昼間のパパと、夜中のママ
バロンとロミナは、昼間の森を散歩していた。
たくましい体を皮の服で包んだバロンは、幼い少女の手を握り慎重に歩いている。この森には、獣もたくさん住んでいる。むしろ、人間の数の方が少ないだろう。
しかも、ゴブリンやオークといった亜人たちの巣もある。まだ陽は高いとはいえ、油断は出来ないのだ。ロミナにも、ひとりで出歩いてはいけないと言い聞かせてある。
もっとも、ロミナの方はそんな気遣いなど知る由もない。嬉しそうにはしゃいでいる。彼女の赤い髪は短く切られており、布のシャツを着て半ズボンを穿いている。その姿は、遠目には男の子のようだ。
「お父さん! お日さまポッカポッカで、あったかいのだ!」
本来なら静かなはずの森の中に、ロミナの声が響き渡る。この娘は好奇心旺盛で、目に映るものや肌で感じるもの全てが、楽しくて仕方ないようだ。
「そうだな。今日は、いい天気だな」
言いながら、バロンは空を見上げる。確かに、いい天気だ。洗濯物も、早く乾くだろう……などと思っていた時、ロミナが足を止めた。
「お父さん! あれ、なんだ!?」
少女は草むらを指差し、バロンの顔を見上げる。バロンは、指差す方向に視線を向けた。と、そこには蛇がいる。茶色に黒い斑点が付いている種類で、さほど大きなものではない。ただし、牙には毒を持っているタイプだ。ロミナには、近づかせない方がいい。
「あれはね、蛇という生き物だよ」
バロンは、落ち着いた口調で言葉を返す。ロミナとは対照的だ。
「へび!? にょろにょろしてるのだ! あれは強いのか!?」
すっとんきょうな顔で尋ねるロミナに、バロンは真面目な顔で答える。
「いや、強くはない。ただ、あの種類は牙に毒を持っている。あまり近づかない方がいい」
「どく!? どくってなんだ!?」
「毒というのは、体に害を与える物質だ。あの蛇に噛まれると、熱が出たり手足が腫れたりする。死ぬこともあるぞ。あの蛇に噛まれたら、死ぬかもしれないと覚えておけばいい」
「おおお! それは怖いのだ!?」
顔をしかめ、ロミナは震える。すると、バロンは優しく頭を撫でた。
「そうだ、蛇は怖い生き物だ。だかな、蛇も人間が怖い。だから毒の牙で噛み付く。お前が怖がらせなければ、蛇もお前に噛み付いたりはしないんだ。わかったか?」
「うん! わかったのだ! 蛇には近づかないのだ!」
大きく頷くと、再びバロンの手を握り歩き出した。
そんなロミナに、バロンは優しく語りかける。
「お父さんは明日、町まで買い物に行く。お母さんが起きて来るまで、おとなしく留守番をしているのだぞ。家の鍵を閉め、絶対に外に出るなよ。いいな?」
そう、バロンは明日、町まで出かける。彼は狩人を生業としており、仕留めた獲物を肉屋に売る。代わりに、パンやチーズといった食品や生活に必要な雑貨などを購入する。これは、半日がかりの仕事になるのだ。その間、ロミナはひとりで留守番をしなくてはならない。
「うん、わかったのだ!」
元気よく答えるロミナだったが、次の瞬間、その表情が曇った。
「お父さんは、寂しくないのか?」
「ん、どうしてだい?」
「お母さんは、いつも寝てるのだ。暗くならないと、起きて来ないのだ。でも、暗くなると、お父さんは仕事に行くのだ。だから、ほんのちょっとしか会えないのだ。それは、寂しい気がするのだ」
「確かに、ちょっと寂しいな。でも、仕事に行く前に少しだけ顔を見られるからね。それで充分だよ。それに、お前がいてくれるから大丈夫だよ」
「おおお! ロミナも、お父さんがいるから寂しくないぞ!」
胸を張るロミナを見て、バロンはくすりと笑った。
