野郎! 


 そんな言葉が舞い散る桜のように言の葉となって朝の通学路に散らばりそうになりました。


 辺りには、ちらほらと他の生徒もいる通学路。もう学校はすぐそこです。そんな所で後輩が、とんでもない発言をしやがったのです。


 登校中の生徒みんながギョッとしてます。特に男子生徒が。おいまておまいら。なんで尻を押さえてる。というか頬を赤らめるな。


「だって……先輩、入学式以降は、タマタマ投げてきた子に、みんな手渡しで返してるじゃないですか。既に一年生の間では『先輩ホモ説』が完全に広まってますよ?」


「まだ入学式から二日しか経ってないのに!?」


 僕の嘆きはマクシマム。なんという事でしょう。一年生全てが僕をホモ扱いだなんて……。


 僕は親切心と罪悪感からタマタマを手渡しで返していただけなのに。というか投げてくんなよ。なんで僕に投げてくんだよ。


「まぁそれで平和なら別にいいや」


 僕としてはそれもまた良しなのです。いや、僕はホモじゃないよ?


 二年生になった僕には、これから大変な日々が待ち受けているのです。具体的に言うと可愛いクラスメートからの『羽子板でクイッ、クイッ』挑発の嵐です。なんなら先生も挑発してきます。お前らそんなに僕のタマタマを『バチーン!』したいのかよ。そこは別の男子生徒のタマタマを『バチーン!』しろよ。頼むから。


「……え、先輩ってガチのホモなんですか?」


「飛んでけキンタマ!」


「あーっ!?」


 後輩の手乗りタマタマが春の青い空に飛んでいきます。思わず伏せ字も忘れましたね。


 後輩は僕の腕を離して自分のタマタマを追いかけて行きました。空に舞うタマタマ……なんだろう。二個の流星ですかね。


 ここでタマタマキャッチの作法について少し補足しておこう。


 投げ付けられたタマタマをキャッチして本人に手渡しで返す行為。これを『タマタマ返し』と言います。もし顔面にヒットしても地面に落ちる前にキャッチすればノーカン。そういうルールがあります。キャッチのルールもちゃんとあるんですよ? 羽子板に押されてますけど。


 で、この『タマタマ返し』ですが、実は特に意味がある行為では、ありません。告白を拒絶するわけでもなく、肯定するわけでもない。


 あえて言うなら『次、頑張りやー』という感じでしょうか。


 タマタマを手渡しで返されると男の子はすごく喜びます。まぁ当然です。羽子板でバチーン!よりはね。


 タマタマ投擲のキャッチを成功した時点で、投げ付けられたタマタマをふにふにしようが、チョメチョメしようが、それはキャッチした人の自由となります。

 

 ぶちん! したあとのタマタマは一定ダメージを受けるまでは無敵です。ぶちん! してる時点で怖すぎますが、血は出ません。大惨事状態になるとグロい事になりますが、それもすぐに消えますしね。


 本当に不思議ですよねー。なんでこんなとこにファンタジーをぶちこんだんだろう。ふざけんなゴッド。お前、絶対にふざけてんだろ。


 ま、それはそれとして。


 微妙な無敵タマタマなので、キャッチされたタマタマが多少酷い扱いを受けても男の子は気にしません。


 羽子板よりは! 


 マシだから!


 まぁ、自分で投げてる時点で気にしてるはずがありませんからね。ぶちん! するときすごく痛そうに見えますが、全く痛くないそうです。僕は怖くて、ぶちん!未体験ですし。


 普通の女の子ならキャッチしたタマタマは、すぐに捨てます。


 タマタマを地面にポイです。そして踏みにじります。グシャ! ぐりぐり。ですね。思わず内股になります。


 なんたる行いか!


 脆弱たるタマタマをそのように扱うなど言語道断!


