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魔法世界の剣術士 下  作者: 相會応
アウトバーンに影は奔る
12/22

3 ☆

流石にスカートは寒いかも……。

         りん

 日本が誇る有数の港町神戸から、大阪市街地を結ぶ新神戸高速道路。日中は通常の高速道路ハイウェイと同じく、速度制限がある中で一般車の通行が許可されているが、夜間になればそこは昼間とは全く別の様相を見せる。

 車のライトが、目にも止まらぬほどの閃光のように行き交う、無制限の場。

 そこに有人車両が走ることは許されず、機械によって完璧に制御された車両のみが走行する事を許された、通称――速度無制限高速道路(アウトバーン)であった。

 一時ニュースにもなったが、無謀にもそこを有人車両で通ろうとした違反者があり、走行してからものの数秒で後続車両に追突され、大事故に陥ったことがある。あまりの速度に、並の人間の技術ではどうすることも出来ないのだ。

 アルゲイル魔法学園に送られる物資も、この無数の閃光が行き交うアウトバーン上を行く。


「こちら星野一希(ほしのかずき)武田武(たけだたけし)。指定された場所に到着しました。"捕食者(イーター)"出現まで待機します」


 そんな高速道路がよく見下ろせる、道路横の高層ビルの屋上より、一希と武はじっと真下を睨む。

 数十年前は夜の繁華街の様相を見せていた大阪都心の夜の景色は今や、最小限の街灯と雲の切れ間から覗く月の光だけが、その全体像をシルエットとしてぼんやりと照らしてくれていた。


(月明かりだけはいつまでも変わらないんだな……)


 城谷光冬(しろたにみふゆ)に連絡をいれ終えた一希は、やや肌寒く感じ、そっと身体を擦った。あれから仮眠はとったが、よく眠れたりはしなかった。


『遅れずにきちんと来てくれたようで、偉いですね』

「子供ではありませんから」


 すでに向こうはトラックの中に乗っているようで、風を切る音、貨物が揺れる音がBGMとなって、聞こえてくる。

 通信相手である城谷の仮説が確かであれば、今夜この高速道路アウトバーンを通る補給物資を襲撃しに、隻腕の゛捕食者イーター゛が現れる。

 高速道路アウトバーン上に間隔をおいて配置された一希たちは、それを発見次第、討伐することになる。


『こちら黒羽と岸野。こちらも問題なく、所定の配置に就きました』


 耳元に装着したデバイスからは、黒羽の声で、残り二人も準備が完了した知らせが伝えられる。


『では、これより作戦を開始いたします。各員の健闘を期待しています』

「万が一やばかったら、どないすんねん?」


 武が一応、訊いてみる。


『やばくなったらやばくなったで、頑張りましょうね』

「根性論かいな!? ヤバイな、それ」

『ええ、マジヤバ、です』


 そんなやり取りを最後に、城谷との通信は、途絶える。

 

「おい生徒会長!? なんや、どないしたんや!?」


 いきなり途絶えた通信デバイスを睨み、武が息を吹き込むが、やはり応答はない。


「落ち着いて武。何かがあったら向こうから知らせが来るはずだ」

「……せやな」


 眼下に広がる高速道路を見つめ続ける一希の冷静な言葉に、武は落ち着きを取り戻す。

 どうにか深呼吸をした武は、改めて、高層階から臨む眼下を見つめた。


「しっかし高いなー。こんなん、落とし物でもしたら終いやで」

「そうだね。うっかりおっこどさないように注意しないと」


 一希はそう言って、やはり目を凝らし続ける。

 そんな一希の横顔をじっと見ていた武は、こんな質問をしていた。


「なあ、自分、白黒なのに夜見えんのか?」

「見えるよ。明かりさえあれば、白黒ははっきりしている」

「ま、それは俺も同じか」


 武はそう言って、もう春だと言うのにも白い息を吐く。それほどまでに今宵の春の夜は、冷たく凍えそうだ。


「しっかしまあ、やるとは決めたもんやけど、ホンマにこれで解決するんやろうか。隻腕の゛捕食者イーター゛とやらを倒したところで、また別の個体が出てくるんとちゃうかー?」