「そうか。そう言ってもらえると、父さんも嬉しいよ。じゃあ、そろそろ家に帰ろうか」
「わかったのだ!」
元気よく答え、ロミナは走っていく。バロンは、その後ろ姿を優しい顔で見ていた。
やがて、日が沈む。昼でも夜でもない時間、夕暮れ時が訪れた。
バロンとロミナが夕食の支度をしていた時、地下室に通じる扉が開く。
現れたのは、金色の髪の女だった。美しい顔で、肌の色は病的なほど白い。布の服を着て、けだるそうな表情で歩いてきた。
その途端、ロミナの顔がパッと明るくなる。
「お母さん、起きたのか!」
言いながら、女に抱き着いていく。すると、女はにっこりと微笑んだ。そう、この女こそがライム。ロミナの母である。
「うん、起きたよ」
昼と夜の境目……この僅かな時間にだけ、バロンとロミナそれにライムの家族が揃う。
三人は、食卓についた。テーブルの上には、パンとチーズ、それに野菜や肉のスープが入った皿が置かれている。
「お父さんの作るご飯は、とっても美味しいぞ!」
言いながら、ロミナはパンにかぶりつく。その姿を、バロンとライムは微笑みながら見ていた。
だが、不意に少女の手が止まる。
「お母さんの病気は、いつ治るのだ?」
言われたライムは、きょとんとなる。
「えっ、病気?」
「そうなのだ! お母さんは、病気のせいでご飯が食べられないのだ! 早く治って欲しいのだ!」
ロミナの顔は、真剣そのものだった。ライムは、少し困ったような顔つきで答える。
「う、うーん……まだ治らない。でも、心配しなくても大丈夫だよ。ちゃんと、お薬は飲んでるから」
「ううう、お母さんかわいそうなのだ。こんな美味しいご飯が食べられないのは、不幸なのだ」
悲しそうな顔のロミナに、バロンが横から声をかける。
「大丈夫だ。ロミナがいてくれるだけで、お母さんは幸せなんだよ。だから、冷める前に食べなさい」
「おおお! ロミナも、お母さんがいると幸せだぞ!」
そう言うと、ロミナは再びパンにかぶりつく。すると、バロンは立ち上がった。
「じゃあ、そろそろ行くからな。ライム、留守を頼んだぞ」
バロンの言葉に、ライムは頷く。
「わかってる。任せて」
「お父さん、いってらっしゃい!」
ロミナは声をかけ、パッと手を挙げる。バロンは、その手を軽く叩いた。父と娘の、出かける前の挨拶だ。
「ああ。ロミナも、お母さんを困らせるなよ」
こうして家の中には、ライムとロミナの二人が残された。
しばらくすると空は暗くなり、窓からは星と見事な満月が見える。どこからか、狼の遠吠えも聞こえてきた。
そんな中、ロミナはライムに様々な話を語って聞かせていた。
「昼間は、何して遊んだの?」
ライムに聞かれたロミナは、元気よく答える。
「お父さんと、森の中を散歩したのだ。そしたら、蛇がいたのだ!」
「蛇? 噛まれたりしなかった?」
「大丈夫なのだ。お父さんが、蛇は毒を持ってるって言ったのだ。だから、気をつけるのだ」
「そうね、ロミナはまだ小さいから、蛇には近寄らない方がいいね」
そう言うと、ライムはひょいとロミナを抱き上げる。
「さあ、ベッドに行こう。そろそろ寝る時間だよ」
「えええ……まだ寝たくないのだ。もっと、お母さんと遊びたいのだ」
ぼやくロミナだったが、ライムはにこにこしながら少女を寝室まで運ぶ。
「ダメダメ。あなたは、まだ小さいんだから早く寝ないといけないの」
ぐずるロミナが眠りについた頃、ライムは静かに外へ出て行った。家の鍵を閉め、辺りを見回す。
今のところ、ロミナの安全を脅かす存在の気配は感じられない。ライムは、そっと歩き出した。
