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そうして次に目を開いた時、私はおんぎゃーと泣き叫ぶ元気な赤子となってこの世に生まれ落ちていたという訳だ。


緑に溢れたのどかな田舎に生まれた今世の私は、ジゼルという可愛い名前を授かり、幸運なことに生まれてから何一つ不自由なく、すくすくと育った。家族にも恵まれて、少しおっとりした両親と共に平和に暮らしている。

前世の私は深緑色の髪に青色の瞳をしていたが、今世は赤褐色の髪に青色の瞳をしている。目の色だけは変わらないが、タレ目から猫目になったので目元の印象も変わっていると思う。

幼い頃は鏡を見て大きく印象が変わった自分の顔に違和感を感じることもあったが、最近ではそんなこともすっかり無くなった。


さて。そんな私だが、先日無事に十六歳の誕生日を迎えたと共に一つ、大きな環境の変化があった。

最近、父の仕事の関係で田舎から王都の近くへと引っ越したのだが、実はその引っ越し先というのが、前世で私が住んでいた街だったのだ。

名前が少し変わっていたので到着するまで気づかなかったのだが、街を見た瞬間、あまりに見覚えのある景色に驚いたものだ。勿論ところどころ変わっている所もあるが、街や人々の雰囲気は当時のまま何も変わっていなかった。

大好きなこの街で再び暮らせるのは嬉しいし、まだこの街に引っ越してきて日も浅いが気の合う友人もできた。今の人生に不満なんて何もない……のだが、一つだけどうしても気になる事がある。


それが子供たちの事だ。


あの子達は皆しっかりしているから、ちゃんとやれているかなんて心配はしていない。けど、あの子達がどんな風に育ったのか、どんな仕事に就いたのか、今なにをしているのか、前世で見届けられなかったみんなの未来が気になって仕方がない。

これまでは年齢や環境など諸々の理由があって彼らについて調べることは出来なかったけど成長し、この街に戻ってきた今ならもう少ししっかりと調べることが出来るだろう。


会って話をしようだなんて思わない。

あの子達にとって私は既に過去の人物。当の昔に死んだ人間だ。

それなのに今更、前世だなんだと言って悪戯に顔を出せば、未来に進み始めているあの子達の邪魔をすることになる。でも、やっぱり彼らが現在どうしているのかは気になる。だから元気に生きている姿を一目見たら、もうそれ以上彼らには関わらない。

そう自分の中でルールを設けた。


調べたところ、どうやら私は死んだあとすぐにジゼルとして生まれ変わったらしく、前世の私が死んでから現在までトータルでまだ十六年しか経っていなかった。

だから、きっと頑張って探せば何かあの子達の現在に繋がる手がかりくらいは手に入れることが出来るはずだ。

今は自分が新しい環境に慣れるので精一杯だけど、もう少し落ち着いたらあの頃の事を調べながらゆっくりとみんなの事を探そう。





……なーんて思っていた時期が私にもありました。


まさか、まさか、こんな思いがけない形でルカを見つけることになるとは。

あの子が、歴代最強と謳われる魔術師……。


「ジゼル?」


確かにルカは昔から魔術の才能はあったし、頭も良かったし、何よりも努力家だったからきっと素晴らしい人になるんだろうとは思っていたけども。


「ちょっと、ジゼル!」


ルカと同じ名前の凄い魔術師がいるということも勿論知っていた。けど、ルカは自分は魔術師にはならないって言ってたし、目立つこともあまり好きな子じゃなかったから、てっきり別人だとばかり……。それに今までずっと田舎に住んでいたからルカ・オーバリの顔も知らなかったし。いや、ルカがどんな風に生きていてもそれであの子が幸せならべつに良いんだけど。でもまさかそんな……。


「もう、ジゼルってば!」

「へ?」


耳元で自分を呼ぶ大きな声に驚いて顔を上げると、ルカ・オーバリの肖像画入りペンダントを貸してくれた友人のカテリーナが頬を膨らまして私を見ていた。

しまった、あまりの衝撃に少し意識が飛んでた。


「あ、え、どうしたの?」

「それはこっちのセリフよ。急に固まっちゃってどうしたの?名前呼んでるのに反応してくれないし」

「ご、ごめん、ごめん」

「もしかしてジゼルったらオーバリ様に一目惚れしちゃったとか?」

「ち、違うわよ。ちょっと知り合いに似てて驚いただけ」

「え!貴女、こんなイケメンに似てる知り合いがいるの?!」

「ええ、まあ遠い昔に会っただけだけなんだけどね」


それでも羨ましいわ、と弾んだ声で言うカテリーナに笑い返しながら私は再びペンダントの肖像画に視線を落とす。


記憶にある姿よりだいぶ大人っぽくなっている気がするが、私がこの子の事を見間違えるわけがない。

ペンダントの中に居るのは、何度見ても私の知っているルカだった。

やはり、あの高名な魔術師はルカ本人で間違いないようだ。


因みにこのペンダントはカテリーナのお父さんがやっているお土産屋さんに売っているものだ。お調子者のお父さんが軽いノリで作ったら意外と売れ行きが良くて、今では店の人気商品の一つになってしまったらしい。

