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永満亭の早瀬さん  作者: 塩コンブ
第一章 永満亭
44/44

44. 角なし直線関係

遅れてごめんなさい。短いです。ごめんなさい。


「んで、ここが休憩室。基本フリーな店だし、暇なときはいつでも来て休んでいいよ」


「はーいっ」


 新人バイトの大矢田(おおやだ) 圭介(けいすけ)葉月(はづき) (まい)

 俺自身もバイトはもう慣れたので、同年代の先輩ということで俺は舞ちゃんの教育係に任命された。本来ならこれは早瀬さんの仕事になるはずだったのだが、まぁ、コミュニケーション状の問題ということで俺が引き受けることとなった。

 ちなみに舞ちゃんという呼び方は、

『私のことは舞ちゃんって呼んでくださーい! 先輩!』

 と言われたのでそう呼んでいる。


「いやぁ、バイトってガチガチなイメージがありましたけど、こんなゆるゆるで、優しい先輩! 結構いい感じですね〜」


「ははは、まぁたしかに。でもここが特殊なだけだよなぁ。あんまり社会経験にはならないかもね?」


「いやいや、上司とのあーだこーだなんて学校でもう習うんでいいんですよ」


「たしかに」


「肩が楽ですねー。ほら、やわやわですよ!」


 舞ちゃんは肩をブンブン回すと、俺に肩を近づける。


「ほら!」


「んー、たしかに。とても受験生の柔さじゃねーなぁ」


 舞ちゃんの肩を揉んでみるが、本当に柔らかい。コリ一つない。これが女の子の肌か……


「あっ、変なこと考えました?」


「かっ、考えてねーよ!」


「あはは、スケベー! バーカバーカ」


「バカ!?」


「アホ! マヌケ! クソチ○ポ野郎!」


 嬉々として悪口を言う舞ちゃん。軽く頭を小突く。


「こらこらこら、悪口のエスカレートが酷いな」


「あ、ごめんなさい。つい。前に軽めの痴漢に遭ったことがあって……」


 舞ちゃんは瞼を下げる。嫌な思い出させてしまったかもしれない。


「もしかしてそれ以来そんなふうに? 気にしなくていいよ! ごめんごめん」


「いえ、そいつは上段回し蹴りで撃退しました。私が愚痴吐いたら最近のガキは云々言って来たんで」


「えっ、これもしかして脅し!?」


「はい!」


「こっわ」


 こんな感じで、舞ちゃんは大和撫子って感じの見た目とは裏腹に超アグレッシブ。逆に圭介は大人しめではあるが気の利く奴だ。


「先輩先輩!」


「ん?」


「はい! プレゼントです!」


 俺に手を向けると、パッと開く。


「うわっ!」


 出てきたのはGだった。


「あはは、えい!」


 そしてGを投げつける。Gは俺の顔へ激突。


「ひっ! やめっ!」


 だが、Gは特に何もすることなく地面に落ちていく。


「…………?」


 動かない。


「くくくっ、ただのおもちゃですよ〜。いやぁ、見事に騙されましたねぇ?」


「ッ……! 騙されてへんわい!」


 と、こんな感じでバイトは今日も進んでいく。


◇◆◇


 神視点だよ!


「あの2人、まだ一週間目なのにすっかり仲良くなったね〜?」


「…………」


 店長は本の上から覗くように2人を見ている早瀬にそう問いかける。


「ほら見て。世良くんも舞ちゃんもあんなに楽しそうに笑ってるよ」


 店長と早瀬の視線の先、2人は何がおかしいのか笑い合っている。

 その2人に横から圭介が乱入し、世良に頭を下げている。


「あっ、世良先輩! 先日はありがとうございました! おかげで昨日は捗りましたよ!」


「おっ、そうかぁ。そりゃよかったよ。あそこは特に難しいもんなぁ」


「えぇ、あれだけがどうしてもわからなくて」


 今度は3人で笑っている。


「こないだ、世良くんが圭介くんに勉強教えてあげたんだって。すっかり圭介くんも世良くんに懐いちゃって」


「…………」


「あの3人、なんか同じゲームやってるみたいで意気投合してるってよ」


「……………そう」


 早瀬は本に視線を落とし、文字を読み始める。それを見て、ニマニマと笑う店長。


「ねぇねぇ。…………嫉妬、してる?」


「っ…………! ……何が?」


 早瀬の目が見開く。


「いやぁ、だってねぇ? ついこないだまでは世良くんと彩ちゃんの2人セットで仕事してたのに、今は彩ちゃんは1人。かたや世良くんは舞ちゃんとセット。休憩中は大抵圭介くんと話してるし」


