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そのノートは数学の授業終わりに慌てて(多分)トイレに駆け込んだ前の席の男子生徒の机の上に置かれていた。席を立って何の気なしに見やったその開きっぱなしのページには数式どころか数字や記号すらほとんど記述されておらずその代わりに空白を埋め尽くすようにびっしりと書き込まれた小説のような何かがあった。他のクラスメートが見たら割と高い確率でからかいの対象になりそうなそれを、私はすごく親近感を持って見つめてしまった。正直ちょっと嬉しかった。退屈を埋めるように日常の合間を縫って小説を書いてしまうような人間がここにも居る。しかしそんなピュアな気持ちはものの数行も飛ばし読みするうちに一瞬で消し飛んでしまい。後には憎悪だけが残った。

そこには詩織がいた。疑いもなく。私の書いた小説の主人公の最愛の妹である詩織が、妙に斜に構えた隣の席の男の性的好奇心の餌食にされていた。私は発作的にそれを盗み誰も寄り付かないであろう校舎裏の空きスペースでそれを読み耽った。読みにくい小さな文字で書き込まれた妙に会話文の多いそれを、次の授業のはじまるチャイムに気づいてから茂みに隠し、放課後回収して自室で一気に読み切った。

そして私は男子というものがほとほと嫌になった。どうしたら女の子をこんなモノみたいな目線で描写できるのか。詩織のことを本当に大切に思っていたら絶対こんな書き方はしないし、こいつは自分の小説の主人公の男の承認欲求を満たすためだけに詩織を利用しているとしか思えない。詩織の笑顔はそういう意味ではないし、頬を赤らめたというのはお前の錯覚だ。詩織みたいな可愛い子が隣の席に来てのぼせ上がって勘違いしてしまっているだけだ。こんなことなら詩織は女子校に、いやでも憧れのお姉ちゃんと同じ高校に進みたいって言って頑張って偏差値の高いところを受験したんだった。やばい詩織が健気すぎて尊くてまた泣けてきた。だいたい男は勉強が出来ても馬鹿が多いのか。頭良い奴ほど思い上がって異性に対する距離感がおかしいみたいな話も聞くし。あくまでこれは一サンプルなのだと信じたいが。それにしても少なくともこの男だけは嫌いだ。


だいたいなんだこの小説は。何でこんな肝心なところで話が終わってるんだ。主人公が詩織からと思われる手紙で呼び出されて、もしこれが本当に告白だったら(そんなわけないだろ勘違い甚だしいよこの男は)絶対に自分から気持ちを伝えようと決意する場面。思わせぶりすぎる。ご都合主義の展開を求めすぎて物語が破綻して続きが書けなくなったのか。才能の無さがありありと現れてるなとひとしきり書き手を罵倒する文言を思い浮かべた後で気がついた。そっか私が盗んだんだから続きが書いてあるわけないじゃん。

前の席の男子生徒は別のノートに続きを書いているのか、それとも諦めて筆を折ってしまったのか(そっちの方がよっぽど良いが)。私は気になって仕方なかった。こっそり同じ部活に入って(文芸部だったがほぼ完全なる幽霊部員だった)みたり、空き時間に話しかけてみたりしたのだが、何せ愛想がなさすぎる。今までどうやって学校生活を送ってこれたのかが不思議なくらい。コミュニケーションが取れないとかそれ以前の問題として人間に興味がなさすぎるだろ。

私だってこんなストーカー紛いのことをしたいわけではないが、仕方ない。私の小説の詩織は何も語ってくれないのだ。今まで姉に秘密を持ったことなんて一度だってなかったのに。それに私も何が起こったかを知るのが怖くて例のノートを盗んで以来、続きが全く書けず。当然、サイトの更新もできていなかった。

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