1. 一目惚れ
どこが?と聞かれたら上手くは答えられないだろう。
ただ、あのとき俺は、一目惚れをしてしまったんだ。
私立 春宮高等学校 入学式。
中学のときのなんら変わりない、先輩達の演奏に片耳だけ預ける。すごいのはわかるが、別段興味はない。
その後も式は続く。先生達はそれぞれありがたいお言葉は長々と語っていく。義務教育の卒業式という行事を乗り越えた生徒達にとって、先生方のお祝いの言葉は胸の皮一枚のとこで折れてしまうし、この程度の長さの耐久で根を吐く者もいない。
ただただ、退屈な時間が過ぎていくのをまるで他人のような目で見ているだけなのだ。
しばらくして、式は終わりを告げた。
その後は各教室で、担任の挨拶があるらしい。
それぞれ、先生の指示に従って移動する。
◇◇◇
「はい、皆さん改めておはようございます!」
「「「………ざぁす」」」
中々テンション高めの先生だ。
このクラスでもみんな、初めましての人が多い。距離感のわからないこの空間で、先生のテンションに合わせて返事をするほど馬鹿じゃない。
「改めて、これから一年間、6組の皆さんの担任を務めることになった、宮博 菜々でーす!よろしくお願いします!」
先生の自己紹介。歳はいくつかは教えてくれなかった。
中々顔の整った、癒し系の顔をしている。
その後も、保護者等に渡すプリントや今後の説明などが行われる。
しかし、そんな先生の話をよそに、教室は随分とざわつき始めている。といっても、別に誰かが喋っているわけではない。目線や、態度がうるさいのだ。
もちろん、理由はすぐにわかる。
先程から男子達がチラチラ見ている先、
ある一人の女子生徒が異常に輝きを放っていた。
美少女だ。童顔で優しそうな雰囲気がありながらも、背は高めで、出ているとこは出て、引っ込む場所は引っ込んでいる。
まさに女神。
この学校に入学する前、風の噂でとんでもない美少女がこの学校に入学するということを聞いていたが、おそらくその人物だろう。
たしかに、その生徒はとんでもなく美人で、どれだけ見てても飽きないほどである。
ほんと、ずっと見ていられる。
(って、いかんいかん。これでは中学の二の舞いじゃないか。もうあんな思いだけはしたくない。俺は普通に生きるって決めたんだ)
そう自分に言い聞かせ、首を無理やり動かす。
苦手だったり、嫌いなわけではないが、あんな風に注目されるような女の人にはどうにも弱い。
向いた先には、同じく何人かの生徒が映っていた。
(俺はもっと、おしとやかな感じの女の子がいいんだ。そうそう、丁度こんな感じで……)
その中で、ある一人の女子生徒が、俺の目を奪う。
顔は中性的で、髪はかなり長い。前髪は眉毛ほどまでしかないが。
スンと通った鼻筋、綺麗な二重に、長いまつ毛、小ぶりな唇。
さっきの女子と比べてても、顔の整い方なら変わらない。
ただ、この生徒は何より顔が中性的。可愛い系ではあちらの方が格段に上だし、では飛び抜けて美人というわけでもない。同列だろう。それに何より一番違いは表情だ。さっきの女子は少しだけ優しく口をあげているのに対して、この生徒は無表情。まるで氷だ。
なんというか、明らかな一人オーラ。
陰が薄い。
その生徒は、先生が話している途中だというのに、読書を始めている。
本にはブックカバーが付いており、なんの本かはわからない。でも、おそらく難しい本でも読んでいるのだろう。本は分厚いし、あの表情がそれを物語っている。
(んー、美人なんだけど…………あの子はちょっとちが…………!)
「ッ!?」
思わず思考が停止してしまう。
その女の子が、男が考える女の好きな仕草で多くの票を獲得するであろう髪を耳にかけるという動作をしながら、わずかに優しく微笑んでいた。
別に先生の話におかしな点があったわけではない。誰かが急に爆笑ギャグをし出したわけでもない。
この教室の誰でもない、あの微笑みは、あの子が今読んでいるたった一冊に向けられたものだった。
体中に電撃が走る。
時間にして十数秒、その一瞬の表情の余韻に浸り、動けなくなってしまっていた。
(なんなんだ……………今の…………)
心臓の音が速く、大きく聞こえる。
ギャップ萌えというやつだろうか?
誰でもするような表情が、彼女の場合特別に映って見えた。
いや、ギャップ萌えというにしては少々強すぎる。
おそらく俺は、ギャップ以前に彼女の笑顔そのものに惹かれたんだろう。
あの体中に電気が流れるような衝撃。
間違いない。
俺は今この子に、一目惚れしてしまった。
新作、始まりました!
前作と違いシリアスほぼなしのほのぼので進めようと思っています。
前作と重ねてお読みいただけると嬉しいです。
番外編として、前作キャラと絡ませる、クロスオーバー的なのもやりたいと考えています!
ブックマーク、高評価、ご感想、よろしくお願いします!