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新事記ミカド・ミライ  作者: 今田勝手
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陸話



 着信の通知で我に返る。

 気が付けば随分走っていた。

 手を引かれていたニイナも膝に手をつく。

「……もしもし」

『あ、出たか』

 雛子の声だった。

『綾から連絡があったぞ、説明してもらおうか』

「端的に言えば、追手の正体が分かった」

『……詳しく聞こう、今から来れるか?』

「追われてる最中だぞ、まだ近くにいるはずだ」

『む……わかった、話せるだけでいから話したまえ』

 日向雅は雛子に分かったことを全て話した。

 山田から聞いた神話の話、大国主と直接話した内容も全て。

 終始相槌だけを打っていた雛子だが、聞き終わると大きなため息を吐いた。

『……にわかには信じられない話だが、相手が大国主を名乗る以上信憑性は高いとみていいだろう』

 雛子は「ふむ」と暫く考えていたがやがて口を開いた。

『ヒュウガ、なら尚更うちに来るべきだ』

「なんだって?」

『灯台下暗し、ヒュウガがこの街に留まる可能性の低さを利用するんだ。どうせ行く当てもないのだろう。すぐじゃなくていい、今日中には来たまえ』

 そう言い残すと、一方的に通話が切れる。

「ニイナ、まだ歩けるか?」

「うん、大丈夫」

 ニイナは顔を上げると、日向雅に微笑みかけた。

 この笑顔は、絶対に守る。

 決意を新たに、握る手に力がこもる。

「寒くないか?」

「走ったから暖かいよ」

 ニイナは腕を振ってアピールするが、格好はこの間の検診の時のままだ。

 日向雅は制服の上着をニイナに被せる。

「わぶぶ」

「着とけ、風邪ひくぞ」

「……でも、ひゅーがが寒そう」

「じゃあ走るか?」

「え?」

「先行くぞ」

「あ、ちょ、ひゅーが待ってー!」




 三時間後、すでに日は暮れて辺りを夜の帳が包み始める。

 隠れるにはうってつけだが、同時に忍び寄られれば気づきにくい。

 日向雅とニイナは、高校から程近い河川敷の小さな橋の下に身を潜めていた。

 この場所ならば道路からは死角になり、人通りも少ないため足音にも気づきやすい。

 またここに来るルートも少ないため監視もしやすい。

 気を張っていると、こてんと何かが肩にぶつかった。

 走り疲れたのか、ニイナが眠ってしまっている。

 気温も下がってきた。耐性のある日向雅は、旧人類で寒さに弱いニイナが凍えないよう体を寄せていたが、しばらく起きる様子もないため近くのコンビニで暖を取れるものを買うことにした。