 という意識が全く無いのが、この世界。なにせ狂った世界ですので。


 なので、投擲したタマタマが無事に、手渡しで、潰されずに帰ってくるのは『告白ほぼ成功』と若い男子の間では思われてるみたいなんですよね。


 あ、今更ですが、ぶちん! されたタマタマは、本人からあまりにも離れた場合、勝手に消滅して股間に戻ります。ファンタジーですよねー。これを『タマタマリミットブレイク』と称したりもします。無駄に格好いいんです。無駄に。


 で、このタマタマリミットブレイクを意図的に起こされタマタマが股間に戻ってきた場合、それは『タマタマ返し』には、なりません。それは別物である『タマタマ拒否』になるのです。相手からの明確な拒否ですね。これをされたら二度と同じ人にはタマタマ投擲が出来なくなります。


 まぁ滅多に起きない現象ではありますが。


 一学年に一人。一年に一回起きるか起きないか、そんなレベルです。鬼のような女の子達も、そこまでの事は滅多にしないんです。羽子板でタマタマをかっ飛ばそうとすると、インパクトの段階でダメージに耐えきれず、タマタマが弾けて消滅してしまうので……まぁ、稀なんです。


 僕もそんな暴挙は、どうかと思います。僕は、もっと酷いことをしますけどね。ええ、笑いながら。


 後輩のように『ノリ』でタマタマを投げてくるバカ野郎のタマタマは、僕も心を鬼にして全力遠投するようにしています。


 ニコタマだけど、片手でレーザービームタマタマですね。バビューンと飛ばします。


『タマタマ拒否』


 語感は、とっても牧歌的ですが、それの意味するものは、とても深刻です。


 てめぇなんざ消えちまえ! 二度と目の前に現れるな!


 そんな意味となります。


 そしてこれは男の恥となります。他の男子もこれをされた男子には距離を取ります。


『うわー。あいつ、タマタマ拒否されてるよー』


 そんな風に陰口叩かれます。


 タマタマ拒否された男子は『引き際を弁えず、相手をぶちギレさせた愚か者』というレッテルを貼られてしまうのです。タマタマ投げてる時点で大体ぶちギレるよ。男子よ、目覚めて。頼むから。


 普通にタマタマ投擲する限り、女の子も『タマタマ拒否』は、致しません。羽子板で『バチーン!』しまくる女の子でも、そこまでのぶちギレは滅多に無いのです。


 僕は『タマタマ拒否』しましたけどね。


 僕が特別おかしい訳でもありませんよ? 変態でもホモでもない。勿論、タマタマ星人でもありません。ホモと言われてぶちギレてる訳では…………まぁ怒りはしてますが、そんな理由で『タマタマレーザービーム』をかました訳ではないのです。


 不正が行われた『タマタマ投擲』には断固とした姿勢を取らねばならぬのです。それがこの世界の恐ろしい所。

 

 ……恐ろしい所ばかりだなぁ、この世界。


『断られたら自害するか、相手を殺す』


 それがタマタマ告白です。そこまでの覚悟を決めて、男の子はタマタマをぶちん! して好きな人の顔面にぶち当てるのです。


 現代では『ちょっと付き合って反りが合わなかったらすぐに別れて他の人(大体、男)にタマタマアタック!』なんて軽いノリの男の子も現れてます。


 勿論警察に捕まってどえらい事になります。


 場合によっては本当に自害させられてしまうのです。


 腹切りです。


 後輩も多分腹切りさせられる案件です。ガチで腹切りです。最近の若者は怖いもの知らずでこっちが怖くなります。


 ここで『タマタマ拒否』の出番になるのです。


 タマタマキャッチされた相手から『タマタマ拒否』をされると、その人は男として社会的に死にます。ですが多くの場合、温情裁判になるのですよ。


 腹切りまでは行かずに『奉仕活動三ヶ月』とか、その辺で落ち着きます。


 ここはそんな世界なのです。


「ぎぃゃぁぁぁぁぁぁ! 俺のキンタマがぁぁぁぁぁ!」


 ……後輩の悲鳴が桜と共に舞い散りましたね。


 既にここは校門です。人の目が沢山ある場所で『タマタマ拒否』が成りました。本体から30メートルも離れれば、タマタマは夢幻のように消えてしまいます。そして持ち主の股間が一気に膨らみ……いや、ささやかに膨らむのでしょう。