「今までだって人間は、゛捕食者イーター゛と戦って今日まで生き延びてきた。これだって同じことさ」


 少なくとも、と一希は、自身の身体が震えるのを自覚して、遠くを臨む。これは少なくとも、寒さによる震えではなかった気がする。


「……それに、僕にはやらなくちゃいけない理由がある。友だちとの約束を、今度はちゃんと果たしたいんだ。みんなを守るって言うね」


 未だ、彼のように恥ずかしがらずに真っ直ぐと言うことは叶わず、一希はやや気恥ずかしく、誤魔化し笑み混じりに言いきる。


「たいそうな約束やな」

「本当だよ。まるで、無理難題で、奇天烈な願いだ」


 一希が自嘲混じりに肩を竦める。


「でも、例えゴールが見えなくとも、僕はこの道を往かなくちゃね――」


 一希がそう言った直後、一迅の風が、背後から流れて、過ぎていく。

 ビルの屋上の風にしてはそれは、余りにも一瞬で、とても、冷たかった。


((――ご主人様っ!))

「武っ!」


 ベイラ及びビュグヴィルの言葉に意識を覚醒させた一希は、咄嗟に隣にいる武の身体を押し倒し、自身は振り向く。

 刹那、無数の刃のような鋭利な触手が、一希と武が元いた場所目掛けて突き刺さる。屋上の床が破壊され、瓦礫と破片が舞う中、一希はすぐに魔法式を発動していた。


「ライトニング!」


 明かりにもなる、雷属性の魔法の攻撃が、屋上全面に行き渡った時、悲鳴をあげたのは、屋上に出現した"捕食者(イーター)"であった。


「"捕食者(イーター)"やと!?」

「武、下がって!」


 今の牽制では仕留めきれない。痺らせただけだ。

 痛みを感じ、暴れまわる"捕食者(イーター)"が、両腕を交互に上げて、まるで太鼓を叩くように、床を破壊していく。

 地震のような揺れの中、一希と武は転がりかけながらも、"捕食者(イーター)"の全体像をどうにか捉えた。


「こいつは両腕がある。隻腕の"捕食者(イーター)"じゃない!」

「別もんってことかいな!」

「そう言うことだ!」


 一希は魔法学園の制服の裾を翻し、"捕食者(イーター)"による背中の触手の攻撃を回避しつつ、至近距離で触手に向けて、攻撃魔法を発動した。


「切り裂け、《トリスタン》!」


 白い大剣が出現したかと思えば、それが"捕食者(イーター)"の触手を纏めて切り払い、共に虚空に消える。

 一希はそのまま走り続け、ひび割れ、今にも崩落しそうなビルの屋上で、新たな魔法を発動する。


「《エクス》!」


 "捕食者(イーター)"の両腕にそれぞれ攻撃を加えれば、奴が掲げた腕は二つとも弾かれ、一希はいよいよ"捕食者(イーター)"の股下にまで肉薄した。


「止めだ、《アイシクルエッジ》!」


 水色の魔法式を真上に、一希は照準を向けて、氷属性の攻撃魔法を放つ。

 無数の氷の刃が、"捕食者(イーター)"の巨大な胴体に突き刺さっていく。真下からの魔法の攻撃を受けた"捕食者(イーター)"は、背中に生えていた触手の代わりになるように、背中から無数の氷の刃を貫かせて、絶命した。


「うわ、アカン一希! ここは崩れるで!」

「武!」


 "捕食者(イーター)"を仕留めた一希と武であったが、待機ポイントを潰されてしまった。

 崩落しつつあるビルの屋上から、武はすぐ横に別のポイントを見つけ、そこに至るまでの足場を、形成魔法で作る。


「よし通れるで!」

「ありがとう!」


 雪崩のように崩れ落ちていく屋上から、一希が武の作った形成魔法の足場に飛び移った瞬間のことであった。


「待ち伏せっ!?」


 待ってました、と言わんばかりに、出現していたもう一体の"捕食者(イーター)"が、まるで木に掴まる猿のような挙動で、一希を狙っていた。

 ――まるでそれは人間が動物の狩りをするように、戦略的な思考で、誘い込んだように。


(やはり、゛捕食者イーター゛は知恵をつけた……!?)


