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永満亭の早瀬さん  作者: 塩コンブ
第零章 出会い
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7. 微笑み

ヒロインの初デレ!


「それじゃあ!スゴロク大会開始〜!」


「賞品と罰ゲームは後々考えるね〜」


俺たちのスゴロク大会が今、始まった。


ちなみに座っている場所だが、テーブルにスゴロクを置き囲むように座っている。

俺は無事、早瀬さんの横を確保した。

早瀬さんは右隣で、左隣は先生。

さらに早瀬さんの右隣はシュンさん、シュンさんの右隣はフミさんだ。


「じゃ、これがみんなの駒ね。それと説明書」


そう言って、みんなに将棋駒ぐらいの大きさの駒と、説明書が配られる。

駒にはご丁寧に『世良』と名前が彫ってある。


「あ、このゲームは幸せポイントってのが多い人が勝ちだから」


「幸せポイント?」


「例えばお金を1万円もらったら幸せポイント100!とか、そういう感じ」


「あぁ、なるほど……」


「それじゃあ開始!」


シュンさん、早瀬さんは特になんのイベントもなく進む。

次は俺の番だ。サイコロを転がす。4だ。


「えーっと、あ、イベントマス」


「ほんとだ!いいなー。効果は………交通事故だね」


「げぇっ」


「足止めをくらう。1日休み!」


「1日休みかぁ………………1日!?」


「うん1日」


「すごろくの世界で?」


「え、現実世界だけど」


「あははー、淀みないクソゲーですね」


世良、最下位決定。


「じゃあ次私〜」


先生がサイコロを転がす。出た目は3。


「えと、何々?壊れた時計を直してもらう。幸せポイント50と、右隣の休みをなくす。だって」


「まじか、やった!」


「あはは、じゃあ次は私ねー」


こうして、すごろくは進んでいく。

みな順調にポイントを稼いでいき、現在トップは先生とシュンさんだ。


「来た!就職ゾーンだ」


どうやら俺は就職ゾーンに入ったらしい。

ここでいい職につけば、一気に逆転ができるかも!


