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海の世界

 次の夜も、海亀はクラゲを食べながら散歩をしておりました。するとどうでしょう。隣町の海亀の一家が、肩を落としてこちらに向かってきておりました。


 海亀は彼らに近づき、どうしてそんなに元気がないのかと尋ねました。すると海亀の父さんが訳を話しました。

「私の母さんが病気になったと聞いてね。みんなでお見舞いに行くんだよ。あんなに元気だった母さんが、病気になるなんて」

 隣にいた妻の海亀が言いました。

「ここ最近、病気になる方が増えているわ。それに食べ物も減って飢えてる方も。やっぱり何年かに一度は疫病やら飢饉に悩まされてしまうものなのね。あなたも気を付けて」

 海亀の家族はそう言い残すと泳いでいってしまいました。


 海亀は、確かに、と思いました。最近は海の者の住人の間で、やれ誰が病気にかかった、やれどこの食べ物が減っているだのよく耳にします。それと同時に人魚のことが心配になりました。

「あの子は、大丈夫なのだろうか」

 海亀はそんなことを考えながら、飢える前にもう一つクラゲを食べようと海面に近づきました。




 人魚も、歌を歌いながら夜の海を散歩しておりました。今日は海亀と何を話そうか、そんなことを考えながら海亀の家に向かうのです。けれどもその途中で、尾ひれに痛みが走りました。


「痛いっ!」


 そう言いながら尾ひれに目をやると、ひれが傷ついておりました。恐る恐る手を伸ばすと、何かが手に触れました。けれども何も見えません。人魚は首をかしげ、それからもう一度泳ごうとしましたが、うまく泳げませんでした。何かに捕まれているかのように、前に進めないのです。


 人魚はもう一度確かめようと尾ひれに顔を近づけて、ぞっとしました。



 一匹の魚の子が、あおむけになって、死んでいたのです。

 月の光で見えました。透明な、糸が、その子と、人魚に、絡まっておりました。


 人魚は途端に怖くなって泣き出しました。


「助けて。助けて。いや、いや!」


 涙ながらにそう叫んでいると、一匹の蟹が横切りました。そして人魚に絡まった透明な糸を切ってやったのです。

「大丈夫だよ、お嬢さん。ほら、もう泳げるだろう?」

 蟹はそう言いながら、かわいそうな魚の子に絡まった糸も切ってやりました。けれど人魚はまだ震えておりました。もう死んでしまった魚の子が、暗い海の向こうへと漂っていく姿を、見ておられませんでした。


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