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魔法世界の剣術士 下  作者: 相會応
アウトバーンに影は奔る
14/22

5 ☆

次こそはこの私が……!

        さくや

 ビルを破壊し、岸野きしのを救った一希かずきは、時間停止の《モルガン》、空中移動の《マゾエー》の付加魔法エンチャントを用い、アウトバーンを逆走していた。

 無人トラックは依然としてアウトバーン上を走行中であり、一希の進行方向上から、無数のトラックがやってくる。


「最短ルートで向かう。モルガン、僕に魔法チカラを貸せ――」


 青い光を纏う魔剣レーヴァテインを手に、一希は冷静に付加魔法エンチャントを用い、周囲の時間を止める。

 青の世界が広がり、まるでトラックが全て停止し、道を開けているようだ。


城谷しろたに生徒会長と咲哉さくやくんが乗るトラックは――いた!」


 風の音に混じり、魔法が発動する音。そして、誰かの叫び声や、"捕食者(イーター)"の咆哮も、聞こえてくる。

 走る一台のトラックが、巨大な黒い影に猛追されながら、一希の視界の先に見えてきた。


「《マゾエー》!」


 一希はすぐに赤の付加魔法(エンチャント)に切り替え、空中に飛んだ。


「ここからでは、トラックもろとも斬ってしまう……!」


 トラックに乗った物資を無傷で送り届けるために、一希は上空からトラックを追いかける。

 トラックでは、荷台の上に咲哉がおり、追いかけてきてくる"捕食者(イーター)"の執拗な攻撃を、魔法で捌いている最中であった。

 荷台の中から、顔を出した城谷が、防御魔法の火花が散る中で、夜空に顔を向ける。その行為を、防御魔法を発動している咲哉が制する。彼はまだ、こちらには気がついていないようだ。


「城谷様、危険です!」

「あらあら、綺麗なお星さまだこと」


 咲哉の制止を無視し、城谷が呟く。

 紫色の瞳が、光を求めるように夜空を見渡していた。

 隻腕の"捕食者(イーター)"の波状攻撃が続く中、夜空に瞬いていた赤い星が、突如青い流星となって、落ちてくる。

 その様子を、城谷は捉えていた。


「……ようやく、来ましたか」

「来た……? 一体何が――!」


 咲哉が思わず振り向いた直後、青い流星はトラックを追う隻腕の"捕食者(イーター)"の後方から、よりいっそうの輝きを放った。


「――うおおおおおっ!」


 そんな叫び声と共に、隻腕の"捕食者(イーター)"の胴体に、横一閃の斬り込みが奔り、黒い影に青い閃光が生じる。

 魔剣レーヴァテインを握った星野一希が、上空より舞い降り、隻腕の"捕食者(イーター)"の胴を一刀の元、両断したのだ。


「なん……だと!?」


 あっと驚く咲哉。

 斬られ、悲鳴を上げる隻腕の"捕食者(イーター)"からすぐに離脱した一希は、(マゾエー)付加魔法(エンチャント)を発動。

 目にも止まらぬ速度で走行する車と車の間を掻い潜り、その場から高速で離脱しつつ、トラックと並走する。

 致命傷になり得る攻撃に怒り狂った様子の"捕食者(イーター)"は、空を自由自在に舞う一希へ向けて、背中の触手を一斉に飛ばしてくる。


「星野! トラックと道路をやらせるな!」


 咲哉が叫んでくる。


「わかっている!」


 一希はそう応答してから、紋章のような足場を利用し、再び"捕食者(イーター)"の元へ接近する。

 空中で(モルガン)付加魔法(エンチャント)能力に切り替え、足場を離れた僅かな瞬間――それは他の者から見える一希であるが、その一瞬のうちに一希は、隻腕の"捕食者(イーター)"背中から伸びる触手を全て、切り裂いた。

