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牢屋の中からこんにちは!



 ――ガンッ!


 自分も掛けているテーブルが、対面の男性により強くたたかれた。


「で、自分が何をしたかわかっているのか?」


「さ、さぁ? 何のことだかさっぱり~」


 ガンッッ!! 二度目の打撃音。


 や、やっほー皆さん。

 世界一の大道化ルカナ・シオンさんですどーも。さっきの演劇は楽しんでくれた? 綺麗だった!? そっかそっか、喜んでくれて嬉しいよ。


 ……えーはい。そろそろ現状説明をしますね。


 簡単に申しますとー……先ほどの演劇、無許可で実行したのが騎士団の方々にバレましてー。現在留置所でございますですはい。


「それでー? 国に許可を取らずに謎の行軍を敢行して、民衆を扇動して人々の営みを妨害し? あげく街中で火薬を使用したー? わざわざ罪状を語るまでもないよな?」


「いやー。で、ですからですね? あれは火薬とかそういった危険なものじゃなくて」


「ハァーーッ!!」


 深ーーいため息を目の前で吐かれて、ダイレクトに口臭が伝わってくる。うっ、く、臭い。


「んなことはこっちでも把握してんだよ。あらかた街中を捜索してみたが、火薬を使用した痕跡も発射台も何もかも存在しなかった。お前が言うその”能力”を使ったことはな」


「じゃあ」


「バァーーーーカ! むしろお前が火薬ぶっ放してくれた方がこっちも簡単に片付いたわ!!」


「はいっ! すみませんっ!!」


 罪人への説教半分、厄介ごとへの八つ当たり半分の取り調べ担当のおじさんの声に、にべもなく謝罪の言葉を告げる私。うぅ、だって怖かったんだもん。


 彼がこんなに怒っている理由は、先ほど見せた私の”幻を操る能力”に問題があるのです。


 端的に言いますとこの○○の能力というものは、一般人が決して持つことのできない特別なものです。これと同じ力を行使できるのは国から指名された貴族の人間のみで、外部に決して漏らさないよう生まれてすぐに名前と血液を登録されます。


 察しの良い方々ならばもうお判りでしょう。名簿にも書かれていないルカナシオンの名前と、外から来たという事実。花火の火薬など目ではない爆発力を持つ爆薬、それが今の私。


「なぁ、早くゲロってくれねぇか? お前は一体どの貴族様の血族なんだ?」


「ですから私は今日初めてこの国に来た一般人ですってば。いやだなぁお兄さん、私が貴族なんて柄してます?」


「見えねぇな、あぁ見えねぇ。その気色悪い顔といい作法のさの字もねぇ態度のお前が貴族なわけねぇ。……だから迷惑してんだろクソっ」


「酷っ! いうに事欠いてクソはないでしょクソは! これでも花も恥じらう乙女なんですよ!?」


(なぁーんちゃって、お兄さんの反応が面白くてついからかってしまった。そろそろ真面目に受け答えしないと拷問室送りも考慮されてしまう)


 はぁ。さてっと、これからどうしようかなぁ。計画なんかなーんもない行き当たりばったりでこの国に来たけれど、町中の人が辛そうな顔をしているから場を盛り上げるためにやっちゃったけど。(まぁ、ほんの少しおひねりを目的にしてたりなかったり)


 その時、尋問室の扉が開き新たな騎士の人が中に入ってきた。


「どうだ? なんかわかったか」


「いいえ、どの家の方もそのような人物は知らないの一点張りで。そちらは何かわかりましたか?」


「まったくだ。強情というかなんというか」


「はぁ。あの、早く喋った方が身のためですよ?」


「ありがとう騎士のお兄さん、でも私の知ってることは全部話したのでこれ以上尋問しても何もでないですよ?」


「……これはなかなか、厄介ごとの気配がしますね」


「だろ?」


 騎士の人と尋問官が何やら親し気に話している傍らで、私は椅子をブランコのように揺らして唯一の外へとつながる窓に目を向ける。来たときはあんなに青々していた空も赤に染まり始めた。もう夕方ごろか。


「まぁそろそろ俺もお前も退勤時間だ。この強情な奴の取り調べは明日に回すとして、今日は上がるか」


「そうですね。明日のことは明日の我々に任せましょう」


「えっ、解放されるんですかっ? やったー!!」


「お前は独房入りだ」


「ええーー!!」


 ||| ルカナ 収監 |||


「そんなー! 今日の所は開放してくれてもいいでしょおじさんのケチー!」


「これが普通の取り調べならな、だがお前は事情が違う。明日までそこで大人しくしてろ」


「そんなこと言って、一人ひもじい思いをしてる私のことを思い浮かべながら晩酌するつもりでしょ! この畜生ーー!!」


「人聞きの悪いことを言うなっ!!」


 そう最後に吐き捨てるや否や、構いきれんと言わんばかりに彼は扉の奥に消えていった。

 私が入れられたこの牢屋はどうやら特別収監室というらしく、私以外には牢の中にも外にも収監された人は一切いない。女であることも考慮して一人部屋に入れてくれたのだろうが、話し相手がいないのは寂しいものだ。