 彼は社会的に死に、そして生き残るのです。


 僕はおっぱい星人ですが、男に人権無しとまでは、思ってません。男のおっぱいもおっぱいであるとも思ってません。やっぱりおっぱいは女の子のおっぱいが至高だと思ってます。三つ編み眼鏡の女の子も、そこんところは大好きです。羽子板はノーサンキューですけども。


 そして僕は『普通』の男子高校生なんですよ。


 いくら顔面にキンタマを投げつけられようが、それで相手の死を望めるほどには………………うーん。


 まぁ、あれです。一日一善ということで。


 いやぁ、今日も朝から善い行いをしましたねぇ。


 ……校門は、すごい騒ぎになってますが。後輩が道の真ん中で座り込み燃え尽きてます。真っ白ですねぇ。通行の邪魔ですが、まぁいいや。


 自害させられるよりは平和です。平和。


 さて、僕は僕で教室に向かいましょう。今日からウキウキワクワク高校二年生の春が始まるのです。なんと僕の隣の席、四方全てが女子生徒なのです。囲まれてるとも言います。つまりは、逃げ場なし。羽子板で囲まれた檻です。


 投げないよ? 僕は、投げないからね?


 可愛い女の子達が羽子板片手に舌なめずりして僕を見てるんです。一日中ね。怖いなんてもんじゃねぇ!


 今日も覚悟を決めて校門を通りすぎようとしたときです。


「へいへいへーい! ピッチャーびびってるー!」


「……」


 後輩を無視して校門を通った瞬間に門の影からのアホっぽい女の子が現れました。


 多分同級生。良くは知らない女の子です。すごく可愛いけど、アホ全開の女子生徒が目前に躍り出ました。


「お前のタマ……私が討ち取ってやんよぉぉ! ほれぇぇ! お前のタマタマ出してみろよ! へいへいへーい!」

 

 この世界は、バカな人間ばかりです。


 ここで更に説明をしておこう。この世界の女の子についてです。ここはタマタマ投擲で愛の告白をする不思議な世界。そして女の子は羽子板で拒絶する世界です。


 羽子板でタマを潰す世界ではないんです。それは普通に犯罪であり、傷害事件です。あとタマタマを人前でぺろんしたら普通に捕まります。ワイセツ物陳列罪ですね。この辺は、まともなんです。


 でもですね、世界の歪みは変なとこに出るものなのです。きっと、この世界を作ったゴッドのせいです。


 タマタマ投擲からの『バチーン!』に慣れきった若い女子の間で、遊び感覚で男子のタマタマを潰す事が最近の流行りとなっており、それが深刻な社会問題になっているのです。


 昨日、テレビでやってました。僕も他人事のように見てました。そんなバカな事をする人間がうちの学校にいるとは思わなかったけど。


 でも、居たんだね。それも中二っぽいバカが。イキってしまった不良女子が。


「おらおらおら! 自前のタマを投げる度胸も無ぇのか、このタマ無しやろぶべぇ!?」


 僕は、おっぱい星人。おっぱいを愛する男ではありますが、フェミニストじゃないんです。だから怒るときは怒るし、殺るときは殺ることにしています。


 僕だってね、この世界に順応するために頑張ったんです。ついぞ、タマタマをぶちん! することは出来ませんでしたが。


 でもね、ここで立たねば僕の生まれてきた意味が無いと思うんです。ええ、これは一人の男てして生まれてきた僕の誇りの問題です。


 別に、目の前に現れた不良女子が、すんげぇ巨乳だったから自分のキンタマぶちぃ! してタマタマぶん投げて跳ね返ってきたマイタマタマを自分でキャッチして、急いでパンツに収納したわけではありません。


「……はっや」


「なにあれ」


「キモい」


「あ、結婚だ」


 登校中の女の子達が騒いでます。野次馬とも言います。ですが、そんなことより大切な事が起きたんです。ふふふ。


 いぇーい。これで僕も超絶可愛くておっぱいボンバーな彼女ゲットだぜー!