しばらく森を歩くと、広い草原に出た。空の満月が、辺りを照らしている。
後ろから、ガサリという音がした。見ると、仔牛ほどの大きさの巨大な狼がいる。口には、大きな鹿を咥えていた。鹿は死んでいるのか、ぴくりとも動かない。
巨狼は鹿を軽々と運び、ライムの目の前に置く。その瞬間、ライムの口から鋭い犬歯が伸びた。猛獣の牙のようだ。
彼女は、鋭い犬歯を鹿の首に突き刺す。流れる血を吸い始めた。
ライムは人間ではない。
人間から、吸血鬼と呼ばれ忌み嫌われている種族である。しかも彼女は、同じ吸血鬼の者たちから追放された身の上なのだ。
かつて、ライムは吸血鬼の長老に直訴した。
「人間の血を吸わずとも、獣の血を吸えば生きていける。我々は、人間との共存の道を考えるべきではないか?」
ところが、誰も彼女の言うことを聞き入れなかった。それどころか、吸血鬼の掟に異論を唱える異端者として追放されてしまったのである。
同じ吸血鬼たちから異端者として追われ、人間たちからは怪物として忌み嫌われる。ライムは、孤独に生きてきた。
バロンもまた、似たような身の上である。かつては傭兵として、あちこちで戦ってきた。ところが、とある任務の最中に人狼に襲われる。どうにか撃退したものの、傷口から「狼憑き」を発症してしまったのだ。
狼憑きとは、人狼に噛まれた者がごく稀に発症してしまう病である。昼間は普通に生活できるが、夜になると狼の姿に変身してしまう。もちろん、人間だった頃の知性は残っているし自制心もある。人間を襲ったりはしない。だが、他人の目から見れば怪物以外の何者でもない。
しかも、生まれながらの純粋な人狼たちか見れば、ただの出来損ないなのだ。人間からは怪物として見られ、人狼からは出来損ない……バロンもまた、孤独に生きていた。己の素性を隠し、森の狩人として生活していたのである。
そんな二人だが、最初は単なる顔見知りでしかなかった。人間からは怪物扱いされる者同士、共感するものがあったが、それでも接触することはなかった。だが、その状況は一変する。
ロミナとの出会いは、偶然だった。
ある日、森を通りかかった旅人の家族がいた。だが彼らは、夜中に緑色の肌をしたゴブリンの群れの襲撃を受ける。
ゴブリンに惨殺されてしまった旅人の夫婦……その夫婦こそが、ロミナの本当の両親である。惨劇を目の当たりにしたショックで、娘は意識を失ってしまった。そのままだったら、ロミナも両親の後を追っていただろう。
その時、ひとりの吸血鬼が疾風のごとき勢いで現れる。偶然、近くを通りかかっていたライムだ。彼女は、ロミナをかばいゴブリンの前に立ちはだかる。
さらに、血の匂いを嗅ぎ付けた巨狼ことバロンも乱入する。ゴブリンの群れは、一瞬で蹴散らされてしまった。
以来、三人は家族として暮らしている。昼間に活動できないライムの代わりに、バロンがロミナの面倒を見る。そして夜、巨狼に変身するバロンの代わりに、ライムが少女の面倒を見る。
ロミナはといえば、以前の記憶を完全に失っているようだった。襲われたショックによるものだろうか、二人を本物の両親だと思いこんでいるらしい。
今のように、吸血鬼の本能を剥き出しにした姿を、ロミナに見られるわけにはいかなかった。だからこそ、家から離れた場所で血を吸っているのだ。
その時、巨狼の耳がピンと立った。空気の変化を察知したのだ。
ライムの表情も、一気に険しくなる。何かが、こちらに近づいて来ている。普通の獣ではない。魔の匂いがする。
だが、その表情はすぐに和らいだ。
闇の中から現れたのは、一匹の黒猫だった。とても美しい色の毛並みをしている。体型は、痩せすぎておらず太りすぎておらず、しなやかな体つきである。前足を揃えて佇んでいる姿からは、優雅ささえ感じさせる。
