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Mid space nine  作者: 繁都舞夢
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チェイス・ギア大佐

基地も舞夢も。

試運転中。

配管ダクトの中を旅してはや5時間。

 就任前に自分が技術系として就任する予定の宇宙基地をある程度把握したいと考えて、メンテナンスの確認がてら配管ダクトに潜り込んだが、最新設備の搭載された基地のあり様に目を奪われ、興奮が止まらない。

「本当に最新技術のかたまりみたいな基地なんだな。コアなんてあんな輝きは初めて見た」

 多分、士官学校(スクール)や大学で学んできた技術のほとんどが役に立たなくなるのだろうが、それでもあの美しい輝きの前では小さな悩みに過ぎない。

 先程通り過ぎてきた基地中枢部の動力室のコアの輝きをうっとりと思い出しながら、チェイス・ギア大佐は次の環境ダクトの入り口へとにじり寄った。

 この先は住居エリアになるはずだから、そろそろ通常の通路に出ないと行けない。

 さすがに司令室あたりのダクトには正式に就任していないから入れないかと諦めて、始めから近寄りはしなかったが、コアを拝見出来たのは嬉しい誤算だった。

 本来なら、コアに係る主任以上のコードが無ければ近寄れなかった筈だ。

 まだ、そこまでセキュリティの設定が成されていなかったのだろうか?

 住居スペースに入った所で、チェイスは顎下辺りにあるパネルを丁寧に開いて通路に降り立った。パネルを丁寧に閉じて、ふと、自分の胸の辺りに人の気配を感じた。

「女…の、子」

「初めまして」

 にこりと微笑まれて、つられてチェイスも微笑みを返す。

「初めまして。もう家族で移ってきてる人がいるんだな。これから宜しくね」

 握手をしようと右手を出すと、少女はスカイブルーの瞳を一瞬驚いた様に大きく開き、そしてその瞳を細めて楽しそうに微笑んだ。

「コアも見てきたのでしょう? 感想を聞かせて?」

 ぎゅっと握手する手に力が込められ、チェイスはぎくりとした。

「あの、君…?」

「本当に美しい輝きよね。でも、この規模の基地に対して、あのコアのサイズや出力は大きすぎやしないかしら? 貴方はどう思う?」

 その内容から、この少女も既にこの基地の、チェイスが先ほど見たコアを見た事がある様だ。

「…そうですね。この基地は、ただ基地であるだけで無く、要塞の役割もあります。いざとなったら移動も出来、未知の生命体と闘う可能性まで考慮して造られたと考えれば」

 にやりと笑って、ウィンクをした。

「あの規模のコアがあっても、大きすぎることは無いのではないでしょうか。あとは、扱える技術者が必要なのでは。カノア・カルティア司令官殿?」

 答えに満足したのか、少女は小さく頷いた。

「15歳とは聞いていましたが、まさかこんなに小さいとは」

「気にしてるわよ」

「ああ。失礼。身長の意味では…」

カノアの身長は154㎝あたりなので、185㎝のチェイスのやっと胸あたりといったところか。

「あの大きさで、あの安定感は素晴らしいですよ。是非触らせて…いや、お世話させて…もとい、担当させて下さい」

 若干のマニアっぽい発言は聞かなかったことにして、カノアは改めてチェイスの手を握った。

「宜しくね。基地内システム系管理主任」

 にっこりと握手をして、ピキッと固まる。

「…は?」

「基地内システム系管理主任」

「………」

「きーちーなーいー」

「わっ分かりました! 聞こえましたから! でも、僕が主任で良いんですか?」

 質問に、カノアはスカイブルーの瞳を悪戯っぽく輝かせてチェイスのアンバーの瞳を見上げた。

「ある程度の人事の裁量は与えられているし、貴方はその歳で既に士官学校(アカデミー)卒業後に連邦最高峰のプレティア大学で機械工学において博士号も取得、特に動力関係の論文は今や大学の講義での使用を推奨される程。人望も厚く…って、褒めちぎってたわよ。少なくとも、謙虚な態度が嫌みに見えるくらいには。自信持った方がいいんじゃない?」

 にやりと笑ったその綺麗な瞳に、チェイスは照れながら後頭部に右手を当てた。

「ありがとうございます」

 その場から立ち去ろうとするカノアに、チェイスはふと聞いてみたくなった。

「ちなみに、人事ファイルの内容、全員分全部覚えてるんですか?」

 疑問に、カノアがちらりとチェイスを見上げた。

「当然」

「…何人分……?」

「知りたいの? この基地の規模は貴方なら分かってると思うけど」

「………」

 2千は下るまい。家族まで合わせたら、まさかの万………?

「あと、僕がここにいるって、分かってて待ち構えてましたよね?」

「ああ。ダクトの中にもセンサーがあって、遺伝子レベルで活動を管理されてるのよ。そう言えば、司令室の方には来なかったわね。あっちのメンテナンスも頼むわよ主任」

 全てを把握されていた事を知って、チェイスは深い溜息をついた。

「さすがと言うか。人事ファイルの件もですけど」

「当たり前でしょ。これから私が守らなければならない全ての人の事よ。把握できていなければ、落ち着かないわ」

 言葉に、息が止まるかと思った。


 1人残らず、全ての人の事を。

 大切に、一つの取りこぼしもなく護るために。

 まだ幼く見えるこの少女の小さな肩に、どれだけの重責がのし掛かっていると言うのだろう。

「貴女の元で働ける事を、誇りに思います。司令官」

 改めて敬礼をとったチェイスに、カノアも敬礼をかえした。

「貴方と此処で生きる時間を共有出来る事を光栄に思うわ。チェイス・ギア大佐」

 きっと、彼女は誰に対してもそうなのだろう。

 あなたのために生きたいと思わせる人。

 いいでしょう。

 僕も、あなたの護る手の中の一つの命として、あなたを護るために出来る限りを尽くして、此処で生きていきましょう。

 

基地内、知り合い第一号。

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