 朝の校門はざわつきが止まりません。女の子達の冷たい視線もガスガス刺さります。知ったことか! ぐはははは!


 これで僕も薔薇色高校生でい!


 と思ってたんですが、おっぱいの大きな不良女子は……何故か地面に座り込んで泣き出しました。顔に赤い跡が二つありますねぇ。


「……うっ……ホモと結婚するなんて……死んでも嫌だよぉぉぉぉぉぉ」


 ホモじゃねぇよ。


 泣きたいのはこっちだと叫ぼうとしたら、なんか飛んできました。それは不良女子がぶん投げた羽子板でした。


 認識したときは、既に手遅れで……僕のデコに羽子板が突き刺さっていました。スコーンってさ。すごく良い音がしたよ。スコーンってさ。


 ……僕の頭ってカラッポだったんかなぁ。そんなことを考えて……僕の意識は薄れていった。


 




 …………はっ!


「あ、起きましたか?」


「……ん? ここは?」


 目が覚めたら知らない天井が見えていました。まるで学校の天井みたいな変な模様付きのボードが張られた天井です。 

 

 つまりは学校っぽいです。


「先輩大丈夫ですか? なんか校門で倒れてたのをとりあえず保健室まで運んだんですけど」


 後輩……さっき『タマタマ拒否』をした後輩が心配そうに僕を見ています。


 どうやら僕は……あれ? なんで後輩はシャツを脱いで上半身裸になっているのかな? 


 マッチョだねぇ。


 ……なんで脱いでんの?


「さて、起きたんなら……どりゃぁぁぁ!」


「ぬぅぉぉぉぉぉ!?」


 ぶっちゃけ死ぬかと思った。


 ベットに横たわる僕の顔に上半身裸の後輩がボディプレスを仕掛けてきたんです。フライングマッチョです。ベットが揺れて……すさまじい音を立てて壊れました。ベットの足がベキって折れたのです。


 後輩はマッチョ。確かに良い乳してるが、それはおっぱいではない。大胸筋だ。


「ちっ! 避けられたか!」


 ベットから転がるようにして床に落ちたけど、なんとか逃げられた。僕も意味が分からない。なんでボディプレスを仕掛けてくるのか。それもマッチョなフライングボディプレス。今も壊れたベットの上でもがいてる後輩。その言動に僕の冷や汗は止まらない。


「なにしてんの!?」

 

「愛の告白に決まってるじゃないですか! とぅ!」


 後輩は体勢を瞬く間に立て直し、壊れたベットを足場にして怪鳥のように飛び上がった。無駄にポテンシャルが高い。そして天井付近から野獣のように襲い掛かってきた。何故かボディプレスで。


 避けるよね。そりゃ避けますよね? 


「ごぶはぁ!?」


 床にマッチョが腹から落ちた。すごく痛そうな音もした。そして上半身裸のマッチョは床の上で二度三度痙攣して……動かなくなった。


「……いや、何が起きてるの?」


 目の前に上半身裸のマッチョの死体(自爆)が転がる光景。僕の転生二回目人生でも、こんな光景は見たことがない。


「……まさか」


 僕は嫌な予感に襲われた。保健室の壁をすぐさまチェック。そこにはお知らせが沢山張られていた。


『告白に成功したら必ず病院に連れていって検査しましょう。恋人の死因ナンバーワンは首の骨折です』


 ……ふむふむ。どゆこと?