 逡巡したさなか、"捕食者(イーター)"の伸ばした腕が、一希の足場を鷲掴みにして、破壊する。

 一希はそのまま、高度百メートル以上はある場所から、落ちていく。


「一希ーっ!」


 武の絶叫と、"捕食者(イーター)"の歓喜の方向が交差する中、一希は空中から猛スピードで落下しながらも、魔法式を冷静に組み立てていた。


「僕はまだ死ねない……!」


 風属性の魔法自身の周囲に発動し、地面から巻き起こる向かい風を、引き起こす。即席の逆噴射装置は、上手くいったようだ。

 態勢を崩しながらも、一希は高速道路より下の一般道に、どうにか着地する。


「……っ!」


 着地の瞬間、前方へ転がって、衝撃も(やわ)らげる。


「無事か、一希!?」


 やや遅れて、形成魔法による足場を次々と作ってそこをつたい、武も降りてきた。


「ああ、こっちは大丈夫だ、武!」


 一希が返答をしたその直後、一希の白黒の視界が、漆黒の空へと向けられる。

 ――星が、ない。見えない……。

 真っ暗闇となった視界から、一希を狙ったかのように落ちてきた物体が、彼の頭部に直撃する。

 鈍い音に顔を(しか)めていた武が振り向けば、空から降り注いできた瓦礫が、一希を直撃していた。


「う……っ!」

「一希!?」


 "捕食者(イーター)"がビルを破壊し、その残骸を、地上にいる一希と武へと放っていたのだ。それを意図的に行っているものであるとすれば、なんと(さか)しい真似か。


「破片を投擲物にした!? なんや……"捕食者(イーター)"って、そない知恵が回るもんなんか!?」


 武は咄嗟に防御魔法を発動しようとするが、とても防げるものではない。鋼鉄のビルの上層部が丸々、落ちてきているのだ。


「逃げ……武……今までの゛捕食者イーター゛とは、違……っ――」

「一希!? しっかりせぇ!」


 そして背後では、瓦礫の直撃で気を失った一希が、道路の上で倒れてしまっていた。


「アカン……! 逃げるで!」


 武は咄嗟に振り返り、倒れ、気を失った一希を肩に載せて、走り出した。


『――武田先輩!』


 通信機から別場所で待機している岸野大和きしのやまとの声が聞こえ、武はすぐに応答した。


『そちらで激しい物音が。どうしたのですか?』

「"捕食者(イーター)"や。一希が気を失って、ポイントも失った!」


 武がそう言って再び振り向くと、ビルから降りてきた"捕食者(イーター)"が、こちらへ向かって猛追してきている。

 逃げる獲物とそれを追う狩人(ハンター)の構図そのままで、武は悲鳴をあげかける口許を閉じた。


「"捕食者(イーター)"が来てる。すまんが切るで!」

『武田先輩!? ちょっと待って――!』


 岸野との通信を終えた武は、振り向きながら魔法を発動し、追いかけてくる"捕食者(イーター)"を迎撃しようとするが、敵の脚力に衰えはない。

 ――悪い状況は、それのみではなかった。


「ビルが崩れてる……あれあのままいったら、高速道路潰すんとちゃうんかっ!?」


 汗ばんだ顔を持ち上げた武が、はっとなる。"捕食者(イーター)"によって抉られたビルが徐々に傾き、高速道路側にしなっていっている。あれが高速道路上に落ちれば、車は走行不能に陥り、物資の補給どころではない。


「どないすればええんや、一希っ!?」


 肩に担ぐ一希が、目を覚ます素振りはない。

 このままでは死ぬ――。そんな、いまいち実感の沸かぬ事態が今まさに、すぐ後ろからやって来ている。


(ハハハ……っ。笑うしかないってのはこう状況なんか……)