 近くと言っても、歩く距離はそこそこある。

 暗い夜道をしばらく歩いていると店の明かりが見えてきた。

 そのまま進んでいると、向こう側からも人影が来ることに気づいた。

 最初は大して気に留めていなかったが、そのシルエットが鮮明になるにつれて、緊張が高まっていった。

 そして、目が合う。

「少年……」

「大国主……」

 コンビニの明かりを頼りに、二人が対峙する。

「あの子はどうした」

「……言う必要があるのか?」

 刹那、空を切る音。

 気づけば大国主の右手は日向雅の顔面をかすめ空を掴んでいた。

「……まただ」

 大国主が呟く。

「少年、お前『因子持ち』だな?」

 日向雅は言葉の意味が解らず眉を顰める。

直後に膝が折れ、尻餅。

「……っ」

 大国主が苦虫を嚙み潰したような顔をする。

 よく見ると、右手が横の方へと開かれている。

 まるで裏拳でもしたかのようだ。

「その妖気、やはりそうじゃないのか」

「……一体何を言ってるんだ?」

「む……本当に自覚がないのか?」

 次の瞬間、尻に痛みが走る。

 どうやら後ろに体がスライドしたようだ。大国主との間に距離が出来ている。

 そして先ほどまで日向雅が座っていた場所には、大国主の足があった。

 踏もうとしたのだろうか。

 慌てて立ち上がる。

 瞬間、全身に不規則な痛み。

 体が揺れ動き、視線が定まらない。

 かろうじて見えたのは、大国主の攻撃モーション。

 ああ、殴られている。

 日向雅はそう感じた。

 抵抗することもできず、しばらく殴られふと2、3歩足を引いたところで体が止まる。

「……あれ?」

 日向雅は不思議な感覚になる。

 何かがおかしい。

 大国主を見ると、「やはりな」という顔をして日向雅を見ていた。

「全く……痛くない。なんかしたのか?」

 大国主は溜息をつくと「いや」と返した。

「私は攻撃しただけだ。」

「……なんだって?」

 日向雅には理解不能だった。

 避けただと。

 そんな技量はない。

「お前、やはり気づいてないのか?」

 大国主が怪訝な顔で日向雅に問う。

「何にだ」

 何の話か全く分からない日向雅も聞き返す。

「自身に宿った能力にだ」

「能力、だと?」

「……どうやら本当に知らないらしいな」

 日向雅は問い返そうとしたが、その時コンビニから怪訝な顔をして店員が出てきたため、大国主は去ろうとする。

「……次会うときには、あの子を渡してもらう」

「ちょ、おい!」

 そのまま大国主は闇の中へ姿を消した。

「……警察呼ぶ?」

 いつの間にか店員は近くまで来ており、日向雅に声を掛ける。

「いや、大丈夫……」

 日向雅はただ、大国主が去った夜道を見つめることしかできなかった。





「能力、か……」

 数時間後の深夜、何とか病院へと辿り着いた日向雅はニイナをベッドに寝かせた後、先程の大国主とのやり取りを雛子に相談していた。

「ヒュウガには何かした自覚は全くないのだろう?」

「これっぽちもない。奴が言うには、攻撃を全て避けたらしいけど」

「ふむ……」

 雛子は顎に手を当てて考え込む。

「……あまり肯定しかねるが、ヒュウガの言うことが正しいと仮定したら、相手は我々の理解できる範疇を超えた存在だ。それに、『避ける』という事象には、私にも少し心当たりがある」

「というと?」

「我々の体に備わっている機械組織は、旧人類が持つ特性を生物的に再現できなかったものを機械で補ったものだ。そのうちの一つに『リスクマネジメントプログラム』というものがある」

 突然の横文字に日向雅は難しい顔をする。

「……このプログラムは主に五感の他、『対外センサー』と『シミュレーションシステム』という機械組織が働く。旧人類がよく使っていたという『気配察知』なるものを再現したものらしいが、通常であればほぼ存在感のない機能だ」

 日向雅は思わず首を傾げる。

「そのプログラムと俺の能力?に何の関係があるんだよ」

「君の意思とは無関係に危機回避の行動を行っているのであれば、医学的にはこのプログラムの異常を疑わざるを得ない」

 そこまで言うと、雛子は少し考えるような仕草をし「うむ」と呟いた。

「ヒュウガ、君は確かドッジボールが嫌いだったな」

「え?」

 唐突な話題に面を食らう。

「……まあ、そうだけど」

「何故だ?」

「そりゃあ……」

 ドッジボールには嫌な思い出がある。

 もう小学生の頃の話になるが、なぜか毎回最後は喧嘩になっているのだ。

 仕舞いには「日向雅が入ると面白くない」と誘われなくなっていった。

「ん……?」

 なんで日向雅が入ると面白くないんだ。

 喧嘩になるからだとは思っていたが、そもそも喧嘩になるのはどういうときだっただろうか。

 日向雅は出来る限りの記憶を辿る。

 ふと、一つの可能性が浮かんだ。

「……俺が、最後までコートに残っていたから?」

 日向雅が内野に居たゲームでは、決着がついたことがない。

 今までは、運動経験のない日向雅がボールをキャッチできないせいで攻撃ターンがやってこないからだと思っていたが、そうではない。

 大体、一人しかいないコートを挟み撃ちにしているのだ。

 全員が日向雅をめがけてボールを打ってくるはずである。

「敵のボールを全部避けていた……?」

 雛子がにやりと笑う。

「大国主の言うヒュウガの能力とやらが、その回避行動だと仮定してみろ。思い当たる節があるんじゃないのか?」

 日向雅の脳裏に、2週間前の光景が浮かぶ。

 校門前で綾を待っていた時だ。

あの時、ボールが当たらなかったのは偶然だと思っていた。

その一件だけじゃない。思えばこれまでの人生、似たようなことが多すぎる。

日向雅の様子を見て、雛子が続ける。

「私も前から気になってはいたが、この際だ。ちょっと精密検査してみないか?」




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