以前、なにかの流れでその話になり、本人に申し訳ないからやめて欲しいと嘆くカテリーナに、そう言えば一度もルカ・オーバリの顔を見たことがないとポロッと零したところ非常に驚かれ、今日こうして店からペンダントを持って来てくれた。

そして興味本位でペンダントを覗いたら見覚えのある顔があり、ルカ・オーバリと私の知っているルカが同一人物だという事が判明したという訳だ。



「ペンダント、持ってきてくれてありがとうね」

「あら、もういいの?どうせならこのペンダントあげるけど」


少しの名残惜しさを覚えながらもペンダントを返すと、カテリーナがそんなことを言った。

私は反射的に断ろうとして、少し考えてから結局ペンダントを貰う事にした。

これだけ有名な魔術師になったのならもうルカを直接見かけることは出来ないかもしれない。それならせめて、このペンダントだけでも貰っておこう。


「じゃあ、お言葉に甘えて貰おうかな」

「ふふふ、やっぱりジゼルもオーバリ様のファンになっちゃったのね。まあ仕方ないわよね。こんなにお顔が整ってるうえに若くして魔術師長を務めているだなんて、まるで小説の主人公のようだもの」


うんうん。その通り、ルカは本当に凄い人なのだ。

自分が褒められるよりもずっと嬉しいその言葉に思わず鼻の穴が膨らんでしまう。


私は前世から、嬉しくなったり褒められたりすると分かりやすく鼻の穴が膨らんでしまう癖がある。

子供達にはいつも「その顔可愛くないよ」と言われていたので何とか直そうとは思っているのだが、今のところ全く直る兆しはない。

あと嘘を吐くときは耳を触る癖があるらしい。前にルカが教えてくれた。

そのあと続けて「貴女はすぐに感情が顔に出るから癖がなくても何を考えてるかすぐにわかりますけどね」と言われたことも思い出して慌てて顔を引き締める。

変に思われてないかとカテリーナの方に目を向けたが、彼女はペンダントを見ていて私の表情の変化には気づいていないようだった。不細工な顔を見られなくて良かった。


「でも、オーバリ様ってあんなに人気なのに婚約者もいらっしゃらないのよね。だから貴族の間では誰が彼の婚約者になるのか色々と噂されてるらしいわよ」

「え。ル、オーバリ様って婚約者いないんだ」

「ええ。男色家ではないみたいなんだけど、どんな縁談も断ってるんですって。まあ、ファンからしたらそういう手に入らない魅力がまた良いのかもしれないけど」


……へえ、どうして縁談を断るんだろう。別に女嫌いではなかったはずだけど、他に誰か婚約者にしたい子でもいるんだろうか。


「どちらにせよ、私達平民には関係ない話だけどね。そもそも見かける機会すら滅多にないし」


「だからあんまり本気になっちゃ駄目よ?」と悪戯っぽく笑うカテリーナに私は「大丈夫、ならないわよ」と笑った。


「それじゃあ、私このあと用事あるからそろそろ帰るね」

「幼馴染の彼とデートだっけ?まったく羨ましいわね」

「へへ、いいでしょ。久しぶりのデートなの。貴女の分まで楽しんできてあげる」

「余計なお世話です!ほら、早くいかないと遅刻しちゃうわよ」

「うん、じゃあまたね」

「またね」


デートが楽しみなのか、輝かんばかりの笑顔を浮かべるカテリーナを手を振って見送る。

全く、あんなに可愛らしい恋人がいる幼馴染くんが羨ましい限りだ。


カテリーナの姿が見えなくなるまで手を振ってから、私は小さくほぅと息を吐いた。


……恋人、か。

ルカにはまだ婚約者はいないと言っていたけど、他の子達はどうなんだろうか。

恋人はいるのかな。結婚は?子供は?

みんなは一体どんな生活を送って、どんな人と暮らしているのだろう。あの子達は今、幸せだろうか。

幸せだといいな。



随分と遠い存在になってしまったルカの肖像画を見ながら私は子供たちの未来に思いを馳せた。



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