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「ということで、一応これで事情聴取は完全に終わりです。途中、お騒がせしてすみません。お疲れ様でした」

「そ、そちらこそお疲れ様でした」


団長が去り一瞬の沈黙の後、お互いに頭を下げる。


「ジゼルちゃんってあの団長とも顔見知りだったんだね」


三人だけになってまた気が緩んだのか、ラクリオが興味津々といった様子でそう言った。


「顔見知りって言っても前にほんの一瞬顔を合わせただけなんだけどね」

「それってもしかして、ロベルト関連?」

「うん」

「ジゼルちゃんってあのロベルトととも仲良いの?」


「あのロベルト」の「あの」の部分がどのように噂されているのか気になったが、取り敢えずコクリと首肯する。


「彼も昔の知り合いなの」

「そうなんだ、ジゼルちゃんって顔広いね。オーバリはそのことに関して何も思わないの?君、ロベルトのこと嫌いだろ?」


こ、この人、普通なら聞きにくそうなことを直球で聞くなあ。


そういう所は若干、マリアとマルコに似ている気がする。

ルカはラクリオの問いかけに表情を変えることなく「別に」と答えた。


「僕がやつを嫌いなこととジゼルがやつと仲が良いことは別問題ですから」

「ふーん、そうなんだ。あ、あとさ、ジゼルちゃんって魔道具にも詳しいんだね!急にオーバリと魔道具に関して話し始めたからびっくりしちゃった」


突然話題が変わったことに驚きつつ、私はへらりと笑う。


「昔から魔術とか魔道具が好きなの。私自身は魔力が少ないから作ったりすることは出来ないんだけど」

「へー!あ、もしかして、オーバリと知り合いなのもそれが関係してるの?」

「はい、ストップ」


ドキリと心臓がはねたその時、ルカから制止の声がかかった。


「話し始めると長くなるのでその話はまた今度にしましょう。さっきも言いましたが、これから人に会う予定があるのであまりゆっくりは出来ないんです」

「え!その話、本当だったの?」


てっきり、団長を早く帰らせる為の嘘かと思っていた。


「ええ、言うのが遅くなってしまって申し訳ないですが、ジゼルに会って欲しい人がいるのは本当ですよ」

「オーバリ、今日は午後から半休取ってるもんな」

「まあでも、これも半分仕事みたいなものですけどね」


ルカの言葉に私は首を傾げる。

ほぼ仕事?私に会って欲しい人って誰だ?


「この後、案内しますね。目的地まで少し歩きますが」


会って欲しい相手とやらに皆目見当もつかないまま、私は大人しく頷いた。




ルカの言う「目的地」は王宮から離れ、三十分ほど離れたところにあった。ちょうどヴィリアムのお店がある方面だ。

彼は可愛らしいレンガ造りの一軒家の前で立ち止まると、家の扉を二回ノックした。

すると、直ぐに勢いよく扉が開かれる。


「いらっしゃい!!」


中から出てきたのは、先日の少女だった。

彼女はルカを見たあと、周囲をキョロキョロと見渡して首を傾げる。


「って、あれ……?あの人は?」

「約束通り、ちゃんと連れてきましたよ。ほら」


少女がルカの視線の先を辿り、そして目が合った。

彼女は頬を紅潮させ、こちらへ駆け寄ってくる。


「ひ、久しぶり!オレのこと、覚えてるか?!」

「もちろん覚えてます!元気そうでよかった」

「オ、オレはアンタが守ってくれたから全然元気だよ。そっちこそ大丈夫だったか?その、結構怪我してたから……」

「はい。この通り、もうすっかり治りました」

「……そっか、良かった。本当に良かった」


少女が深く息を吐いた。

私からしたら勝手に突っ込んで怪我をしただけなので自業自得だとしか思っていないが、彼女からしたら自分のせいで怪我をしたという思いがあるのだろう。悪いことをしてしまった。トラウマになってないといいのだが。


「あの事件のあと何度か話を伺っていたのですが、彼女はその度に貴女にもう一度会いたいと訴えていたんです」

「え、そうなの?!」

「貴女の考え方が変わらないうちは会わせるつもりはなかったんですが、この間、ようやく聞きたい言葉を聞けたので、もう会わせても一人で暴走することは無いかと判断しました」