そんな不思議な雰囲気を漂わせている黒猫には、他の猫とは決定的に違う点があった。長くふさふさした尻尾が、二本生えていたのだ。
「久しぶりだニャ、お前たち。あの小娘は、まだいるのかニャ」
黒猫の口から出たのは、人間の言葉だ。しかも流暢なものである。
この黒猫の名はミーコだ。何者なのか、ライムはよくは知らない。知っているのは、ミーコは吸血鬼たちの間でも一目置かれる存在だということだけだ。かつてライムは、千年以上生きている吸血鬼の貴族たちに、ミーコが気軽に話しかけている姿を見たことがある。妖魔の中でも、上位の存在であるのは間違いない。
そんな黒猫が、自分のようなはぐれ吸血鬼に会いに来る理由は不明である。ロミナと暮らし始めてから、ミーコは二ヶ月に一度くらいのペースで顔を出すようになった。何をするでもなく、他愛のない話をして、すぐに引き上げてしまうのだが。
「うん、いるよ。何よ、あの子に会いに来たの?」
「フン、あんな人間の小娘なんか知らないニャ。あたしは、お前らみたいな珍妙な生き物の生態を見に来ただけだニャ」
そう言うと、ミーコはその場で毛づくろいを始めた。自身の毛をなめながら、さらに語り続ける。
「まったく、吸血鬼と人狼くずれが人間の子供を育てるなんて、聞いたことないニャ。あたしも二百年生きてきたけど、お前らみたいなアホは前代未聞だニャ。本当におかしな奴らだニャ」
「余計なお世話だよ」
言い返すライムを、ミーコは緑色の瞳で見つめる。
「そろそろ、本当のことを知る時じゃないのかニャ」
そう言われたライムは、思わず顔をしかめた。確かに、別れの時は近づいている。
ロミナは、もうじき学校に行かねばならない年齢だ。やがて、自分の母と父が普通でないことに気づくだろう。吸血鬼と人狼が、自身の両親の代わりを務めていたと知ったら──
確実に、一緒には暮らしてもらえない。人間から見れば、ふたりは怪物なのだ。自身が怪物に育てられていた、などと知れば……ロミナは、どれだけ傷つくことだろう。
「お前らには、つらい話だろうけどニャ。でも、あの小娘にも知る権利があるニャよ」
心のうちを見透かしたかのようなミーコの言葉に、ライムは眉間に皺を寄せた。
「わかってるよ。あんたに言われなくても、わかってるから」
不機嫌そうな口調で答える。その時だった。
「お母さん! どこ行った!」
不意に、家の中から声が聞こえてきた。普通の人間ならば、聞き取れないだろう。だが、吸血鬼であるライムの耳にははっきりと聞こえた。
直後、ライムは異様な速さで動く。人間にはありえないスピードで家に戻り、ロミナの寝室へと入った。
「ロミナ! どうしたの!」
駆け込んだライムの前で、ロミナは上体を起こした。その顔は、恐怖のあまり蒼白になっている。
「お母さん! 凄く怖い夢を見たのだ! 一緒に寝て欲しいのだ!」
「もう、しょうがない子ね」
ライムは、ベッドに横たわる。すると、ロミナはしがみついてきた。
少女の頭を撫でつつ、優しく尋ねる。
「どんな夢を見たの?」
「緑色の怖いお化けが出たのだ。いっぱいいたのだ。お父さんもお母さんも、お化けに食べられてしまったのだ」
それは、ゴブリンの群れに襲われた時の記憶だろう。ロミナは、あれを現実ではなく悪夢として認識している。本人にとって、それがいいことかどうかはわからない。
ライムにわかっていることはひとつ。今の自分が、どんな言葉をかけてあげればいいか……それだけだ。
「大丈夫だよ。お母さんは、とっても強いんだから。お化けなんか、すぐにやっつけちゃうよ」