 そうなればいよいよ、武に余裕はなくなった。

 肩に背負う一希のせいで、上手く走ることが出来ない。それでも、その場に残して置いていく真似など、絶対にしない。


「いや、見捨てたらアカン! 俺は刑事の息子や……! 人一人も守れないでなんになるんや!」


 このまま逃げようとも、すぐに追い付かれ、捕食されてしまうのは明白だ。生身の人間では、この夜の支配者となった"捕食者(イーター)"に勝る要素など、そうそうない。

 だからこの世界は、人間に唯一抗う(すべ)を与えた。人間か"捕食者(イーター)"か。この世界に本当に生き残るべき、生命体を決めるための、戦いの手段として。


「負けへんで"捕食者(イーター)"!」


 武は黄色い魔法式を展開し、その照準を、四足歩行で迫り来る"捕食者(イーター)"へと向けていた。


         ※


「遠くで激しい音があったけど、どうしたの、岸野?」

「星野先輩と武田先輩の所です! "捕食者(イーター)"が出現して、襲われていると」


 数百Mほど離れた所で待機する二人の生徒会メンバーにも、二人の緊急事態の電報は入ってきた。

 黒羽は後輩の男子からそれを聞き、二人の同級生男子が"捕食者(イーター)"に襲われていると言う方角を睨む。

 夜の中、赤い目を凝らした黒羽は一言、「足手まとい……」と呟きながら、バイク用のヘルメットを装着した。


「黒羽先輩?」

「岸野はここにいて、引き続き周辺の警戒と、生徒会長の援護を。私は二人のところへ行くから」


 そう言いながらすでに黒羽は、用意してあった自前のバイクに、跨がっていた。

 エンジンを掛け、アクセルを回し、フットペダルに足を掛ける。

 二人の待機場所であった、高速道路脇の立体駐車場から、ライトを焚いたバイクが一台、駆け抜けた。


(あのビル、傾いている? ゛捕食者イーター゛が破壊したのか)


 ヘルメットのバイザー越しに、顔を上げた黒羽が確認したのは、二人の待機場所でもあったビルが、高速道路側へと徐々に傾いている様子であった。

 そしてその真下では、魔法によるものと見られる閃光が、しきりに瞬いていた。


(あのままじゃビルが高速道路に落ちる。何をしているの、星野一希はっ!)


 忌々しい名を口にしただけで、ハンドルを握る指先に力が入り、黒羽は唇を噛んだ。


        ※


「ハアハア……《フェルド》!」


 意識を失った一希を守りつつ、一人で"捕食者(イーター)"と戦う武であったが、初めての"捕食者(イーター)"との戦闘と、動けない味方を守りながらの戦いで、苦戦は必須の状態であった。無理もないだろう。


「アホとちゃうんか……!」


 口は悪く、悪態をつきながらも、"捕食者(イーター)"の接近を許さず、攻撃魔法で迎撃を繰り返す。

 そんな武の猪口才な動きに痺れを切らしたのか、"捕食者(イーター)"は一旦攻撃を中止し、その場で静止する。


「な、なんや……?」


 突如動きを止めた"捕食者(イーター)"を、武は離れたところから見つめてしまう。

 急いで逃げなければならぬだろうが、なにか、嫌な予感が全身を駆け抜けていた。

 果たしてその予感は、的中する。

 "捕食者(イーター)"は一瞬だけ屈伸を行うと、その反動を利用して、空高くへと跳躍。星一つない漆黒も夜空と同化するようにして、上空から猛スピードで落下してくる。


「うわやっべー……っ」


 変な声で笑うことしかできず、武は最低限の防御魔法を発動しかける。

 その手元の光をかき消すように、脆弱な人間の身体を、その希望ごと、押し潰すようにして、"捕食者(イーター)"は空から落ち、着地した。

 その衝撃足るや凄まじく、まるで隕石が落下したかのような衝撃で、道路には円上に広がる亀裂ができ、またクレーターのように大きく凹んだ。

 宙に舞い、吹き飛んだコンクリート片に混じり、血を流す武の姿も、そこに含まれていた。


「がは……っ!」


 "捕食者(イーター)"落下の衝撃に巻き込まれた一希と武は、地面の上を数回転がって、倒れる。

 ぱらぱらと、破片がそこらで舞う中、煙の中、落下地点では、"捕食者(イーター)"が咆哮をあげていた。


「ちくしょう……獲物を弱らせてから仕留めるなんて……害虫駆除かいな……っ」


 ずきずきと痛む腕を伸ばし、地面の上に這いつくばる武が呻く。


「……いつまで寝てるんや、一希……」


 霞み、ぼやける視界の向こうでは、ひび割れたアスファルトの先で倒れたまま気を失っている一希と、彼に迫る"捕食者(イーター)"がいた。


       ※


 超高速で高速道路上を走るトラックの中。

 薄暗い密閉された空間で、城谷と咲哉は息を潜める。

 

「連絡、付きそうですか?」

「いいえ。機械の故障でしょうか、二グループ共に連絡が繋がりません」


 自身のデバイスを見つめて言う咲哉に、城谷は「そうですか」と返答をする。

 しばし、無言の状況が、二人に訪れる。

 急停車することも、進路を変更することもない無人の車両は、揺れることも傾くことも一切ないので、高速で走っていようが案外安全なのかもしれない。

 

