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「……んー、どっちが良いかな」


早朝。自室で一人呟いて、右手と左手に持った服を見比べる。


今日は待ちに待ったルカの誕生日だ。

大切な日だからめいいっぱいオシャレをしようとクローゼットから服を引っ張り出してきたのだが、最後の二択で着る服を決めかねていた。こんなに悩むのなら昨日前もって決めておけばよかった。

でも昨日は昨日で準備があったから忙しかったんだよな。


どちらにしたものか、とウンウン唸っていると、扉が二回ノックされた。


「はーい」

「入ってもいいか」

「いいよ」


ガチャと扉を開けて入ってきたのは眠そうに目を擦るマレナだ。


「おはよう、マレナ」

「……おはよう」


彼女がこの家に来てから早一ヶ月が経ち、最近では呼び捨てで呼ぶことにもだいぶ違和感を覚えなくなってきた。

最初はおっかなびっくりといった様子だったマレナも少しずつ我が家の雰囲気に慣れてきたようで、笑顔も増えてきた。両親とも仲は良好で、時々構われすぎて目を回しているくらいだ。


「……どっか、いくのか?」


寝起きはいつもより舌っ足らずな話し方になるのが可愛い。

緩む頬を抑えながら私は頷いた。


「ほら、昨日話したでしょう?今日はルカと予定があるの」


彼女は「そういえば言ってたな」と言いながら私のベッドに腰かけた。


マレナと私の部屋は別々なのだが、彼女は何故か起きると直ぐに私の部屋にやってくるし寝る時も直前まで私の部屋に居るので体感的には殆ど相部屋のような感覚だ。


「ねえ、これとこれだったらどっちが良いと思う?」


手に持っている服をマレナに見せる。彼女は眠そうに目を擦りながら「どっちでもいい」と答えた。


「ど、どっちでもいい以外で!」

「……じゃあ右」

「そんな適当なことある……?」

「だってオレ、洋服のことなんてわかんねぇもん」


随分と雑な決め方だったが、選んでくれた事に変わりはないので右の服を着ることにした。

部屋着から着替えたあとに時計に目をやると、家を出る予定の時間が迫ってきていた。


うわ、洋服を選ぶのに時間使いすぎた。


急げ急げと心の中で唱えながら私は手早く髪を二つに分けて編み込む。


「わあ、すげえ」


ピンを使って髪を止めようとしていると、先程までうつらうつらとしていたマレナが目を輝かせてこちらを見ていることに気づいた。


「それ、どうやってんの?」

「編み込みのこと?」

「うん!」

「今度マレナの髪でやってあげようか?やり方も教えるよ」

「え、いいの?でも、そういうのオレにも似合うかな……」

「きっと似合うよ。服とかも選んでさ、一緒にお出かけもしよう?」

「……う、うん。うん!する!絶対する!」


あんまりにも嬉しそうに頬を染めて何度も頷くから、私はなんだかたまらなくなってマレナの頭をクシャクシャに撫で回す。


「わ!き、急になんだよ」

「むふふふ、なんでもなーい。どこに行きたいか、考えておいてね。私も計画立てるから」


私の言葉に彼女は「うん!」と元気よく頷いた。



◇◆◇


「じゃあ、いってきます」

「おう、いってらっしゃい」


マレナに見送られて家を出る。


一連の事件の犯人が逮捕されたという報せがもたらされ、街には以前のような活気が戻りつつある。

勿論全てが元通りという訳ではないが、人々の日常から少しでも憂いや心配の種が減ったのはとても喜ばしい事だ。

そして何よりも喜ばしいのは――


「ジゼル!」


どこからか名前を呼ばれてキョロキョロと辺りを見渡すと前方に見覚えのある黒髪が見えた。


「カテリーナ!」


小走りでこちらへやってくる姿を見て、私も駆け寄る。


「おはよう、ジゼル」

「おはよう。今日もボリスくんのところに行くの?」

「ええ。今日からいよいよリハビリよ」


――そう。事件が解決してから最も喜ばしい報せとはボリスが目を覚ましたことだ。

今からちょうど二週間前、二人でお見舞いに行った日の事だった。本当になんの前触れもなく不意に目を覚ました彼がカテリーナの名を呼んだのだ。その後はてんやわんやの大騒ぎで色々と大変だったが、どうやら順調に快方に向かっているらしい。