「な、なるほど」


手のかかる大人で本当に申し訳ない。

だけど、また彼女と会えてよかった。私個人が事件の調査をすることは無いから、もしかしたらこのまま会えずじまいになるかと思っていたところだったのだ。


「そ、外でずっと話すのもなんだし、家に入って話そうぜ」


照れているのか、やけにぶっきらぼうな口調で彼女が言う。


「え、だけど、いいんですか?」

「うん。おっさんもアンタと話したいって言ってるから」

「おっさん……?」

「あ、うん。オレの雇い主のこと。オレ、親がいなくてずっと孤児院にいたんだけど、そこに来たおっさんがうちで働いてくれるなら衣食住を保証するって引き取ってくれて、二年前からここに一緒に住ませてもらってるんだ」


あとげなさの残る顔ではにかむ彼女からは、雇い主への隠しきれぬ好意が伝わってくる。


「おっさんは恩人なんだ。だから少しでも早く恩返ししたいって思ってるんだけど、オレ、学がないし、出来ることも少ないから今んところ、あんまり役に立ててなくて、あの日もおつかいを頼まれたのに、あんなことになっちまって……」


そのいじらしさに堪らなくなり、思わず俯いてしまった少女の小さな頭を撫でる。

彼女は一瞬ポカンとしてから、じわじわと頬を桜色に染めた。


「な、な、こ、ここ子供扱いすんじゃねー!!」

「あ、ごめんなさい。つい……」


いかん。無意識に子供達に接してる気持ちになって、馴れ馴れしくしすぎてしまった。

いかん、いかん。距離感には気をつけなければ。


「もう!早く行くぞ……!」

「う、うん」


慌てて、早足で家へ向かっていく少女の背中を追いかけた。



◇◆◇


家の中は外見と同じく、可愛らしく綺麗に整理されていた。

壁際には大きな本棚が配置されており、様々なジャンルの本が大量に並べられていた。まるで小さな本屋のようで少しわくわくする。

お菓子でも作っていたのか、家の中は甘い美味しそうな香りに満ちていた。


「初めまして、私はマレナの雇い主のフェルモと申します。件の事件で貴女が彼女を守ってくれたと聞きました。なんとお礼を言ったらいいのか……」


私たちの向かい側に座った男性が眉尻を下げ、そう言った。

その横では二人がけのソファに座っている少女が居心地悪そうにもぞもぞとしている。

彼女がおっさんと呼んでいる人は優しげな初老の男性だった。雰囲気なんかがどことなくロイさんに似ていて落ち着く。

そしてどうやら少女の名前はマレナというらしい。


「いえ、マレナちゃんに怪我がなくて良かったです」


彼にならって少女の名前を呼ぶと、彼女は「あ」となにか思い出したように声を上げた。


「そう言えばオレ、まだ自己紹介してなかった……!」

「……マレナ、命の恩人に名前も名乗っていなかったのかい?」

「い、色々ありすぎて頭から飛んでたんだよぅ……」


少女もといマレナがしゅんと小さくなる。


「そう言われると、私も自己紹介出来ていなかったのでおあいこということで。改めまして、私はジゼルと言います」

「ジゼルさん、ですね。この度は本当にありがとうございました。何度頭を下げても感謝しきれません」

「そんな、頭をあげてください。当然のことをしたまでですか」


ぐぎゅるるるるるるぅぅ


「――ら」


深く頭を下げるフェルモさんに慌てて声をかけたその時、空気の読めない私のお腹の虫が盛大に鳴った。


し、しまったぁ……。朝しっかり食べたのに……!!どうしてよりによってこのタイミングで鳴るのよ……!!!


「ジゼル……」


隣に座るルカから冷めた視線を向けられる。

し、仕方ないじゃない、お腹減っちゃったんだもの……。


「あ、そういえば、ついさっきクッキーを焼いたんです。すっかりお出しするのを忘れてました。今、持ってきますね」


フェルモさんが気を使ってくれたのか、本当に思い出しただけなのか、部屋の奥へ消えていった。

……そうか、あの美味しそうな香りはクッキーだったのか。

あんないい香りを嗅ぎ続けたらお腹が鳴るのも仕方がない、と自分に言い訳をして心のダメージを少しでも軽減しようとする。


フェルモさんが持ってきてくれたクッキーはサクサクのほろほろでとても美味しかった。

あまりにも美味しすぎて、私はルカに「食べ過ぎですよ」と小声で忠告されるくらい食べた。




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