俺はサイコロを回す。


「3!は……………」


「えーと………あ、これは!」


マスに書いてある説明を見る。

これは…………


「職業、無職。ニートとなる。幸せポイント−200だね」


「なんでだぁ!なんすかニートって!これもう俺の負けじゃないですか!とっくに負けてるじゃないですか、社会的に」


「じゃあ世良くんには【働けカード】をあげるね。これを持ってると、あらゆる幸せがマイナスになるよ!」


「ニートにだって幸せぐらい…………」


「ないない!あったとしてもその瞬間だけ。後で倍になって返ってくるから」


「ですよねー………」


「あ、私は人気アイドルだって〜。服とかメイクとか、すっごいオシャレなんだろうなぁ」


「奈々ちゃんはプロより化粧上手いでしょ!だってもはや別人のい「次許可なく喋ったら全身脱毛ね〜!」


「まじで?最近剃ろうと思ってたからちょうどいいや!」


「いやだなシュンさん〜!剃ったりクリーム使うわけないでしょ?」


「え、じゃあどうやって?」


「抜くんだよ〜。一本一本………」


「わお、きっつ!」


なんとなく、先生に化粧がNGワードなのはわかった。


「次フミさん!」


「あらら私は大企業の社員ですってー。ポイント200ね」


「へー、フミさんいいなぁ………」


「それは違うよ世良くん!仕事ばっかりでも辛いよ!」


「それは仕事ある側の意見ですよ………」


「思ったよりニートに染まってるわねぇ」


その後、シュンさんはフリーター、早瀬さんは政治家となった。


そして、すごろくは仕事ゾーンへ突入。

一人一人、職業によってイベント内容が変わるのだ。


「支店長にランクアップ!趣味の範囲が広がる!幸せ100!」



「…………………賄賂によって大臣になる」


「賄賂!?」


「…………………プラス援交…………ポイント250………」


「大丈夫かこの国……」


「闇深いね〜」


「今すぐ全国の政治家に謝った方がいいですよ」



次は俺の番。サイコロを振る。


「ん?異世界に転生?」


「おー、これはニートの特権だよ!異世界でチート無双ハーレム!幸せポイント500だね!」


「500!?最高じゃないですか!」


まさかニートにこんなボーナスステージがあるなんて思わなかった。

これなら今からでも逆転は全然あるぞ。


「あ、今のニート世良はチートだから……」


「ニート世良ってなんだ!?」


「チートは何回も連続でサイコロを振れるよ!」


「え、まじすか。やった!」


サイコロを再び振る。

今の俺は全てがチート。このまま振り続けて、ゴールすることも可能なのか。


サイコロは4で止まる。

駒を進めると、そこはドクロマークが描いてあった。


「あれ、ドクロマーク。………何々、現実世界に戻る……」


「あちゃー、チート終わりだよ」


「え、終わったらどうなるんですか?」


「現実世界で、異世界との落差に絶望。−1000ポイントだね」


「…………………ちゃんと働かないから」


「早瀬さん!?」


「結局現実なんてそんなもんだよ〜」


「そうねぇ。ゲームの世界でチートでも、現実の体は衰退する一方。廃人と笑われ、老後になっても1人虚しく死ぬのが関の山ね」


「ハーレムも所詮ゲーム!現実ではいつまで経っても皮被り童貞のまま!」


「タチ悪いのがそれで捨てた気になってドヤ顔してることだよね〜」


「…………………ギャルゲーで彼女作った気になってる人以下………」


「とうとうやばい奴!」


「童貞ていうか、童帝だね!」


「もうやめて!尖った現実で滅多刺しにしてこないで!これすごろくの話だから!そんなによってたかって言う必要ないでしょう!?」


俺の心に1万ダメージ………


しかもこういうときに限って早瀬さんのノリがいいのはなんなの?いじめ?


「あ、ちなみにラストもう一回だけ世良くん回せるよ!」


「あ、まじすか……」


サイコロを転がす。


「ハロワに行く…………−300ポイント…………」


「あちゃー」


「なんでだぁあ!ハロワに行って就職できるなら幸せじゃないですか!?」


「そら、望んでニートになったような人は働いたら負けだからねぇ」


「くっそ、忠実………!」


「次は私〜。握手会、−100ポイント」


「まぁ、実際変なとこ触って来るやつとか絶対いますしね」


「本人は握手会なんて地獄だろうね」


俺がマイナスのポイントを大量に獲得してしまった間にも、他のみんなはどんどんポイントを稼いで行く。


シュンさんはYou○uberになって大成功。

早瀬さんは法律ごと変えて自分を正当化。

先生は人気アイドルから、俳優業へとシフトチェンジ。売れっ子となった。

フミさんは会社の部長へ昇進。


かたや俺は、やっとの思いで就いた会社がまさかのブラック企業。せっかく貯めたポイントが一気に弾けとんだ。


「やった!結婚して子供ができる!300ポイント!」


「いわゆるデキ婚ってやつだね」


「あ、私も結婚〜。子供はいないけど。200だぁ!」


俺、先生は結婚をした。


俺は子供を5人、先生は2人授かった。


そして、ゲームはいよいよ終盤戦。


「…………………ゴール…………」


「あ、彩ちゃん早〜い!」


早瀬さんはすでにゴール。俺は進行度では最下位。

とはいえ、これはポイントの高さで勝敗が決まる。

焦る事はない。慎重にポイントを稼いでいくべきだ。


「えと、浮気がバレて離婚。が、浮気相手と再婚できる。300ポイント…………………え、これ……ちょ、え………」


「どうしたの?プラスだよ?」


俺が戸惑っていると、シュンさんが優しい目で俺を見る。


「で、ですよね!喜んでいいですよね!や、やったー!」


「うわぁ、世良く〜ん。死んだらいいのに」


「え、先生……?」


「嫌だわ、菜々ちゃん。もうすでに死んでるわよ〜。社会的に」


「フミさんまで……」


「自分はお金は払うけど浮気相手と再婚できるから結局プラスってのがまた酷いよね!」


「おいてめぇごら」


「…………………最っ低………」


「ゲームの話ですからね!?」


続いて、先生とフミさんもゴール。

勝負は俺とシュンさんの一騎打ちとなった。


「ふっ、そろそろ本気を出そうかな………世良くん」


「な、なんすか………」


シュンさんは駒を進めると、いきなり訳のわからないことを言い始めた。


「これが見えないかい?」


「はぁ?」


シュンさんが指差したのは、自分が止まっているイベントマス。


「道端に落ちていたカードを拾った?」


「そう!これで俺はデッキから5枚のカードを引き、手札に加えることができる!」


(なんか始まった…………)


「俺は手札のカードを一枚墓地に送り!」


(墓地!?)


