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家に帰ってすることといえばやはり藤堂詩織の小説を読み続けることだ。大手の投稿サイトだけで少なくとも十二の書き手が偏在しており、更新はまちまちだがまだ見ぬ書き手が発見されるかもしれないし。今この瞬間に誕生しているかもしれないのだ。藤堂詩織の母親。藤堂詩織の父親。藤堂詩織の友人。藤堂詩織の担任。藤堂詩織のよく行く本屋の店員。そのどれもが藤堂詩織をメインにして書かれているわけではない。中には十万字以上の小説のほんの三行だけ偶然にも発見したものもあり、商業出版されているものの中にも藤堂詩織は密かに存在しているのかもしれないのだ。小学生の頃の藤堂詩織がくせ毛を気にしていたらしいというのは、小説家でありながら偶然にも巻き込まれた殺人事件の謎を解いてしまう二人の子持ちの女性の配偶者が知人である小学校教諭と交わすたわいもないやりとりから導き出された推論なのだ。


正直、これは贔屓目ではないと信じたいが、そのどれもが失われた僕の藤堂詩織の隣の席に偶然座っている男子高校生の小説に比べると些細な情報しか提供してくれなかった。しかし悔しいのだ。何だか分からないけどモヤモヤするのだ。僕の知らない藤堂詩織が嫌で嫌で仕方ない。それなのに何もかもを把握していないと気が済まないのだった。


そして僕が一番嫌いな書き手の小説を帰宅してすぐにチェックしてしまうのだった。それは藤堂詩織の姉の視点から書かれた小説で。何だか異様に粘着質なのだった。藤堂詩織のお姉さん自体は僕の小説にも登場したことがあるが、非常に優れた人格者で妹の藤堂詩織のことも節度を持って大切にしているのだが、問題はこの書き手にあった。小説の本筋ともお姉さんの言動とも何の関わりもない場面でとにかく藤堂詩織についての細部をネチネチネチネチと描写するのだ。まるでストーカーだった。こんな奴に藤堂詩織の私生活を覗き見られているなんて考えるだけでも鳥肌が立ったし、藤堂詩織がかわいそうだった。僕の小説ならもっと品位を持って藤堂詩織の描写をすることができるし、藤堂詩織を守れるのに。そう思っていても僕にはそいつの小説が更新されるたびに最低評価のボタンを押し続けることしかできなかった。変に通報して藤堂詩織のことが分からなくなっても困るし、というのは変質的な書き手を監視することができなくなると困るという意味なのだが。

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