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Mid space nine  作者: 繁都舞夢
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副司令官 着任


 多くの士官の着任報告を受ける中、なかなか決まらなかった副司令官の名前を見つけて、カノアは一瞬書類を()る手を止めた。

 父が選んだ人。

 前任地は、アンドロメダ系方面の前線基地に所属。父が自ら足を運んでその為人を確認したと聞いている。


 何を、話したのだろう。

 彼は知っているのだろうか。

 私の知らない、ワタシの事を。


 コココンっと扉をノックする音を聞き、カノアは書類から顔を上げた。

「ディビット・M・シェパード大佐です」

「はい」

 返事に呼応して、自動扉がシュンと、横開きに開いた。

「初めまして、カノア・カルティア司令官殿。副司令官着任の挨拶に伺いました」

 (にこや)かに入室してきたガタイの良い副司令官に、横に立つと更に自分が小さく見えるだろうなと心の中で嘆息をついた。

「初めまして、シェパード副司令官。カノア・カルティアです。Mid space nineへようこそ。あなたの着任を歓迎します。共に、地球連邦の為に力を尽くしましょう」

 自分が為人を確認した訳では無いので、取り敢えず失礼の無いように心掛けて言葉を選ぶ。

 着いていた机から立ち上がり大柄な副司令官を迎え入れながら、カノアは右手を差し出した。

 父が何を話しているか分からない。

 どこまで踏み込んでいいのか、どこまで踏み込ませてよいのかも分からない。


 差し出した右手を大きく温かな右手に包み込まれ、カノアは高い位置にあるシェパード大佐のにこやかに細められたコバルトブルーの瞳を見上げた。

「宜しくお願いします」

「……こちらこそ。基地の始動式は10日後です。着任早々で申し訳ないですが、シェパード副司令官には基地の現在の稼働状況から他の士官の着任状況のほか、私が確認を終えている全ての内容についての共有をお願いします」

 言いながら、カノアは机の右端に置いていたタブレットを開き、ディビットに確認してもらいたい資料について記載されたページを開いた。

「了解しました」

 タブレットを受取り内容を確認しつつ、ディビットは返事を返した。

「その他、副官の希望者がありましたら、早目に申し出て下さい。まだいらっしゃらないようですから」

「副官はいりません」

 タブレットから目を離さずに返した即答に、カノアがスカイブルーの瞳を少し驚愕に見開く。

「通常この規模の基地では副司令官に副官は付きませんし、なんらかの事情を鑑みての配慮なのでしょうが、私自身がその必要性を感じていませんので」

 にっこりと微笑まれて、カノアは複雑な表情でディビットを見上げた。

「……そう。なら今のところは無しでいくことにします。必要性を感じた時には、いつでも言ってください」

「言うように、で、いいですよ」

 応接セットの椅子に座ってタブレットのページを()りながら、ディビットが呟く。

「……私はかなり若輩なので、気が引けます」

 正直、シェパード副司令官については、父の息が掛かっていると思うと扱いに困るというのが本音だし、副官を介してやりとりが出来る方がありがたいくらいだ。

 ましてや、こうなった経緯について父であるカルティア提督からカノアに正式に説明が無い以上、カノアの口から第三者への説明は出来ない。

 多分、ちゃんとした説明はして貰えないだろう。

 否、説明など、多分出来ない。

「貴女は、正式な司令官です」

 ぱたんっとタブレットをカノアの机の上に戻して、ディビットがカノアの前に立った。

「少なくとも、私はそう思っています。大丈夫ですから、司令官として振る舞って下さい」

 にこりと微笑まれて、その笑みに裏は無い様に思われた。

「ありがとう」

「共に、力を尽くして行きましょう。我々は皆、運命共同体です」

 漆黒の闇の中に灯火の様に点在する星々の輝きのごとく、地球から遥か遠くに位置するこのMid space nine は、ここより地球からもっと遠くに位置する基地や宇宙空間を警戒監視しつつ移動する艦を後方から援護・支援するためのいわば寄る辺となる灯台(あかり)だ。

 付近を航行する艦の燃料・食料の補給や地球連邦軍の後方支援が主な役割ではあるが、いざという時には、要塞としてこの基地を砦にして外敵と闘わなければならないこともあるかも知れない。

 内部(なか)で、わだかまりを作る必要など無いでしょう?


 父と何をどこまで話したのか。

 何処までの距離を赦しても良いのかと言う事も、何も分からない。

 何も分からないけれど。

 決してカノアを子供扱いしないその態度が、カノアへの敬意を現しているように思えて。

「あなたが来てくれてとても心強いし、頼りにしているわ。宜しく。シェパード副司令官」

「私の事はディビットと呼んで下さい」

「……わかったわ。ディビット」

 再度握手を交わし、2人はしっかりと視線を交わした。


 信じることから、始めてみよう。


 

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