「このカードを特殊召喚することができる!出でよ!バイト先のオカ・マスター!これで世良くんを攻撃!ポイントを300消し、自分のものにする!」


「ちょ、なんすかそれ!」


「ターンエンドだ」


(な、なんのゲームだこれ…………)


「じゃ、じゃあ俺もサイコロ振ります………」


残念ながらカードはもらえない。


「ふふふっ、終わりだよ!俺は腹違いのゴリラを発動!これで俺は今からサイコロ2つ(ダブル・コア)だ!」


「ダブルコアだと!?」


「さらに!このカードを召喚!虐げられた椎茸!」


(ダジャレかよ……)


「こいつとバイト先のオカ・マスターで世良くんを攻撃!くらえ!」


「ゲームだけじゃなくて、プレイヤーもクソなんですね」


と、俺が諦めかけたそのとき、


「…………………まだ………世良くんの働けカードを発動………」


「えっ、早瀬さん!?」


早瀬さんがなぜか俺の代わりカードを発動させる。


「はっ!そういえば世良くんは働けカードを所持している!」


「…………………そう、働けカードは相手のカードの力を跳ね返す。それと、カードを一枚引くことができる……」


「えっ、そうなの?」


「しまった!俺のポイントが!」


俺はとりあえずデッキから一枚カードを引く。

これは………!


「俺は三分前のムスカを発動!

これで俺はサイコロ3つ(ミラクル・コア)!」


「くっ!馬鹿な!」


サイコロを3つ同時に振る。


6,6,4だ。


「これで合わせて16マス!ゴールだ!」


「ま、負けた…………ふっ、良い勝負だったよ……」


シュンさんはそう言うと、俺に手を差し出す。


「シュンさん…………」


「世良くん…………」


「………………」


「………………」


俺は黙って、シュンさんの手を握り、熱い握手を交わし───





「って、なわけあるかぁ!」


「えー、今すごいいい雰囲気だったのに」


「いいわけないでしょ!?大体なんなんですかこのクソゲーは!?おれ危うく初手で負けるとこだったんすよ!?」


「カードゲームと混ぜるのは結構いい線行ってたと思うんだけど」


「そんなわけないでしょ!」


「あ、俺罰ゲームだけど何がいいかな?みんなの前でギャグ百連発とか?」


「罰ゲームって、勝った方への罰ではないんすわ」


「えー、でも!────!」


「──────!」


「──────!」


2人がいつものように口論し、それをフミさんが優しく見守る。


そんな中、1人だけがその僅かな変化に気がついた。


宮博がふと横を見ると、早瀬が2人の様子を見ながら僅かに口角を上げ、優しい表情をしていた。


(あ、笑った…………)


その後、早瀬は立ち上がる。


「…………もう遅いし、私は部屋に戻って寝る……」


早瀬さんはそう言って、和室からせっせっと出て行く。


俺は急いで後を追い、女子エリアの寸前で呼び止める。


「早瀬さん!」


「…………………なに」


無表情だし、無愛想だし、言葉もそっけない。

でもいつもより、雰囲気が柔らかい気がした。


(言うなら今だ!)


「あのときの、答え………」


「…………………?」


「楽しいかどうかってやつ」


「それはあのとき……」


「俺は!…………俺は楽しいです。早瀬さんと話したり、こうやって遊ぶの。だから…………たまにでいいんで、こうして遊んだり、話しません?」


「…………………別に、お世辞とかいらない。気を使わなくてもいい……………」


(うっ、ダメか…………)


そう思ったとき、早瀬さんはわずかに笑い、俺の目を見る。


「でも………ありがとう……………」


今度は本じゃない。

正真正銘、俺だけに見せてくれた微笑み。


早瀬さんはそう言うと、部屋に戻ろうとする。

俺は急いで声を上げる。


「や、約束ですよ!」


「…………………わかってる」


早瀬さんはコクリと頷くと、そう言い残し去っていった。


「ぷはぁぁ……………」


俺は思わずその場にしゃがみ込む。

顔のニヤケが止まらない。






─────俺の幸せ、1万ポイント………






「とか思ってるんだろうなぁ」


「やだちょっとここ童貞くさ〜い!」


「あんたらねぇ!!」





良い雰囲気のままでは終わりません。



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[一言] 更新お疲れ様ですm(_ _)m (ΦωΦ)フフフ・・分かってましたよ、今回のオカマキャラがシュンさんなのは。もっと詳しく…… 良かったですね、早瀬さんとの距離が縮まって。
[一言] 更新お疲れ様ですm(_ _)m 今回のオカマキャラがシュンさんなのはわかってましたよ。(ΦωΦ)フフフ・・もっと詳しく…… 良かったですね、早瀬さんとの距離が縮まって。
[一言] 更新お疲れ様ですm(_ _)m 今回のオカマキャラがシュンさんなのはわかってましたよ!(ΦωΦ)フフフ…もっと詳しく…… 良かったですね、早瀬さんとの距離が縮まって。
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