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「はー、疲れた……」


大方部屋の飾り付けも終わり、ケーキも買ってマリネも作り終えたので皆で一息ついていると、仕事終わりのレベッカがやってきた。

レベッカは座ってお茶を飲んでいる私たちを見て目を丸くした。


「ってあれ?もしかして私最後?!」


彼女の言う通り、ルカ以外の面子は既にレベッカ以外全員揃っていた。アベルもラミロも一時間程前に来て、仕事の疲れを労いつつ一緒にお茶を飲んでいたところだ。


「うわ、なんか飾り付けも凄い!まじかー、私も手伝いたかった……」

「レベッカ、お仕事遅くまでお疲れさま」

「おかあ、久しぶり!もう、本当に疲れた……。師匠の人遣いがめちゃくちゃ荒くてさ」

「レベッカの師匠ってどんな人なの?」

「奇人だよ。めちゃくちゃ変な人。だけど凄い」


短い言葉だったけど、それだけで何となく彼女と師の関係性が分かったような気がした。


「良い師匠に出会ったんだねぇ」

「うーん、まあね」


微妙な顔をしつつ、満更でもなさそうにレベッカが笑った。


「あ、そうだ!今度、暇な時でいいから師匠に会ってよ!おかあの事話したらすごい興味持っちゃって会いたいって言って聞かないの」

「え!わ、私の事話したって生まれ変わりのことも?」

「いや、それは流石に話さない方が良いかなと思って関係性は濁してるんだけど、前にうっかり会話の流れで話しちゃったの」

「会うのは全然いいけど、何も面白い話出来ないよ?」

「良いのいいの。あっちから会いたいって言ってるんだからそんな気遣わなくて大丈夫」

「それなら会いたいな」

「やった、それじゃあ師匠に伝えておくね。今度時間がある日教えてね。ふふ、楽しみ」


レベッカがぴょんぴょんと私の手を持って跳ねる。可愛い。


「かあちゃん、そろそろルカ兄が来る時間だよ」

「あ、本当だ。それじゃあ皆、準備して!」


それぞれ一人ずつ小型の魔道具を手に取る。

これはモニカが今日のために作ってくれた魔道具でスイッチを押すと、派手な音と飾りが飛び出る仕組みになっている。ルカが入ってきた瞬間、これで驚かせるつもりだ。

ムスッとしているラミロにも魔道具を持たせ、待機する。

その時は割とすぐに来た。


ガチャ、と音がして扉が開く。


「すみません、遅くなり――」

「ルカ、お誕生日おめでとう!!!」


パァン、と大きな音がしてキラキラ輝く飾りが宙を舞う。

私に続くように、皆が口々に「おめでとう!」とルカを祝った。


「わっ、え、なに?」


最初、珍しく目を白黒させていたルカだったが、部屋の様子がいつもと違うことに気づくと再び「わ」と驚きの声を上げた。


「飾り付けも凄いですね、これ全部用意してくれたんですか?」

「うん、皆で準備したの。料理も沢山あるから楽しみにしてて」


ドヤ顔でサムズアップすると、ルカは優しく目を細めた。


「僕のためにこんなありがとうございます。皆もありがとう。凄く嬉しい」


その笑顔があまりにも無邪気で、穏やかなものだったから、ちょっぴり泣きそうになった。


それからは正直楽しすぎてあまり記憶が無い。

各々がルカにプレゼントを渡して、ケーキを食べたことまでは覚えているのだが、そこから昔話やらお互いの暴露話やらが始まり収集がつかなくなったのだ。

マルコやマリアはラミロに絡んでウザがられるのを楽しんでいるし、レベッカとモニカは酔っ払って話が通じないし、アベルはそんな二人をニコニコ見守っていたかと思っていたら、唐突に寝始めるし。どうやら二人に勧められてお酒を飲んだようだ。アベルは下戸なんだから勧めるな、とルカが注意していた。

とにかく笑いの絶えない時間が続いたことだけは覚えている。結局、宴は日付を越えるまで続いた。



◇◆◇



「……ん」


いつの間にか眠っていたらしい。目覚めると、家の中は明かりが消えていて暗くなっていた。辺りを見渡すと皆、椅子で眠っていたりそのまま床で雑魚寝していた。もう大きくなったというのに、皆はしゃぎ疲れた子供のような顔で眠っている。

