5. 入居者
入学式と、試験を終え、なんやかんや一週間耐えきり、今日は金曜日。
この生活とシュンさんにも慣れてきて、もう何も思わなくなった。
そういえば1つだけ衝撃的なことがあった。
「世良く〜ん。お酒、新しいの持ってきてー!」
先生の酒癖がめちゃくちゃ悪いことだ。
「はぁ、飲み過ぎですよ」
「うるさいなぁ。教師って疲れるんだよ?飲まなきゃやってられないよ〜」
「これをクラスのみんなが見たらどう思うか………」
先生は帰ってくるなり部屋着に着替え、酒を飲み始めた。もう完全におっさんだ。
「中身おっさんでお爺ちゃん属性ありって、誰得ですか。いくら外見よくても………」
「だからぁ、学校ではちゃんと猫かぶってるでしょ?癒し系とか男子高校生が一番好きだしね」
そう言うと、シュンさんが俺の言葉に反応する。
「いや、外見もそんなに良くないよ?」
「あ?殺すぞ?」
「ひっ!」
えぇ…………
外見が良くないってどうゆうこと………?
てか、怖っ!
なんか俺だけ現実に引き戻されたみたいでショックだ。
「って、いいからお酒!」
「いやあの……」
「もー!奈々ちゃん?いい加減飲みすぎよ?」
先生の言葉に今度はフミさんが反応する。
管理人ということもあるのか、先生はフミさんには反抗できず、ただ今絶賛説教中。
本来人を叱る教師が酒癖で怒られてんのか。
「あー、そういえばいつ来るの?」
「え?何がですか?」
「あの入居者だよ。世良君の同級生の」
「あぁ、たしか明日来るって言ってたわよ」
「えっ!?増えんの!?」
「そうよ」
同じ学校で歳も同じ。
女子って言ってたし、早瀬さんのことについて何かアドバイスもらったり出来るかも。
俺がそんなことを考えていると、シュンさんが急に手を上げて、叫ぶ。
「今、世良くんがいかがわしいこと考えてました!」
「お、本当?世良。まぁ女子と同じ1つ屋根の下ってのは」
「考えてませんから!いたって健全!」
大体、俺は好きな人がいるんだ。
別に他の人に手を出したりはしない。
「俺は好きな人いるって言ったでしょ!?」
「へー、同じクラスなの?ん?」
「ぐ…………内緒です!」
「じゃあその好きな子が入居者だったら?」
「そ、それは………」
部屋着や寝巻き。
さらには気が緩んで寝顔とかも見れるかもしれないのか…………
いいかも………
「あ、はい!今のは完全に考えてました!だって顔が気持ち悪かったもん!ニヤニヤしてたもん!」
「してない!あくまで健全!寝顔まで!」
「あっはっはっ、童貞の想像力じゃそれが限界だよね〜!」
先生は大笑いしながらそう言う。
なんとなく、童貞と言われるのに腹が立つ。
「ど、童貞じゃないですよ!」
「はいはい………とはいえ安心して?そんなうまい話ないから」
「ぐっ………わかってますよ!」
でもやっぱ、家なら笑ってくれたりすんのかなぁ……
◇◇◇
「早瀬彩です。よろしくお願いします」
「は〜い、よろしく〜」
(あ、あったぁぁぁあ!)
ま、マジか。あったようまい話!
「ん?あれ?世良くんの好きな人ってたしか……」
「シュンさん………俺今なら死んでもいい」
「おぉ、そんなに!?でもそっかー。やっぱ印象は出だしで決まるよね!よし!ここは俺の爆笑ギャグで!」
シュンさんは何を思ったのか、ベルトを外し始めた。
あ、これ俺のときと同じやつするつもりだ。
「いや、やめてください絶対に。俺まで変人って思われたら嫌なんで」
「えー!」
そう言っていると、ふと先生がいないことに気づいた。
いつも大体和室にいるので珍しい。それに入居者が来たんだ。普通いるもんじゃないか?気になって、先生を探しに行く。
とりあえず和室を出て、ロビーの椅子のとこを見ると、普通にいた。
「あれ、何しんてんすか先生」
「世良くん…………いや……2人も担当クラスがいるってのはちょっと心にくるものがあって」
「何が?」
「しっかりしなきゃいけないのかなぁって………」
「今更でしょ。それより早くいきましょう?俺たちだけまだ挨拶してないんですから」
「そ、そうだね…………ていうかなんか嬉しそうだね?」
「え、えぇ。そうですかぁ?」
いかんいかん。なんというか嬉しさで顔がふやけてしまいそうになる。
シュンさんの言う通り、出だしが肝心。キリッとしたところ見せなきゃな。
「もしかして、早瀬さんが好きな人だったりー?」
「ぶふっ!」
「なーんてうまい話…………………え?」
「…………」
「えー!そうなのー!童貞の夢が叶うなんて。おめでとう」
「う、うるさいです!早くいきましょう!」
そうして、再び和室へ戻る。
中では、すでに2人とも挨拶を終えて、早瀬さんは早速本を読もうとしていたところを、先生が声をかける。
「えーと、早瀬さん?いや………彩ちゃん?」
「え……………」
先生の方を向くと、早瀬さんは驚いた顔をして固まっている。
「実は私もここに住んでるんだ。家賃安いし、元バイトだから。よろしくね?」
「…………………あ、はい。よろしくお願いします……」
早瀬さんは、静かに頭を下げる。
よし!次は俺の番だ。がっつきすぎず、引きすぎず、ちょうどいいところを狙っていこう。
「あ、早瀬さん!俺もよろしく!」
「…………………よろしく」
「あ、あのさ!俺たち同じクラスだね!いやぁ、担任までここで一緒のなんて超奇遇じゃない?」
「…………………?」
早瀬さんはわからないという表情をして、頭を傾ける。
え?
「え?あれ?知らない?」
「…………………誰?」
「「ぶふぅっ!」」
「うるさいですよあんたら!」
後ろでは、シュンさんと先生が吹き出す。
あぁぁぁ!ミスったぁ!そうだよ、そりゃそうだよ!
あんだけ人に興味ありませんって顔してんだもん!
馴れ馴れしすぎた……………
顔は既に真っ赤だ。
「あ、いや…………同じクラスです。よろしくお願いします………」
「…………………よろしく」
そう言うと、早瀬さんは本を読み始める。
まいっか、まだまだゆっくり、時間をかけて話せる仲になろう。
やっとヒロインがまともに登場しました。
ただ、物語がまだ全然決まってない………
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