「ほ、本当か?」
「本当だよ。ロミナを怖がらせるような奴は、お母さんがみんなやっつけるから」
「おおお! それは凄いのだ!」
しばらくして、ロミナの寝息が聞こえてきた。ライムは、優しい表情で少女の寝顔を見守る。
その時、寝室の扉が開く。入ってきたのは、ミーコだった。二本の尻尾をくねくねと揺らしながら、緑色の瞳でライムを見つめる。
「小娘は、眠ったようだニャ」
「何よ、また厭味を言いに来たの?」
ライムの言葉に、ミーコはぷいと横を向く。
「別に、お前ら珍獣どもが何しようが知ったことじゃないニャ。好きなようにすればいいニャ。三百年生きてる化け猫さまには、関係ないニャ」
言いながら、ミーコは毛づくろいを始める。ライムはそっと立ち上がり、皿にスープを入れた。
素知らぬ顔をしているミーコの前に、皿を置く。
「残り物だけど、食べる?」
「残り物かニャ。まあ、食べ物を捨てるのは良くないニャ。仕方ないから、食べてやるニャ」
ミーコは舌を出し、スープをなめ始めた。その姿は、上位の妖魔とは思えないほど可愛らしいものだ。ライムは、くすりと笑った。
やがて、ミーコはスープを食べ終える。口の周りを舌で丹念に拭い、ライムを見上げる。
「いつかは、言わなくてはならないことニャよ。まあ、どうするか決めるのはお前たちと小娘だからニャ。あたしの知ったことでもないニャ」
そんなセリフを残し、ミーコはふっと消える。現れた時と同じく、唐突に消え失せてしまった。
「まったく、あのバカ猫は……食うだけ食って、好きなこと言って消えてったよ」
ひとり呟きながら、ライムの手はロミナの髪を撫でる。
できることなら、ずっとこうしていたい。だが、それはロミナにとって幸せなことではない。この娘は、人間社会に帰って行かねばならないのだ。
翌日。
「ひとりでお留守番は、つまんないのだ。壁とにらめっこは、面白くないのだ」
ぶつぶつ言いながら、ロミナはぼけーっと壁を見つめていた。
バロンは、朝早くから町に買い物に出かけている。ライムは、しばらく目を覚まさない。したがって、たったひとりでバロンの帰りを待たなくてはならないのだ。
やがて少女は、窓に視線を移し外の風景を見てみた。いい天気だ。
「今日も、お日さまポッカポッカなのだ。お外で遊びたかったのだ」
そんなことを呟いた時、後ろでカタンという音がした。振り返ると、そこには黒い猫がいる。
ロミナの顔が、ぱっと明るくなる。
「おおお、ねこどんなのだ! 久しぶりなのだ!」
「あのニャ、あたしは化け猫のミーコだニャ。ねこどんじゃないニャよ。何度いえばわかるニャ」
面倒くさそうに言ったミーコだったが、ロミナは聞いていない。手を伸ばし、黒猫の背中を撫でる。
「おおお、ねこどんの背中はモフモフなのだ。素晴らしいのだ」
感嘆の声と共に、黒猫の背中やお腹を撫でまくる。ミーコは少し迷惑そうな顔をしながらも、されるがままになっていた。
「ところで、あの人狼は出かけてるみたいだニャ。町に行ったのかニャ?」
普通に尋ねるミーコに、ロミナも普通に答える。
「そうなのだ。ロミナも、町に行きたかったのだ」
言った後、ロミナは溜息を吐く。
「お父さんもお母さんも、困ったさんなのだ。まだ、あんな芝居を続けるつもりなのだ。ロミナは、ちゃんと知ってるのだ。ふたりが本当のお父さんお母さんでないことも、人間でないこともわかってるのだ」
「だったら、早く言ってやれニャ」
「それは言えないのだ。気づいていたと知ったら、お父さんもお母さんも気まずいのだ。だから、ふたりが言ってくれるまで待ってるのだ」