『おっぱいは、いつも清潔に! 運命の人と出会うのはいつも突然! オイルを塗るのも忘れずにね!』


 ……おっぱいだと? おっぱいにオイルは必要なかろうに。必要なのは適切なマッサージと保湿クリームだ。


『胸毛はマナー違反です。ちゃんとケアしてチャンスを逃さないようにしましょう。おっぱい告白の肝は、不意討ちです』


 ……なんじゃこりやぁぁぁぁぁぁぁぁ!




 僕は……またしても変な世界に迷いこんでしまったようだ。


 ここはどうやら『大胸筋アタックを顔面に食らったら、その相手と結婚しないといけない世界』らしい。ここは基本、男は男と結婚し、女は女と結婚するという摩訶不思議な世界。


 子供はコウノトリが運んでくるか、キャベツ畑に自然発生する。


 そして何よりヤバイのが……みんなマッチョやねん。


 思わず関西弁になってしもたが、老若男女、みんながマッチョやねんな。

 

 人類、皆、マッチョ。


 ……なんでやねん。


 なんでやねーん!


 ここのゴッドは更にアホなんかぁぁぁぁぁ!


 

 

 と、嘆いていたが、無情にも僕の生活は進んでいく。だって僕は普通の高校生ですし? いや、僕は何故かマッチョではなくモヤシだったけど。そこは僕もマッチョにしてくれよ。筋肉に憧れくらいはあるんだよ?


 異世界、げに恐るべし。

 

 もしかしたら……もしかしたらだけど、誰かの大胸筋プレスで僕が死ねば、あのタマタマぶん投げ世界に戻れるのかもしれない。はたまた更なる変態世界へと飛ばされるのか。


 でもね、僕はおっぱい星人なんだ。おっぱい星人には、おっぱい星人の誇りと信念があるんだ。


 柔らかいおっぱいで死ぬ。可愛い女の子のおっぱいで死ぬ。好きな人のおっぱいで死ぬ。


 それならなんの悔いもない。でも大胸筋。お前は違うんだ。


「そこのイケメン! 俺と付き合えぇぇぇぇ!」


「お断りします」


 今日も通学路に桜の花が舞う。そしてマッチョも飛んでくる。みんなボディプレスなので避けるのは簡単。そして地面にべしゃり。

 

 避けたあとに痙攣して動かなくなるのは心臓に悪すぎる。あとみんな飛び掛かってくるとき、服を脱いで上半身裸になるのは止めようよ。今は春だけど、冬はどうすんの?


 こうして僕の高校二年の春は始まった。学校ではマッチョが乱舞し床で痙攣。家に帰れば、おかんもマッチョ。なんなら飼ってる猫もマッチョだった。


 寝てると顔の上に乗ってくる可愛い奴だが……こいつはオス猫だ。玉は無い。でもオス猫なんだ。そしてガチムチ。もふもふの奥に筋肉がすんげぇ。


 そんなとこまで徹底された世界。


 僕は寝ることが趣味になった。夢の世界に逃げたとも言う。猫を顔に乗せて寝る。それは悪くないよね?


 で、こんな夢を見た。


『あんた、おっぱい好きなんやろ? 夢、叶えてやったで。幸せになり』


 マッチョでパンチなオバちゃんに笑顔で言われた。すごく優しげに笑ってた。


 ……ゴッドだよね?


 絶対にこの世界のゴッドだよなぁ!?


 ふざけんなよぉぉぉぉぉぉ!


 大胸筋は、おっぱいじゃねぇんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!


 そんなわけで、異世界転生、げに恐るべし。


 今の人生に嫌気が差してもトラックに飛び込むのは止めとこう。多分、もっとヤバイ世界で生きる羽目になる。


 ……折角おっぱいの大きな彼女が出来たのに……ぐすん。


 神様のバカ野郎……ぐすん。


 大胸筋は、おっぱいじゃねぇんだよぉぉぉぉぉ。


 たとえどんなに苦しくとも、今の人生を投げ捨てるわけには、いかぬ。それでも生きねばならぬのだ。生きるって大変だよねぇ。そんな真面目な事も、ちゃんと考えてます。


 ……本当だよ?


 本当だってば。


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