2. 悠面荘
結局、あのまま何の接点もないまま入学式は完全に終了した。
話しかけようとは思ったが、クラスのみんなとRINEを交換している間にどこかへ消えていた。
(って、どこかっつっても家なんだろうけど………)
分かってはいたが、やはりそういうのは疎いらしい。
(初日からクラスの人とも交流ゼロって…………)
俺もこれ以上ここにいても仕方ない。
「はぁ…………帰るか………」
そうして、学校を出て、言われた住所を見ながら進む。
というのも、帰るといってもこの地域自体が初めての場所なのだ。
どうしても一人暮らしというものをしたかったので、親に無理を言って、させてもらった。
といっても、条件がある。
まず、宿泊先だが、普通のアパートとかではない。
そして俺は、バイトをして小遣いは自分で稼がなければいけない。一人暮らしをするためなら、特にしたい部活とかもないし問題はない。
ただ、少々特殊なのがバイトと宿泊先の関係。
そのバイトはなんと、住み込みで働くことができるバイトらしいのだ。
そしてその宿泊先というのが、そのバイト先の店長の知り合いがやっている旅館の離れである。
無事にバイトの面接も終え、俺は住み込みバイトとして、一人暮らしをすることが決定したのだ。
◇◇◇
「ここか…………」
離れの門の前に立つ。看板が立っており、悠面荘と書いてある。
「よし、行くか…………!」
扉を押し、ゆっくりと門を開ける。
中の景色が目に入り込み、男の声が聞こえる。
こちらに気づいたようで、笑いながら近づいてくるのがわかる。
俺もその方向を見る。
「あははははー、見てみてー!変態紳士〜!」
見ると、パンイチでネクタイをつけ、黒い帽子を被り杖を持った男がいた。
「失礼しました〜」
黙って門を閉める。
「ふぅー、おっかしいなぁ………場所間違えてたみたいだ!うん!そうだよな!間違い間違い!」
「間違ってないよ〜!」
「うわっ!」
門から顔だけ出して話しかけてくる。
てか、さっきは気づかなかったけど、この人めちゃくちゃイケメンだ。
同じ男でも見惚れてしまいそうになる。
「ほらちゃんと見て!変態紳士!」
これさえなければな…………!
「やですよ!なんなんですかあなた!」
「え?同居人だよ〜!」
「嘘だー!」
「何が?それより早く入りなよ!」
男は笑いながら俺の腕を引っ張り、無理やり中に入れる。
「ぎゃぁぁぁ!」
中に入ると、そこには大きな建物がある。
(でかい……………)
離れとはいえ、さすがに立派だ…………
(俺、今日からこんな立派なとこに住めるのかぁ)
バイトはあるが、これなら十分すぎるぐらいのハイリターンだろう。
クラスには可愛い女の子と一緒だった。
(俺の高校生活幸先いいぞ!)
そのとき、ポンっと後ろから肩を叩かれる。
振り返ると、右手でサムズアップして笑ってる。
「これからよろしくね!」
(あ、超ハイリスクだった)
「やーだぁぁ!俺のキラキラの高校生活を汚さないでくださいよ!」
「何が?」
「なんなんですかあなた!?」
「だから同居人だって」
「嘘だぁぁ!嫌だぁぁ!」
「何がさー。それより、俺のギャグどうだった?面白かった?」
「やだこわぁぁい!」
「ねーねー!」
「いやぁぁぁ!」
なんなんだこの人。本当に怖い。しかもしつこい。
俺とこの人が言い合いをしていると、声がかかる。
「ん?あら?もしかして世良くん?」
見ると、おばあさんがいた。
(あ、この人見たことある。たしか管理人の)
「はじめまして。私 宗川 文美子よ〜。とりあえず中に入りましょ?」
「あ、はい」
◇◇◇
言われた通り、案内されるがまま建物の中へと入る。
今はロビーのような場所で、2人と向かい合って座っている。ちなみにイケメンの人は服を着てきた。
「あ、えっ……と、俺は 世良 総庸です。はじめまして……」
俺が自己紹介をすると、すかさずイケメンの人が声を上げる。
「へー、総庸かぁ。まさに平凡って感じの名前だね!」
「あんたが特殊すぎるんでしょうが!ちょっと!この人なんなんですか!」
「あらぁ、ただの同居人よ?世良くんと同じバイト先の」
「はぁ!?」
「俺は 江藤 俊一。よろしくね!?」
「ごめんなさい。あなたとよろしくできる自信がありません」
「えー、そんなことよりさっきの俺のギャグどうだった?変態紳士!面白かった!?」
「面白いわけないでしょ!ただの変態じゃないですか!?」
「まぁまぁ、2人ともそれは後でじっくり話して?」
「はーい!」
「今も後もじっくり話すつもりないんで大丈夫です」
「とりあえず部屋案内するから〜」
「あ、はい。よろしくお願いします……」
(良かった。この人はわりと常識人だ)
とりあえず、管理人さんの案内に合わせて、離れを回る。
ざっくりいうと、離れにはこのイスが何個かあるロビーと、奥に共同スペースの和室。隣に台所があるらしい。そして、廊下を進むと、男子エリアと女子エリアに分かれており、許可なく立ち入ることはダメだそうだ。トイレ、お風呂もエリアに1つずつあって、男女別。浴場には洗濯機があり、そこで洗濯する。
そうして最後に、自室に案内される。
「さ、ここが世良くんの部屋。5号室よ〜」
「ありがとうございます……」
そうして、部屋のドアを開ける。
「わ、意外と広い………!」
部屋にはベッドとテレビがあり、一応簡易的なキッチンのようなものがあり、小さい冷蔵庫付きだ。
それでいて、まだスペースは十分ある。
「でしょでしょ?そこら辺のアパートよりずっと広いんだよねー」
「す、すごい………」
「気に入ってもらえたかしら?」
「もちろん!もう最っ高です!」
見た感じ、壁を厚そうだ。
(こんなところでほぼ一人暮らしなんて最高だ!)
学校には好きな人。家は広い。バイトでお金も稼げる。今のところ欠点が見つからない。
「え、そんなに俺と住むのがいいの?」
「忘れてたぁぁ!あなた見た目だけはいいから、異常者ってことすぐ忘れちゃうよ!」
「あ、ちなみに俺は3号室だから!暇のときは言うね!」
「あんたが言うの!?言ってねじゃなくて!?」
「だってどうせいつでも暇でしょ?」
「暇じゃねぇよ!やることいっぱいありますよ!」
「あぁ、ヤること………」
「そうじゃねぇんだよ!」
「一人は何かと大変だよね〜」
「それはたしかに………ってうるさいですよ!ちょっと黙っててくださいよ!こっちが今感動してんだから!」
「じゃ、後でまた俺のギャグ見せにくるね〜!」
そう言って、江藤さんは自室に戻っていく。
何もかも完璧な俺の青春高校生活が今の一瞬で壊された気がした……………
こんな感じで進みます。ヒロインがちゃんと絡むのはもう少し先になります。ごめんなさい。
ブックマーク、高評価、ご感想、よろしくお願いします!