「あいつったら歩くのすら、よろついてるんだから。この調子じゃプロポーズのやり直しはまだまだ先になりそうね」


口では不満げにしつつも、そう言う彼女の顔は明るい。

目が覚めてからボリスはカテリーナが身につけていた指輪を見て青ざめながらプロポーズのやり直しをさせて欲しいと頼んだらしい。

確かに自分の意識がないうちにプロポーズが終わっているというのも気の毒だ。


「気長に待ってあげなよ。きっと待たせた分、うんと素敵なプロポーズをしてくれるだろうし」


茶化してみると、カテリーナは悪戯っぽい笑みを浮かべて「そうね」と言った。

しかし私は知っている。カテリーナがこうして生きてまたボリスと話せているだけで満足だと思っているということを。全く素直じゃなくて可愛いんだから。


「じゃあまた近いうちに遊ぼうね」

「勿論!あ、時間がある時で良いからまたうちのお店も手伝ってくれると嬉しいな」

「喜んで。ボリスくんにもよろしく伝えといて」

「ええ、伝えとくわ!」


笑顔で手を振る彼女と別れ、私も目的地へと向かい始めた。



無事に目的地――魔道具屋『パーチェ』に到着し、私は挨拶をしながら中へ入る。

今日はここで皆で集まってルカの誕生日パーティをするのだ。仕事の予定で夕方からの参加になったりする子もいるが、全員来てくれるらしい。まあ、そもそもルカの仕事が終わるのが遅いそうなので彼が来る頃には全員揃うはずだ。唯一ラミロだけが「あいつの誕生日なんて祝いたくねえ」とかクソガキみたいな事を言い始めたので、この前の魔力欠乏で倒れた件を持ち出すと「わかったよ、行きゃあいいんだろ!」とお返事を頂いた。


部屋に入ると、既にモニカとマルコ、マリアが準備を始めていた。


「おかあさん、おはよう」

「ママ!!」

「おはよう!!」


モニカに「おはよう」と返すよりも先にマルコとマリアが弾丸のような勢いで飛びついてきた。


「ぐはっ!」

「今日は三つ編みにしてるんだね!僕達とお揃いだ!可愛いね!」

「編み込んでるんだ!ママ、昔から器用だったものね!可愛い!」

「あ、ありがとう」


ぎゅうぎゅうと抱きつかれ、踏ん張りながらお礼を言う。


「二人もリボン、可愛いわね」


今日のために用意したのであろう、三つ編みに着いているリボンを褒めると二人は照れたように「ありがとう」と笑った。可愛い。


「モニカもお店休ませちゃってごめんね、ありがとう」

「ううん、気にしないで。元々何かある時はずっとこのお店を使って皆集まってたから。それに、誕生日パーティなんて久しぶりだから凄く楽しみにしてたの」

「モニカの誕生日も盛大にお祝いするからね」

「本当に?期待しちゃおっかな」


へへ、と笑うモニカの頭を撫でる。可愛い。


「レベッカは師匠の仕事が終わり次第来るって。アベルは四時頃に仕事が終わるから、その後すぐに向かうって言ってた」

「了解。ラミロも多分アベルと同じくらいの時間に来ると思う」

「あいつ、本当に来るの?」


マルコがきょとん、と首を傾げる。


「来ると思うよ。あの子、約束は破らないから」

「ふ〜ん。まあ、ママがいるなら来るか。あ、それよりもさ、見てみて!これ、まだ途中なんだけど飾り付けしてみたんだ!」


マルコに手を引っ張られて、奥へ連れていかれる。

様々なもので飾り付けられた部屋はいつもより賑やかでお祭り感が一層増していた。


「え、すごい素敵!これ、三人がやってくれたの?!」

「そうよ。モニカ姉さんがどうせやるなら派手に行こうって」

「モニカにしては良いアイデアだったね」

「マルコ、殴るわよ」


モニカとマルコは昔から顔を見合わせると直ぐに喧嘩をする。

ただ、ルカとラミロの喧嘩とは違い、ウマがあっていないと言うよりは喧嘩するほどなんとやらと言った感じなので安心してみていられる。


「あ、そうだモニカ。悪いんだけどちょっと台所借りてもいいかしら?」

「勿論いいけど、何か作るの?」

「うん。にんじんのマリネ作ろうと思って。材料はもう買ってあるんだ」

「ああ、ルカ兄の好物だもんね。私たちの分もある?」

「ええ、どっさり作るつもりだから」

「やったー、久しぶりだ!」

「ルカ兄、ずるい。僕の誕生日はあのパイ作ってよ!昔作ってくれてたやつ」

「あ、ずるい私も!」


マルコとマリアの誕生日には必ず二人の好物だったアップルパイを作ってあげていたので恐らくそれのことだろう。


「私の手作りでいいならいつでも作るわよ」

「やったー!」

「あ、じゃあ私の誕生日はポトフが良い!」


ポトフはモニカの好物だ。これも毎年モニカの誕生日に作っていた。

こうして皆でワチャワチャと話が出来ていることも、未来の約束が出来ることも嬉しい。

「腕によりをかけて作るね」と応えた自分の声はやけに浮かれていて、それが少し面白くて幸せを感じた。




恐らく明日も投稿すると思います。

あと三話ほどで完結予定です、お読みいただきありがとうございました!

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