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影重し 

掲載日:2022/02/14

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 季節によって影のできる長さが違うのは、君たちも知っての通りだろう。

 夏と冬とでは南中のときの太陽の高さに差が出る。夏は高く、冬は低い。結果、対象にあたる角度の違いから、冬場の影はとても長いものになる。

「長いものには巻かれろ」「寄らば大樹の影」とは昔からいわれていること。大きいものには、それだけで当てにしたり、畏怖したりといった感情が湧き出てきても、不思議じゃない。

 だがその心理。実は罠におとしいれられている、ということはないだろうか?

 僕の昔に体験した話なんだが、聞いてみないかい?



 その日の学校からの帰り道。僕は友達のひとりが通学路の途中で、へばっているのを見た。アスファルトの上で両膝をついてうつむき、いまにもうつ伏せに倒れてしまいそうだった。

 学校から学区の隅っこまで歩いたとしても、1時間には満たない距離。その途中の家までもたないとなると、どこか具合を悪くしたのか。

 声をかけながら、その肩を持とうとして驚いた。きゃしゃな体つきにもかかわらず、そのままの姿勢で立とうとすると、僕の肩から腰のあたりに、ぴきぴきと痛みが走り出すほどだ。

 それでもどうにか身体を引き上げ、そばのバス停のベンチにそろって腰を下ろした。


 しばらくすると、友達もだいぶ楽になってきたらしい。もう一度、同じように肩を貸そうとしたときには、相応の重さしか感じなかったんだ。

 いったいどうした? と尋ねると、彼自身も狐につままれたような顔をする。

 いつもと同じ道を帰っていたはずなのに、あそこまで来たとたん、えらく身体が重くなったというんだ。

 ここからそう遠くない、例の位置を見る。ゆるい車道のカーブにそって、歩道もガードレールも曲がっていく、細い道。

 歩道の更に内側には、背の高いフェンスとその後ろに等間隔で植えられた、街路樹と同じ種類の樹。某企業の敷地であることを示しているが、その影は優に道路を横切って、向かいにある家々まで、すっかり己の影の中へ飲み込んでいる。

 赤い西日が差すところから見ているせいか、影の横たわるその地点が、まるでトンネルのような暗さに感じられたんだよ。



 翌日。彼は元通りに回復できたらしかった。

 下校する際に、自分と彼は例の道を避けるようにしたのだけど、それから数日の間、あそこ以外の道を通った子たちからも、同じように身体が重くなった感覚に襲われた話を聞いたよ。

 現場検証をしてみると、自然物と人工物を問わず、大きな建物の影が伸びるところだった。

 昼間はかからず、夕方が近くなると伸びてきた影に身を沈めてしまう。そんなスポットばかりだったんだ。


 この奇妙な現象、出会おうとしても出会えるものじゃなかった。

 たとえ昨日、見舞われたところで、今日も同じ目に遭うかと思うと、そうとは限らない。

 普段から車が通るところなどでも、それによる事故の話などは聞かないから、じかに姿をさらす生物にしか作用しないのかもしれない。

 そう考えた僕は、アリやミミズを確保して件のポイントに放つこともしたが、かんばしい結果は得られなかった。彼らの身体が小さすぎて、たとえその場でのたうつ仕草をしているように見えても、そいつが本当に重さであえいでいるのか、いまひとつ信じきれなかったのさ。

 そうして、いよいよ僕は自身で検証に出てみることにしたんだ。

 確かに身体は重くなるようだけど、それでけが人、ましてや死者が出たなんて話も聞かない。きっと自分なら大丈夫だろうというバイアスも働いて、みずから影に身を入れるようにしていたんだ。



 そして来た。

 あちらこちらをめぐり、また最初に友達が味わったあそこの地点で。

 件の建物の影を抜けたとたん、いきなり肩から下が重くなった。

 急に誰かが肩車してきたような感覚でね。「おっ」と驚いたけれど、あらかじめ心の準備はしていたから、さほど慌てはしない。

 上を、背後を見やる。そこには僕の身体はおろか、ずっと先の道路でさえも、人の姿はなし。けれど、一歩先へ進むたびに重りを足されるような感覚で、どんどん重さが増していく。

 がくりと膝をついたところは、かつて友達がうずくまっていた地点と大差ない。重さに耐えながら、どうにかまだ動かせる両腕を地面につけて、反動をつけながらじりじり膝で進むよりなかった。

 こんなときに限って、誰も通行人はない。助けがないのを嘆けばいいのか、みっともない姿を見られないことを喜べばいいのか……。



 そうして西日に照らされるなか、数十秒あまり。どうにかベンチに手が届くかというところまで近づいて。

 わずかずつだけど、身体が軽くなってきているんだ。引きずるのがやっとだった膝は、ちょっとずつ浮かせられるようになり、そこへつま先を柱のように立てて、踏ん張った。

 軽くなる肩のまま、どうにか立ち上がろうとする僕は、ふと車道側。陽を浴びて伸びる自分の影のある方を見やったんだ。



 車道中ほどを越えて伸びる自分の影は、ただ長いだけじゃない。

 自分の胴体から出ているとは思えない、釣鐘状。身体の数倍はある幅広さでもって、ずんぐりと膨らんでいたのさ。

 そればかりじゃない。いまこの影は、僕の身体から離れている方の端っこから、少しずつ「ピラミッド型」へ加工されていた。

 釣鐘のてっぺん付近に、小さい小さい子供の影がいくつも飛び跳ね、彼らが足をつくたび、どんどん影の形が削れ、整っていくんだ。

 もちろん、あたりを見回してもあの子供たちになりそうな、生き物の姿はない。

 重さがまだ消え切っていないこともあり、じわじわとしか動けない僕だが、その影が動くのに、彼らも一緒についてくる。

 どかりと、あのベンチに腰を下ろした時には、あの建物の影を通る前の僕の影に、形が戻っていたよ。

 子供たちの影は、この少し前に、わっと僕の影を駆け下りて、あちらこちちらの影へ溶けていったよ。それぞれ小さかった身体を、ぶくぶくに太らせながらね。


 僕たち、あの建物の影を通る時、わたあめの棒のような存在になっていたんじゃないかと思う。

 あのたっぷり横たわる影が、通り過ぎる僕たちの影へ、どんどん絡みつき、膨らんでいった。あの子供たちはその綿あめ部分を食べたがったんじゃないのかな、て。

 

 


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