1ヶ月が経ちました
「カティア。君との婚約を破棄させてもらう」
1度目から1ヶ月の間、夢の中で私は16年を5度体験した。
お姉様には秘密と言われてしまったから、誰にも言い出せてないけれど。
王太子殿下の突然の婚約破棄宣言。
それに至るまでの道筋は、どれも違うものであった。
夜会の瞬間から夢は始まる。
しかし、まるでそれまでのことを一瞬で体験したように、違う生き方をしていても、どんな生き方をしていたのか理解できた。
1度目は、まだ無邪気にこんなことがあった。結末を変えようと思っていた気もする。
2度目は、少し変えたところで、結末が変わらないのだと知った。
3度目は、シルビエ様初対面だったのに無理だった。
4度目は、そもそも婚約をしなかったのに、家族ぐるみの犯罪と冤罪をかけられた。
5度目は──。
何故夜会で宣言するのか。油断しているからか。劇的な方が印象に残るからか。
階級の低い令嬢との物語のような結末を迎えるためには『悪役』が必要であった。
それに選ばれてしまった『お姉様』と私は、どんな手段を用いても、必ずあの夜会で兵士に拘束されてしまう。
16年を5度、経験した。
アルマリーニ先生だけではなく、他の家庭教師の先生方も、私が変わったという。
恐らく、3度目の夢を視た後にアルマリーニ先生を怯えさせてしまったのがきっかけだったようにも思う。
私もおかしいと思う。夢の内容を全て覚えているなんて。
「失敗、して、しまったわね……」
5度目の夢。お姉様は、迫りくるシルビエ様の信者から私を守って、刺されてしまった。
まるでドレスを広げたような血溜まりの中で、お姉様は私に手を伸ばす。
王太子殿下は流石に慌てて何かを叫んでいたが、あれよりも、大切なお姉様が傷ついてしまったことに、私はとても強い衝撃を受けて、何も言葉が出ない。
ただ、ただ。倒れたお姉様を助けて起こすだけで。
止血しなきゃとか、信者を捕まえなきゃとか、医者を呼ばなきゃとか。色々なことが頭を巡っているのに、震える手で、お姉様が伸ばした手をにぎる事しかできなくて。
「イリア……次は、どう、あっても……変えられない、のなら──」
お姉様の呟いた言葉に、理解が追いつかない。
今、この『お姉様』は傷ついてしまったのに。
私の、力が足りないせいで。
なのに、お姉様は自分のことではなくて、私に次を託している。
「私達が、一体なにをしたっていうの!?」
視界の端に誰かが駆け寄るのが見える。
唯一兵たちに捕まらなかったが、一番最悪の結果になった5度目に。
私は悲鳴を上げた。
次が長いので短めです
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