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人魚の友達

 海面にうつる月は、違う静けさを持っておりました。波が寄せては返すたびに形は歪み、風が通るたびにさざめきました。


 美しい月光が差し込む水底を、一人の人魚が泳いでおりました。鱗と尾ひれはそれこそ月長石のように、ころころと輝いておりました。たなびく髪には真珠の髪飾りがちりばめられておりました。


 彼女は優しい歌を歌いながら泳いでおりました。水中とは思えない程透き通って響くその歌声に、海の生き物たちは耳を傾けるのでした。その海亀も、そうでした。


 彼は人魚の一番の友達でした。立派な甲羅になめらかなひれ、そして黒真珠のような瞳を持つ、これまた美しい海亀でした。人魚は海亀を見つけると、嬉しそうにそちらへ泳いでいきました。


 そして、いつものようにクラゲを食べていた彼に、声をかけるのです。

「こんばんは、食いしん坊さん」

 そして海亀のそばに腰を下ろしました。海亀はクラゲをごくんと飲み込んでしまうと、言いました。

「どうしてこんな浅いところにいるんだい?人間に見られたら、きっと捕まってしまうよ」

 海亀は心配そうに水面を見上げました。コンクリートの波止場がかくかくと海中の世界を黒く線引いております。


 波止場で砕ける波を下から見上げながら、人魚はため息をつきました。

「平気よ。でも、こんな場所に長居したくないわね。こんなに視界が濁っている海、きっと体に悪いわ。はやく沖に行きましょう」

 海亀は、たいして変わらないよ、とぼやきながらもう一匹クラゲをくわえて彼女について行きました。


 ふたりは沖に出ました。冷たい海の中でふたりが泳いでいると、その目の前を一匹の鯨が横切りました。なんて大きな鯨でしょう。まるで海の主です。けれども実は、この鯨もふたりの友達でした。鯨はふたりに気がつくと、その大きな瞳でふたりを見つめ、ゆったりと落ち着いた声で語りかけました。

「かわいい小さなお二人さん、こんばんは」

「久しぶりに会えて嬉しいわ。元気だった?」

 人魚がそう尋ねると、鯨は優しく目を細めました。

「見ての通りさ。それよりお二人さん、今日の月はもう見たかい?綺麗なもんだよ」

 ふたりがまだ見ていない、と首を振ると鯨はぐぐんとふたりの下に潜り、それから頭にちょこんとふたりを乗せました。そして、そのままどんどん海面に近づいて、一つの大きな島のように顔を出したのです。


 海面から顔を出して空を見上げると、夜空には美しい満月が輝いておりました。人魚はその美しさにうっとりしました。海亀も息を飲みました。

「今日の月は、いつもより大きく見えるねえ」

 下から鯨が言い、さらに続けました。

「私はね、君達と見る月が、大好きなんだよ」


 ふたりはそれから鯨と別れ、再び夜の海を泳ぎだしました。それから人魚も海亀と別れ、それぞれ自分の家に戻るのでした。


 人魚は家に戻ると自慢の髪を梳き、うろこを磨いて眠りにつきました。


 海亀は家に戻るといつものように甲羅を珊瑚に引っ掛けました。しかし引っかけた珊瑚が崩れてしまったので、海亀は仕方なくいつもとは違う珊瑚に甲羅をひっかけて眠りにつきました。



 なんて穏やかな海底の世界なのでしょう。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  いつもと同じでもいつもと違う日を人魚や亀や鯨といった「有り得ない生き物」「目にしやすい生き物」「存在はするが物的にも精神的にも巨大な生き物」を配置することで表現できている。 [一言]  …
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