(枕、毛布、布団。まぁ思ってたのとは違うけど、屋根と寝床ができただけ良しとするか)


 この単純さは我ながらどうかとも思うが、実際タダでこのレベルの寝床なら万々歳である。


「ふぁぁ。さて、晩御飯が運ばれてくるまで一休みしますかー。ZZZ」


 結局、用意されていた枕も毛布も布団も使わず、部屋の隅で体を丸めるようにして私は眠りについた。一度横になると動くことがめんどくさくなって、これでもいいかーと投げやりになるあの感覚である。なんだかんだ、私も疲れていたのだ。


(あの子の笑顔、可愛かったなぁ。……フフ)


 ワンちゃんの風船を手渡した時に見たあの少女の顔。それは空に浮かべたどの花火よりも美しく尊いものだった。


(明日も、世界中の人々が幸せでありますように)


 そんな願いを唱えつつ、今度こそ瞼を落として眠りについた。



 コンッ ガコンッ


 ーーちください! 面会の許可は下りてませんのでっ!!

 ――では、私が今この場で許可します。はやく彼女に会わせなさい


「ん、んん?」


 何やら、扉の方から騒がしい声が聞こえてくる。昼間のおじさんより若い男の声と……女の人?


 ガガンッ!!


 のそりと体を起こし、くぁっと背伸びを一回したところで、ガタガタと音を立て続けていた扉が勢いよく開かれた。


「ですから、貴女様をこのような薄汚い場所に近づけさせるわけにはいかないのです! 今ならまだ間に合いますから、どうかお戻りを!」


「この私に何の権限があって物を申しているのですか? もう貴方に用などありません、下がりなさい」


「で、ですがっ! ――――――ッ!?」


 ・・・・・・・・・・。


「なっ!? い、いない!? いつの間に牢屋を抜け出したんだ!?」


「これは一体、どういうことか説明していただけませんか? どうして彼女が、牢屋の中に入っていないのか」


「そ、そんなはずはっ!!?? も、申し訳ございません! すぐに兵士を集めて捜索させますので、どうぞこちらでお待ちください!!」


「今こうしている間にも罪人は遠くへ逃げています。私などにかまわず、貴方は貴方の責務を全うしなさい」


「は、はっ!!」


 ・・・・・・・・・・・・・。


「……フゥ、兵士の方はもう行きましたよ。どうぞ安心して、姿を見せていただけませんか? そこにいることはわかっております」


 指、刺された。ハッタリじゃなく本当に私の場所に気づいたのか。


「私のことよく見つけられたね。これでも隠れるのには自信あったんだけど」


 部屋の一角 周囲の風景に擬態するように掛けた幻を解除する。いやぁ、本職の人が気づかない擬態に気づくって相当だよこの人。さっきの言葉は嘘でも誇張でもなく、本当に誰一人として見破った人はいなかったんだけどなぁ


「えぇ、貴女の隠密は完璧でした。相手が私でなければ気づくことはできなかったでしょう」


 手で口元を隠しながら微笑む、目の前の白い長髪の美少女。この人、かなり強いね。私の幻術を見破ったことを抜きにしても、この気品ある佇まいといい足運びといい。


 ……ふむ


「ですが、貴女に対する質問が一つ増えてしまいました。お聞きしてもよろしいですか?」


「ふふんっ! 私の幻術を見破ったご褒美に、特別に答えてやらんこともないぞよ?」


「フフッ、ありがとうございます。では、最初の質問です。貴女はどうしてこのようなことを? 失礼ですが先程お隠れになったことで、少々面倒なことになっておりますよ?」


「あぁまぁ、ね。外から二人入ってくることには気づいてたし、絶対どちらかにはバレるだろうなと思ってやっただけだよ。ちなみに、本命は貴女の方だった」


「あら、それは何故ですか?」


「昼におじさんからある人物の特徴を聞いててね、足運びの音と入ってきた時の表情を観察してわかったんだ。――あなた、貴族の人でしょ。それも腕に覚えのある」


 白の少女の纏う雰囲気が、変わった。

 彼女の切れ長の目に見られるだけで、全身が針に刺されているような感覚に陥ってしまう。威嚇? それとも私の力を試すため?


「お見事です。貴女のご明察通り、私はこの国で貴族をやらせていただいております ホワイト と申します。以後お見知りおきを」


 そう言ってホワイトはスカートの端を掴み、綺麗な所作でお辞儀をする。独房にぶち込まれた市民どころか犯罪者と呼ばれる私に対して、だ。

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