「なにか、言いたいような顔をしていますね、咲哉」

「いえ、私の意見など、城谷様には……」

「遠慮は不要です。それにこの先、二度と言えなくなるかもしれないのですよ?」


 積み荷のコンテナに背中を預け、体育座りの姿勢で座っている城谷に、咲哉は「僭越ながら」と前置きをした。


「なぜ、あの二人を引き入れたのですか?」


 咲哉がそう問うと、城谷は意外そうな顔をして、咲哉を見つめ上げた。


「お二人のこと、心配しているのですか? まあ、同じクラスメイトですし、お気持ちは分かります」

「いえ、そんなわけでは……。ただ、これは私たちの任務です。あの二人は部外者であります」

「確かに咲哉の言いたいことは分かります」


 城谷は軽く微笑み、確かに頷いた。


「ですが、私はアルゲイル魔法学園の生徒会長。魔法生たちに向けて、命令と処分を下せる権利が私にはある」


 次に咲哉が城谷の目を見たとき、しばらく、そこから視線が逸らせなかった。

 冷酷な、人を人とも思わぬ、冷たい瞳が、そこにはあったのだ。


「この魔法世界で生かすも殺すも全ては私次第。だからこそ彼らは、必死に抗い、持てる力を全て出し尽くそうとする。――それに彼には、戦わなければならない理由がある。言ってしまえば私はただ、手を差し伸ばしただけです」


 城谷はほくそ笑み、言葉を続ける。


「全ては私の望みのまま。どうです咲哉? 貴方はそれでも、この私に絶対の忠誠を誓いますか?」


 城谷がそう問いかける。


「……」


 すると咲哉は、おもむろに城谷の目の前まで歩み寄ると、膝をつき、頭を下げた。


「例え行き着く果てが地獄の底でも、私は貴女と共に参ります」

 

 そんな咲哉を見つめた城谷は、やがて目を細める。


「光栄です、咲哉。やはり、貴方とここにいて、正解だったようですね」


 城谷がそう言って、魔法式を発動する。

 ――ガタン。

 今まで感じることのなかった振動が、微弱ではあるが、トラックに起こる。

 咲哉もすぐに顔を上げ、隔壁の向こう側を、睨んでいる。


「……現れましたか、隻腕。思い描いた計画とは異なりますが、得てしてそうそううまくはいかないものです」

「それでも、行きます」


 トラックの荷台上部のハッチを、咲哉は内側からスイッチを押して開け、そこから顔を出す。

 首から先が持っていかれそうになるほどの激しい風を浴びながらも、咲哉はそこで周囲を見渡す。

 高速度で走っている車から見る外の視界に視点が定まりかけた時、その姿を、咲哉も確認する。

 通常種に比べて体躯も一回りほど大きな、片腕なき異形の怪物が、隣を走行中の別のトラックの上部に乗り、荷台に片腕を突っ込み、中のものを物色しているようだ。まるで箱の中身はなんだろうな? と、遊んでいるかのように。

 異形の姿と、そんな残酷な無邪気さは時として必要以上の恐怖心を与えてくるものだが、咲哉に迷いはなかった。


「さぁ抗いましょう。この世界を怪物のものにするのは、少々勿体ないですから。ねぇ、咲哉?」

「当然です」


 自分の使命こそ、今自分の足元にいる女性を、生涯を賭けて守り通す事なのだから。


挿絵(By みてみん)

〜高速道路と高速道路〜


「ハイウェイとアウトバーンって、そう言う違いなんですね」

やまと

          「高速道路と言っても、最高速度制限はあります」

             みふゆ

          「それすらなくしたのが、アウトバーンですね」

             みふゆ

「なんだてっきり」

やまと

「生徒会長でも間違えることがあるのかなんて」

やまと

「思っていましたーなんて!」

やまと

           「それは面白いですね、大和。とても」

              みふゆ

「あの……生徒会長……」

やまと

「目が笑って、ないです」

やまと

           「よく言われます。でも、今は心から笑っていますとも」

              みふゆ

「……」

やまと

           「? この調子で継続してくださいね」

              みふゆ

「善処、いたします……」

やまと

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