「……………それが?」


「世良くんが取られたみたい。…………嫉妬しちゃわない?」


「なっ! ……なわけないし!」


「えぇ〜? ほんとぉ?」


「し、つ、こ、い!」


 怒って本をバンッと閉じて、その場から去る。そのとき、ちらりと世良を見たが、やはり舞達と楽しそうに笑い、話しているだけだった。


◇◆◇


「ありがとうございましたー!」


「へいへーい」


 バイトが夜に終わると、舞ちゃんから

『女の子を夜道、1人で歩かせるつもりですか!?』

 と言われたので、家までわざわざ送る。


 そうして、悠面荘のドアを開ける。


「ただいま〜」


 そう言うと、みんなはおかえりーと返してくれる。


「あれ? お前遅かったなぁ。彩ちゃんと一緒じゃねぇのか?」


 菊井さんが早瀬さんをチラリと見ると、急に思いついたような顔をした後、ニヤニヤとしだす。


「あっ、そうか! あれか。テメェなんかと一緒には帰れません。時間ずらしてくださいってやつか。あははっ、残念だったなぁ。さくらんぼ世良、ここに散る」


「違うわ! 日が落ちてるんで、新人のバイトの子送ってたんですよ」


「あぁ? 送ってたぁ? そいつは1人で帰れもしねーのか? 情けない男だなぁ」


「女の子ですよ。まぁ、1人で十分帰れると思いますけどね」


 痴漢に上段回し蹴り……

 多分5人同時ぐらいなら襲われてもなんとかなると思う。


「ただ話がしたかっただけじゃないんですか? 同年代だし、もう1人の新人は帰りが真逆なんで」


「んな……アホな……」


「? 菊井さん?」


 ガックリと頭を下げる菊井さん。だが、その表情は一瞬で怒りへと変わる。


「っざけんな! 貴様如きがバイト先で後輩とキャッキャッのウフフだとぉ!? 非モテクソチ○ポ野郎のお前がぁ!?」


「そのフレーズ二回目……」


「許すまじ……! お前は二度とバイトには行くなぁ!!」


「なんでだよ! 行くに決まってるでしょうが!」


「青春ぶち壊し隊!」


「悪魔か! 別にそういうのじゃないですって! 別に痛い勘違いとかもしてませんから!」


「うるせぇ! そういう問題じゃねぇんだよ! いいか? お前は勘違いすることも許されないんだ。恋愛相談受けるとかそういうのもダメ。そこにいるだけ。そこにいて特に何もしない。それがお前の役目だ!」


「ただのボッチじゃねぇーか!!」


「うっわ、聞きましたー? こいつ今彩ちゃんのことバカにしましたよー?」


「そのセリフがすでにバカにしとるわ!」


「……………チッ」


「あれ!? 違いますからね!? 早瀬さん!?」


 小さい舌打ちが聞こえた気がしたが、早瀬さんは相変わらず本を読んでいるだけだ。


「あれ? でもそういえば世良くん、舞ちゃんのこと清楚な感じで可愛くてタイプだって言ってたよね?」


 店長が突然ニヤニヤと笑いながらそんなことを言う。


「な、ん、だ、とぉ?」


「あっ、ちょっ、やめてくださいよ!」


 店長の口を急いで塞ぎ、早瀬さんに聞こえない声量で注意する。


「早瀬さんがいる前でそんなこと言わないでくださいよ! 変に誤解されたくないんですって」


「大丈夫だよ。別にお前のこととか気にしてねーから」


「うぐっ、うるさいですよ!」


「いや、意外とそんなこともないかもしれないよ?」


「あ?」


 菊井さんに揶揄われるが、店長がそれを少し真面目な顔をして否定する。そして早瀬さんを顎で指す。


 早瀬さんは瞳に少しだけ涙を溜めている。


「えっ…………早瀬さん……?」


「っ……!」


 俺が声をかけると、すぐにバッと立ち上がる。


「……………部屋、戻る……」


「早瀬さん!」


 そう言い残すと、早瀬さんは居間から去る。


「なっ、嘘……だろ……?」


「ね? 彩ちゃんも意外と意識してるんだよ」


「えへへ〜、そうなんすかぁ〜。いやぁ、まいったなぁ。あぁ〜、明日にでも誤解とかないとなぁ〜」


「ぬわぁぁぁ! ムカつく! こんクソが!」


「じゃっ、俺も寝まーす。おやすみー!」


 吠える菊井さんを背に、スキップしながら部屋へと戻った。


◇◇◇


 神視点


 翌日、それはバイトの昼休みに起こった。


 恥ずかしそうに頬をわずかに赤く染めながらも、覚悟を決めた真剣な目をした少女。

 驚きのあまり、間抜けな声をだし、若干の挙動不審になる少年。

 本を読みながらも、2人の声を聞き、目をわずかに見開く少女。

 それらを見てニヤニヤする加齢臭腐れオヤジ。

「あれ? 僕の紹介文だけおかしくない?」


 休憩室に響いた舞の一つの声。


「先輩! お話があります。バイトが終わったら、2人きりで会えませんか!?」


 少しだけ、みんなの関係が変わり始めていた。





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