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「長居してしまってすみません。お邪魔しました」


外まで見送りに出てくれた二人に改めてお礼を告げる。

気づけば、青かった空は茜色に染まっていた。

本当はこんなに長い間滞在するつもりは無かったのだが、フェルモさんのお話がとても面白くて、ついこんな時間まで居座ってしまった。あれだけの量の本を持っているだけあって、彼はとても博識だった。経営の話や料理の話、果ては鉱石の知識なんかについても教えてもらった。好奇心が旺盛で、気になったことは何でも調べたりやってみたくなる質らしい。もっとも、主に不動産業で生計をを立てていると言っていたので、経営の話は本業に関わってくることなのだろうけど。

「博識なんですね」と言うと、何故かフェルモさん本人よりも隣に座るマレナが誇らしげにしていたのが少し面白くて、可愛かった。


「こちらこそ引き止めてしまい、申し訳ありませんでした。今度ぜひまたお時間ある時にいらしてください」


フェルモさんがニコニコ笑いながらそう言うと、マレナもそっぽを向きながら「また来いよ」と呟くように言った。

彼女の真っ赤に染まった耳を見て、思わず笑みが零れる。


嬉しいお茶のお誘いに「ぜひ」と頷き、私達はその場を後にした。


◇◆◇


「ジゼル、なんだかご機嫌ですね」

「そうかな?久しぶりに沢山動いて話したから楽しかったのかも」

「最近は外に出てなかったんですか?」

「うん。あまり出歩かないようにって言われてたし、両親が安心するまでは不必要に心配かけたくなかったから」


そう言うと、ルカがいきなり立ち止まった。

唇をぎゅっと結び、私を見る目は何故かキラキラと輝いている。


「……えっと、どうしたの?それ、どういう表情?」

「ジゼルにそう言う思考回路が備わったことに感動してるんです」

「そ、そうなの」

「はい。今、とても感慨深い気持ちです」


反射的に「大袈裟ね」と口にしそうになったのだが、今まで散々迷惑をかけたことを思い出してすんでのところでのみこむ。

最近、よく考えずに言葉にしてルカに冷めた目で見られることが多いので気をつけなければ。


「その件に関してはご心配ご迷惑お掛けしまして、本当に申し訳ないです。反省してます」


結局、改めて謝罪の言葉に口にすると、ルカは我が子の成長を見守る保護者のような優しい眼差しを私に向けた。

こちら側としてはなんだか面映ゆい気持ちになる。


「まあ散々気を揉まされた分、責任をもって貴女にもあの木偶のことについて考えてもらいますから、それでおあいこです」


微妙に生暖かい空気の中、聞こえてきた言葉に私はぽかんと口を開けて間抜け面を晒す。


「どうしたんです?」

「……え、だって、いいの?私に事件に関わって欲しくないっていってたのに」

「ジゼルが言ったんでしょう?魔道具についてもなにか役に立てるかもしれないと」

「いや、そりゃあ言ったけどさ、事件協力の方はともかく、魔道具のことに関しては結構ダメ元だったから、まさか良いって言って貰えると思わなくて……」

「あの少女に会わせた理由と同じです。以前の貴女のままならば、もう事件に関わるようなことは絶対にさせないつもりでした。だけど、今日の様子を見てある程度は大丈夫だと判断しました」


ルカは「それに色々な観点から意見を聞けた方が事件解決に近づく可能性が高まりますから」と微笑んだ。


「その代わり、今度また自分の身を顧みずに行動したらその時は覚悟してください」

「き、肝に銘じます」


真顔で忠告され、震えながら答えた。



「あ、そうだ。あのさルカ、ちょっと聞きたいんだけど、私が今日みたいにまたマレナちゃんに会うのってアウトかな?」


歩きながらふと聞きたかったことを思い出して、疑問をぶつける。


「あの少女に?」

「うん!普通に知り合いとしてまた会いたいんだけど、事件関係者同士で会うのって良くないかな?」

「いえ、容疑がかかっている訳でもないので大丈夫ですよ」

「じゃあルカ個人としてはどう思う?私がマレナちゃんと会うのは嫌?」


事件の調査がしたいから会いたい訳では無いが、ルカはどう思うだろうか。

彼は少し考えてから小さく首を横に振った。


「別に嫌では無いですよ。ただ、貴女達のどちらかもしくは両者共、再び犯人に襲われる可能性もなくはないですから、会う場所や時間帯は気をつけて欲しいです。なんならあと何度かあの少女から話を聞くつもりなので一緒についてきますか?」

「え、いいの?!」

「はい。規則上、話を聞いてる時は別室に移ってもらう必要がありますが、それが終われば自由に交流しても構いません。そちらの方が行き帰りも安心ですし」

「やったー!ルカ、ありがとう」

「いえ。それにしても随分とあの少女のことを気にするんですね。僕達や貴女と似た境遇だからですか?」

「あー、それも少しあるかも。でも単純にまた会いたいからって理由の方が大きいかな。ほら、お茶の約束もしたし」

「……へえ、少し妬けますね」

「はっ?!」


いきなり何を?!


驚いて顔を上げると、悪戯っぽく笑うルカがいて心臓が跳ね上がる。その笑い方があの日の――額に口付けされた後に見せた笑みと重なって、身体中が燃えるようにあつくなる。


あー、やばい、変なこと思い出しちゃった!思い出さないようにしてたのに……!!


「突然そんなに顔を赤くして、どうしたんです?」


顔を赤くしている理由を分かっていてわざと言ってるのか、本当に分かっていないのか、ルカがそんなことを聞いてくる。

顔を覗き込むように見られ、私は咄嗟に自分の額を隠すように手で抑えてしまった。

ルカはそんな私の動きを見て、驚いたように数秒動きを止めたあと、合点がいったようにニコリと微笑んだ。


「いつもと変わらない様子だったので、全く意識されてないのかと思ってましたが、そういう訳でもなさそうですね」

「な、な、何の話かしら?」

「いえ。これで効果がないようだったらもう少しやり方を変えなければと考えていたところなので」

「あー、ちょっと何を言ってるか分からないわね!」


意味ありげなその言葉に心臓が限界を迎え、真っ赤な顔のまま叫ぶ。


「何の話か、分からないんですか?」

「……へ」

「本当に?」


距離を詰められ、とっくにキャパシティを越えている私は「あ」だとか「う」だとか言葉にならない音を発する。


「……ま、また私の知らないルカだ」


混乱のあまり、思ったことがそのまま飛び出した。


「何言ってるんです、僕は貴女のよく知ってるルカですよ」

「ぜ、絶対違う」

「違いませんよ。もう逃げることもなさそうなので、今まで出さなかった好意を表に出しただけです」

「に、逃げる?どういうこと?」

「さあ?どういう意味でしょうかね。いつか教えますよ」



そう言って、私の知らない顔で笑うルカにまた体温が上がるのを感じた。






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