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新事記ミカド・ミライ  作者: 今田勝手
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序話




 この世界には『人間』というものを正しく定義できる者が果たしているのだろうか。

 生物学的にはホモサピエンスのことである、というのが常識だろう。

 だが、それは現在のみに通用する一過性の価値観でしかないと私は思う。

 というもの、宇宙のどこかに存在するかもしれない異星人は、自分たちの事を人間だと主張するかもしれないし、未だ発見されていないホモサピエンスの類似種が存在するかもしれない。さらに言えば今後、新種の人類が生まれる可能性だってあるのだ。

 キリストが生を享けて二千五十年。人類の定義を脅かす存在は今のところ出てきていない。

 この培養器の中に入った機械生命体を待ち望む声は多くある。

 彼らは、この子が人間を名乗るとは夢にも思わないのだろう。

 しかし確実に孕んでいるのだ。この子が『新人類』となる可能性を。


























2118/4/15

 拝啓・二十一世紀初頭の皆様

 初めまして。芦原日向雅(あしはらひゅうが)と言います。二一〇一年生まれの十六歳です。

 二十一世紀初頭の頃の日本は、今とあまり変わらない風景が広がっていると聞きます。

 というのも、二度にわたる世界大戦の影響で文明レベルはほとんど発達することなく百年過ぎたからです。

 しかし、変わった部分もたくさんあります。

 一般家庭でガスを引いてる家はなくなりましたし、携帯電話を持ち歩く人も少なくなりました。再生可能エネルギーの効率化が進み、石油も使わなくなりました。

 そしてなにより、あなた方『旧人類』は滅亡し、あなた方の遺産である我々『現人類』が地球上を支配するようになりました。














 ふわりと、風が顔の前を通り過ぎていき思わず目を開ける。

 窓の外では、桜の向こうに他学年が体育に勤しんでいる様子が見えた。

「えー、というわけで、二〇八七年には旧人類に対し絶滅宣言がされることになるわけだ」

 教室に視線を戻すと、中年の教師が怠そうに授業を進めている。

 対する生徒はというと、こちらもまた気だるげに授業を聞いていた。

 熱心にノートを取っている者も居るが、殆どの机上に文房具などは出ていない。

 何を隠そう芦原日向雅もその一人で、頬杖を突いたまま欠伸をすると再び視線を外に戻した。

 一見すると何とも不真面目な怠け者の集団であるが、教科書の内容をあらかじめインストール済でいつでも参照できる学生達にとっては、それをなぞるだけの授業は非常に退屈だ。

 日向雅の視界には校庭を走る他学年生や桜の花に並んで、歴史の教科書が表示されたウィンドウが幅を利かせている。

「高校でやる旧人類史はこんなもんだ。これ以上知りたい奴は大学で勉強しろなー」

 社会科教師の山田は頭を掻きながらそんなことを言う。

 教師がこんな具合の為、生徒も適当になる。実際テスト前には教科書を読みこめばどうにかなるような内容なのだ。

「はーい、ここからは現代史に移るから、教科書替えとけよー」

 日向雅は視界を操作し、教科書のタブを切り替える。

「えー、前回の授業でやった様に、旧人類が初めて現人類の開発を始めたのが二〇三六年。第三次世界大戦の終結直後だ」

 日向雅は教科書を自動スクロールに設定し、再び目を閉じた。


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