 ならばと"捕食者(イーター)"は、残された一つの腕を振るい、空を舞う一希を、まるで人間が羽虫を落とすかの勢いで、はたき落とそうとする。

 拳が自身の身に降りかかる寸前で、一希は(マゾエー)付加魔法(エンチャント)能力を使用。空中で急激に進行方向を変え、夜空へ向けて飛翔した。


「今です咲哉。剣術士の援護を」

「私が剣術士の援護を……。……《エクス》!」


 下を見ると、攻勢に回った咲哉が、トラックの荷台の上より、攻撃魔法を連射。白い光弾が、次々と"捕食者(イーター)"に直撃し、小規模な爆発を引き起こす。


「次で決める……!」


 空中からそう呟いた一希は、レーヴァテインを両手で握り締め、青い光を纏って急降下する。

 周囲のビルが一斉に青く染まり、灰色でしかなかった自分の視界にも、青色と言う色彩が宿り、周囲を青一色に染め上げた。

 そんな中で、こちらを忌々しげに見上げる様子の"捕食者(イーター)"が、片腕だけを、天に向けていた。


「思い知れ隻腕の゛捕食者イーター゛!」


 一希はこちらを掴みとろうとする腕を冷静に(かわ)し、反撃にレーヴァテインの刃を腕に突き入れる。

 果物の皮を剥ぐように、レーヴァテインの刃が"捕食者(イーター)"の黒い身体を斬りながら、落ちていく。

 両腕の振動を感じるのもそこそこに、一希は"捕食者(イーター)"の胴体を、今度は縦方向に切り結んだ。

 十字の傷をつけられた隻腕の"捕食者(イーター)"であったが、その生命力と執念は凄まじく、傷から黒い血飛沫を出しながらも、未だにトラックを追いかけようと暴れまくる。

 だが、身体はその構造を保てなくなり、やがて高速道路上で膝をつき、転がるように倒れる。


「隻腕の"捕食者(イーター)"。そこまでして、()()()()が欲しかったのでしょうか?」


 "捕食者(イーター)"が倒れる一部始終を見届けていた城谷が、そう呟く。


「人類に仇なす異形の怪物に、情けはいりません。咲哉、とどめを」

「はっ」


 トラックの荷台に降り立った一希を尻目に、咲哉は破壊魔法の魔法式を転回。その照準を、高速道路上で暴れまくる隻腕の"捕食者(イーター)"に向けた。

 暴力的なほど眩しい白い魔法式の光が周囲を包む中、ふと一希は、隣に立つ城谷の表情を窺った。


「……」

「……っ」


 目映い白の光に染められる彼女の顔は、咲哉の魔法によって絶命される"捕食者(イーター)"の事を、ひどく睨んでいるようであった。そんな彼女の胸のうちにあると思われる真意を、一希はまだ、深くは知ることはなかった。


「終わりましたね。皆さん、ご苦労さまです」


 終わった……それを聞いてほっと一息ついた一希は、しかし友人の安否を心配していた。


「武は無事ですか?」


 それに対する返答は、黒羽からのものであった。


『無事です。治癒魔法ですでに治療は終えています』

『一希っ!? お前も無事か!? よかったでホンマ!』

『暑苦しいですね……』


 デバイスの向こうから、いたって元気な友の声が聞こえてきて、一希は思わず笑みを溢した。


「これくらいでいちいちぬか喜びをされても困るがな」


 平穏となったトラックの上で夜風を浴びながら、咲哉は冷静に言う。


「まあ、いいではありませんか。これは人類が"捕食者(イーター)"に抗う、反撃の狼煙の一歩目となることを、期待しましょう」


 城谷のそんな言葉が、今は、本当にそうなることを願うばかりだ。

 風を浴び、横髪に指を這わす彼女の横顔を見つめて、一希はそう感じていた。


挿絵(By みてみん)

〜すれ違う二人〜


「作戦は成功だね」

かずき

「みんなが無事で良かった」

かずき

         「ふん」

          さくや

         「いい気になるなよ、星野」

          さくや

「いい気にはなっていないよ」

かずき

「ただ、みんなが無事でよかったって」

かずき

「今はそう思っている」

かずき

         「貴様がどうしようが」

         さくや

         「最後まで私が城谷様をお守りする」

         さくや

「僕は別に君のポジションを奪うとか」

かずき

「そんな事は思っていないんだけどな……」

かずき

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