それぞれに毛布をかけて周り、ふと窓を見ると美しい月が夜空にぽっかりと浮かんでいた。

そうしてずっと月を見ているうちに無性に散歩がしたくなってきた。

……ちょっと外に出るだけなら大丈夫だよね。


誰に言うでもなく言い訳をして外へ繋がる扉に手をかけたその時。


「……ジゼル?」


名前を呼ばれて振り返ると、ルカが眠そうにしながら私を見ていた。


「あ、ごめん。起こしちゃった?」

「……いえ、それよりもどこか行くつもりだったんですか」

「え、えっと、ちょっとだけ月が見たくて……」

「つき?」

「うん。すごく綺麗だから外に出て見たくて」

「僕も行きます」


暫くぼーっとしていたルカだったが、私が説明すると何故かやけにはっきりとそう言った。


「え、でも……」

「夜の一人歩きは危ないって何回も言ってるじゃないですか」


そういえば同じようなことで昔、何度か怒られた気がする。


「本当に家の前に出るだけのつもりだから大丈夫だよ」

「駄目です。それに僕もちょうど夜風に当たりたい気分ですから。それとも僕がいたら邪魔ですか?」

「邪魔なわけない」

「じゃあ決まりです」


折角寝ていたのになんだか悪いな、と思いつつ、ルカと一緒に外に出た。

優しく柔らかな風が肌を撫でていく。とても気持ちの良い夜だ。


「……今日、本当にありがとうございました。あんなに盛大に祝ってくれて」


伸びをして全身に風を浴びていると、ルカがポツリとそう言った。


「ルカが喜んでくれたなら良かった。最後らへんとか色々と大変だったけど、どんちゃん騒ぎって感じて楽しかったね」

「はい、とても」


頷いたルカの優しい微笑みに心臓が大きく跳ねた。


「……ねえ、ルカ」

「なんですか?」

「好きよ」


ずっとずっと伝えたかった言葉は思っていたよりもすんなりと出ていった。


「……は」


月明かりの下で輝く水色の瞳が水面のように揺れる。


「……そ、れは、つまり、どういう好きですか?」

「え?どういうって……」

「ライクですか、ラブですか」

「ラ、ラブだけど」


もしかしてルカは違うのか?いや、でもそういう意味で言ってたよね?


なんだか猛烈に不安になってちらっとルカを伺うと、彼は何故か自分の頬を精一杯抓っていた。整った顔がびよんびよんに伸ばされている。


「……えーっと、それは何をしているのかしら?」

「最高に楽しくて幸せな日に更にこんな事が起きるなんて随分と都合の良い夢だなと。こういうのって早く目覚めないと起きたあと辛いんですよね。虚しくて。え、これどこからが夢だ?まさかあのパーティも夢なのか?」


自問自答しながら、びよんびよんと自らの頬を伸ばし続けるルカに近づき、その手を包み込むと、面白いほどに大きく肩が揺れた。


「えっと、全部現実だし、そんなに強く抓ったら跡になるからやめた方が良いと思うよ」

「……げん、じつ」

「そう、現実」


頬を抓っていた手を離すと、ルカは私の手を掴む。


「夢じゃ、ない?本当に?」

「うん。返事をするのがこんなに遅くなってごめんなさい」


ずっとルカが幸せでいてくれれば、そこに私が居なくても良いと思っていた。だけどルカが気持ちを伝えてくれたあの日から私はおかしくなってしまった。彼に特別な人が出来ることを素直に祝えなくなっていた、隣に居るのは自分が良いと望むようになっていた。辛い時も楽しい時も、共にありたいと願うようになった。


「どうしよう。すげぇ嬉しい」


はにかむルカの耳は見たことがないほど真っ赤に染まっていた。

昔に戻ったような乱れた言葉遣いから彼の喜びが伝わってきて、また心臓が大きく跳ねた。

ぎゅっ、と大きな身体に抱き締められる。


「……無理してないですよね」


小さな声で恐る恐る聞かれた。言葉とは裏腹に抱きしめる力が強くなる。


「紛れもなく本心だよ。ルカにちゃんと向き合って欲しいって言われてからずっと考えてた。自分がどうしたいのか。……私は、貴方の一番になりたい」


ゆっくりと大きな背中に腕を回す。

出会ってから今日に至るまで、本当に色々なことがあった。


「ルカ。私を好きになってくれて、ありがとう」


彼が息を呑んだのが分かった。ゆっくりと身体が離される。


「それはこっちの台詞です。貴女と出会って、僕は初めて生きることの楽しさを知りました。生きていて良かったと思いました。貴女が居てくれたから、僕は今ここに居る」


真剣で熱の篭った眼差しが私を射抜く。


「愛しています。心の底から」


「私も」と応える前に柔らかいものが口を塞いだ。

突然の事で何が起こったのか理解出来ずに呆然としていると、再び口づけが降ってくる。


「ル、ルカ!」


咄嗟に名前を呼んで止めると、彼は真っ赤になっているであろう私の顔を見て、


「……ジゼル、可愛い」


これ以上ないほどに甘く微笑んだ。

壮絶な美しさにくらり、と目眩がする。


も、もしかして私、とんでもない人を相手にしているのでは……?


今更ながらにそんな考えが頭をよぎったが、すぐにまあ幸せだから良いかと考え直す。

大切なのは、彼が私を好いてくれていて、私も彼を愛しているというその事実だけだ。


静まりかえった夜に月明かりだけが見守るように私達をそっと照らしていた。




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